伊賀大記

[東京 11日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)の追加緩和を受けた金融市場は慎重な反応を示した。すでに織り込んでいた内容以上の施策ではなかっただけでなく、先行きの「正常化」に向けたニュアンスを感じ取ったためだ。株式市場が調整色を帯び始めているだけに、来週のFOMC(米連邦市場公開委員会)に向け警戒感を示す声も出ている。

<ECB直後は債券売りで反応>

ECBの決定発表直後の市場反応は債券売りだった。パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)は市場予想通り5000億ユーロ拡大されたが、延長期間が9カ月と市場予想の6カ月よりも長かったためだ。延長期間が長いことは、金融緩和が長期化することを意味するが、月当たりの買い入れ額は少なくなる。

さらにラガルド総裁が「パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の買い取り枠を使い切らない資産購入フローで、良好な金融状況を維持できるようであれば、買い取り枠をフルに活用する必要はない」と発言したことも嫌気された。

「ワクチンが普及すれば経済が正常化することも視野に入れてきているようだ。ただ、足元では感染が拡大しており、その前に景気が落ち込む可能性もある。今と将来の両方を見据えた折衷的な内容になった」と、三井住友銀行のチーフ・マーケット・エコノミスト、森谷亨氏は指摘する。

債券市場ではいったん売りで反応した後、「やはりハト派的な措置」(国内証券)との見方が広がり、金利は低下した。しかし、欧米株の反応もまちまちで、せっかくの追加緩和にもかかわらず、マーケットの歓迎ムードは盛り上がっていない。

<FOMC議事要旨で示された可能性>

市場がECB後に慎重な反応をみせたことで、15─16日の米FOMCに一段と注目が集まっている。正常化(引き締め)方向の材料に対して敏感に反応する気配が出てきたためだ。

次回のFOMCでは、資産購入について期間や年限などを含む新たなガイダンスを示し、金融緩和の長期化を示す可能性があるとの見方が多いが、同時に資産購入を縮小する際の具体的な条件を示す可能性もあるとみられている。

11月4─5日のFOMC議事要旨では「大半の参加者がガイダンスは、FOMCがフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を引き上げる前に、資産購入の伸びを減らし、そして停止することを示唆する内容であるべきだと判断した」と明記された。

「今の株式市場はS&P500でみて2年先の企業業績まで織り込んでいる。バブル的な様相が強まってきており、引き締め的なニュアンスが出れば、たとえ将来の話であっても、反応する可能性がある」と、ニッセイ基礎研究所のチーフ株式ストラテジスト、井出真吾氏はみる。

<現段階では議論にとどまるとの見方も>

一方、FRB(米連邦準備理事会)は現段階では引き締め的なそぶりはみせないとの見方もある。今の経済は資産効果による消費刺激など株高によって持ちこたえてる面があり、FRB自ら、それを損なうようなことはしないとみられるためだ。

みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト、上野泰也氏は「FRBには雇用と同時に物価の安定という目標がある。物価目標の達成が遠い中で、正常化に踏み出すことはしないだろう。議論はしても正式に打ち出すのは相当先になるのではないか」と予想する。

世界では英国などで、新型コロナウイルスのワクチンの承認と接種が一部で始まったが、普及に弾みがつくかはまだ予断を許さない。大多数にとって安全であっても、リスクがあると警戒されれば、接種率は高まらないためだ。

15─16日のFOMCでは、正常化に向けた手順を示すにしても、資産購入拡大など追加緩和との合わせ技で引き締め的な「匂い」を消す可能性もある。ただ、株高局面では、好材料だけを取り上げてきた市場だけに、調整色が強まれば都合の悪いところだけをフォーカスする可能性もあるとみられている。

(編集:青山敦子)