【山田五郎】銀座は「日本で一番良いもの」に出会える街だ

2020/12/25
【山田五郎】稼ぐのが上手い人ほど、お金の使い方を知らないのは何故か?
【山田五郎】「茶の湯、落語、美術」から学ぶクリエイティブ思考

「目利き師匠」と出会うには

──「目利き力」を高めるには、師となる先人を見つけることが重要である一方、現代の日本においてはなかなか難しい状況であるといいます。そんな中で、山田さんはどのようにしてご自身の師匠と出会ってきたのでしょうか。
「同じ趣味を持つ人がいる場所を見つけて通う」というのが第一歩。私の場合は時計と美術と古書が趣味でしたから、アンティーク時計店と画廊と古本屋さんが最初の先生でした。
自分の好みや価値観が固まっていなかった若いうちは、手当たり次第にお店を回り、店員さんに教えを乞う。そうやっていろんなものを見て触っていくうちに、だんだん自分の好みがわかってきて、通うお店も絞られてきますよね。
そうなると、そのお店に来る他のお客さんも自分と好みが似ているわけですから、会話も生まれやすくなり、尊敬できる先輩に出会える確率も高まります。
大切なのは、これはと思える相手に出会ったら、勇気を出して話しかけてみること。趣味の素晴しい点は、年齢や社会的地位を問わないところです。
仕事の場では口がきけないような偉い方でも、趣味の世界ではみんな平等。気後れする必要はありません。これは私のような収集系だけでなく、釣りなどのアクティビティー系の趣味でも同じだと思います。
──近年ですと高齢化などで閉店となるお店もありますが、インターネットなどの新たな環境で趣味の場は生まれていないのでしょうか?
もちろん、たくさん生まれていますよ。ただ、その場合でもやはりオフ会が欠かせません。アクティビティー系は現場に出なければ始まりませんし、収集系も画像や動画だけではなく現物を見ないと話になりませんからね。
情報を交換するだけでも、結局は直接会って話した方が効率がいい。ネット上の趣味のサイトは、新たな出会いのきっかけを与えてくれましたが、それだけにチャットやメールのやりとりだけで終わってしまってはもったいないと思います。
山田 五郎/編集者・評論家 
1958年東京都生まれ。上智大学文学部在学中にオーストリア・ザルツブルク大学に1年間遊学し、西洋美術史を学ぶ。 卒業後、講談社に入社『Hot-Dog PRESS』編集長、総合編纂局担当部長等を経てフリーに。 現在は時計、西洋美術、街づくり、など幅広い分野で講演、執筆活動を続けている。

飽食の時代にお金を使う価値とは?

──インターネットの普及で様々なことが便利になり、世の中の情報量が圧倒的に増えました。それによって食傷気味になることもあります。この飽食の時代にお金を使うことに山田さんはどんな価値を感じていますか?
私がお金を使うのは趣味の対象だけですから、自分が楽しかったり嬉しかったりするのが唯一最大の価値ですね。自分が寄付をしている博物館にたくさん人が来てくれたり、自分が応援してきた作家さんの展覧会が開かれたりすれば、単純に嬉しいじゃないですか。
自分が買った作品を展覧会に貸し出してほしいと頼まれたときなんて、微々たる謝礼と引き換えにその作品を飾っていた場所が何カ月も空くことになったのに、ものすごく嬉しかったですよ。
お金で買った絵ではありますが、そこから得られる喜びや楽しみは、お金には換算できません。たまに、自分が買った絵が何倍に値上がりしたとか自慢する方がいらっしゃいますが、それを言い出すともはや趣味ではなく、ただの投資になってしまいます。
せっかくお金には換えられない価値を得られたのに、お金の話に還元してしまっては、何倍に値上がりしようが結局は損をしているのではないかと思います。
── 経済合理性とは正反対の位置にあるものなのかもしれないですね。
おっしゃるとおりです。私はゼンマイで動く機械式時計が好きなのですが、時計に「正確な時刻を知る装置」としての機能だけを求めるなら、ソーラーバッテリーでGPS電波を受信するクオーツ式時計を選ぶ方が合理的です。はるかに正確で手間がかからず値段も安いですからね。
それに比べて機械式は、ただ機構が複雑というだけで、宝飾もないのに何千万円もしたりする。それでも機械式を選ぶのは、見た目の美しさや手触りのよさ、複雑な機構が見事に作動する際の快感に、お金には換えられない価値を見いだしているからにほかなりません。
何千万円もする機械式の時刻を数万円のクオーツ式で合わせている機械式好きは、たしかにバカ丸出しといえるでしょう。でも、いい大人が平気でバカになれるのが、趣味の素晴しいところなんですよ。
絵画だって同じですよね。他人から見ればわけのわからない落書きでも、自分の心が震えれば買う価値はあるはずです。機械式時計や絵画を買うのをお金の無駄遣いという人は、その喜びを知らないだけ。お金では買えないものをお金で買えるのですから、これ以上に有効なお金の使い方はないともいえるでしょう。
それどころか、たとえお金を使わなくても、見たり触ったりするだけでワクワクできて幸せな気持ちになれるのですから、趣味は経済合理性では測れません。
銀座には、世界中の機械式が集まる時計店や、名画が並ぶ画廊がたくさんあります。まずはウィンドウショッピングで、心が震える出会いを探してみてはいかがでしょうか。

「背伸び」の楽しさ 、その先にあるもの

── 銀座の画廊のお話が出ましたが、山田さんにとって銀座はどんな場所ですか?
銀座は「日本でいちばんいいもの」に出会える街だと思っています。上手にお金を使って人生を豊かにするための目を養うのに、これほど適した街はないでしょう。少し背伸びしてワンランク上のものを買おうとすれば、おのずと真剣に見比べますし、詳しく知りたいとも思いますよね。
銀座では、ものの見方や情報を教えてくれる最高のプロにも出会えますから、師匠も見つかるかもしれません。その知識を吸収し、さらに実際に買って使ってみて違いを実感することで、ものを見る目が養われる。そうなると、見える世界も変わってくるのではないでしょうか。
── なるほど、銀座は老舗や画廊などをはじめ「日本でいちばんいいもの」と出会える場。山田さんはその銀座をどう楽しんでいますか?
「ビクビクすること」が何よりの楽しみである気がしています。これは、銀座でしかできないことかもしれません。普段、買い物に出かけて緊張することって、そうそうないですよね。「客なのになぜビクビクしなきゃいけないんだ!」なんて思いつつも、ちょっと背伸びをして敷居の高いお店に入ってみる。そうやって場数を踏んでいくうちに、ビクビクしなくなってきて、自分の成長を実感する。そんな「背伸びする楽しさ」を教えてくれるのが、銀座という街だと思っています。
※次回に続く
【山田五郎】稼ぐのが上手い人ほど、お金の使い方を知らないのは何故か?
(構成:小俣荘子)
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