100年に一度の大変革に直面する世界の自動車産業は、モビリティ産業への変革を迫られている。世界の自動車産業が、電動化をはじめとする「CASE革命」の大激変や、MaaSへの対応を進めてきた。

そのさなかに新型コロナウイルスが突如として猛威を振るい、世界は一変した。これからのウィズコロナ時代の自動車産業における新常態(ニューノーマル)とは。

世界の移動ニーズと消費行動、市場特性の変化を読み解き、説得力のある数字に基づいて先行きを展望する書籍『自動車 新常態(ニューノーマル)CASE/MaaSの新たな覇者』(中西孝樹〔著〕、日経BP日本経済新聞出版)から、4回にわたってエッセンスを紹介する。

コロナ危機の2つの出口

世界の主要都市のロックダウンが連鎖し、需要と供給が同時に停止することで経済活動が封鎖状態となり、歴史的に最悪の不況を引き起すこととなったのがコロナショックだ。
コロナが生み出した負の連鎖はリーマンショックのそれとは性質が異なる。
コロナショックでは、需要消滅と生産調整が同時に起こっている。今回は余剰在庫は存在しておらず、むしろ世界的に新車も中古車も在庫が6月末に枯渇するという状態になった。
経済の悪化は瞬間的に起こり、とてつもなく鋭角的に経済活動は悪化する。
しかし、ロックダウンを解除し、経済活動を再開し財政出動を進めれば、新車の販売回復も急落からV字回復となるのである。
現段階で、世界の新車需要の短期的な回復に不安はほとんどない。その先の出口が見えないのがコロナの議論の本質だ。量的にも質的にも、自動車産業の出口はまだはっきりとしていないのである。
出口のシナリオは大きく2つの方向があるだろう。
ひとつ目は、アメリカ同時多発テロ(9・11)型の回復であり、特効薬、ワクチンなどの薬が早期に開発され、感染症の懸念は消え経済活動が早期に正常化するシナリオだ。
自動車の生産・販売は急速に回復し、構造変化も比較的小規模に終わる。

9・11がもたらした構造変化

9・11のときは、ウサマ・ビンラーディンを匿うアフガニスタンへ打ち込まれたミサイルが大きな威力を示した。
テロの恐怖に怯えた米国市民は、旅行は取りやめ、愛する家族とともに家に巣籠りした。テレビの前に釘付けになったという意味で、9・11とコロナには類似性がある。
1990年初頭、筆者は2機目の飛行機が激突したニューヨークの世界貿易センター南棟96階で勤務していた。
そこで1993年2月26日の地下駐車場に仕掛けられた世界貿易センター爆破事件と遭遇し、煙で充満した暗黒の非常階段を2時間以上かけて避難した経験がある。
その後帰任して出張でニューヨークを再訪し、2001年9月4日9時にアポがある南棟の98階のオフィスを訪れていた。ちょうどそのピッタリ1週間後、ユナイテッド航空175便が9時3分に南棟へ激突したのである。
モーターショー視察でフランクフルトへ移動していたが、その瞬間をテレビのライブ報道で目撃した。
衝撃は今も忘れることができない。そんな経験もあり、テロの恐怖に怯えた米国市民の気持ちを痛いほど理解できる。
首謀者へ向けてミサイルが発射され、テロに対する勝利を確信した米国市民は高揚した。家を飛び出し、新車を買い、家族と旅行に出かけた。
家族とゆとりあるドライブ旅行を楽しむために、「ライトトラック」と定義されるSUVやピックアップトラックといった非セダン型商品の一大ブームが訪れた。
9・11は巡り巡って新車消費を盛り上げる契機となったのだが、それが行きすぎて、リーマンショックを引き起こす遠因となったのである。

コロナ危機の本質論

話が横道にそれてしまったが、コロナによる感染の第2波、第3波が襲来し、特効薬、ワクチン開発に時間を要するとすれば、経済回復に長い時間を要するリスクシナリオがある。
2つ目の出口シナリオは、経済回復が遅れ、企業収益の長期的な低迷を招く場合であり、その先には金融システムリスクが再燃するようなリーマンショック型もあり得るということだ。
最終的にカネの流れも止められる、想像したくない悲惨な未来もありうるだろう。
ただ、リーマンショック型を信じるほど筆者は悲観論者ではない。恐らく現実的な出口とは、上記の2つの出口の混合型ということになりそうだ。
コロナに対する決定打は、特効薬やワクチンの開発・普及だろう。
世界の民主国家では、中国型の徹底監視、行動制御、検疫方法によるウイルス封じ込めの手法は現実的ではない。
一定の行動様式を推奨して、ワクチンや抗ウイルス剤を開発し、普及させるには、今後少なくとも1年から2年の時間を要するだろう。
9・11では多発テロ発生の翌月に米国はミサイルを発射したが、コロナは出口までかなりの時間を要するのである。
経済的に回復が緩慢で、感染リスクを抑制する行動様式を必要とするウィズコロナの時間を過ごすことにならざるを得ない。
そして、在宅勤務の定着や、公共交通利用の減少、脱都市化、新車購入からサービスに至るプロセスのオンライン化など、デジタル化のトレンドがパラダイムシフトとして自動車産業を襲う。
これはまさに自動車産業のデジタル革命、いわゆる「CASE革命」を手繰り寄せる構造変化に等しい。リーマンショックが新興国の時代を手繰り寄せたのと同じように。
※本連載は全4回続きます
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