2020/11/17

KDDI版「ジョブ型」制度はなぜ生まれたのか

NewsPicks Brand Design Editor
 一括採用・年功序列を前提とした「日本型雇用」の見直しが叫ばれ、ついに大企業にも変革の風が吹きはじめた。
 実行に移すには、欧米由来の「ジョブ型」をむやみに取り入れるのではなく、日本型雇用の長所と組み合わせた形を模索する必要がある。
 10月26日、オンラインイベントNewsPicks LIVEでは、ジョブ型時代の働き方・キャリア作りについて多様な識者とディスカッションを実施した。
 セッション第2部では、今年8月にジョブ型をベースに取り入れた、新たな人事制度を導入したKDDIの取り組みにフォーカス。
 NewsPicks発のキャリアメディア『JobPicks』編集長の佐藤留美が、KDDIの執行役員で人事を統括する白岩徹氏に、ジョブ型導入の真意を聞いた。

なぜ、「ジョブ型」を導入したのか

佐藤:早速ですが、KDDIが新卒学生向けに「ジョブ型採用」を始めたのはなぜですか。
白岩:実は、2020年4月入社者の採用時からジョブ型の新卒採用を始めていました。
 今年8月に導入したのは、KDDI既存社員に対する新たな人事制度(KDDIジョブ型)への移行の号令です。
 では、先んじて新卒採用にジョブ型を取り入れていたのはなぜか。
 それは、以前と比べて、自分のバックグラウンドや能力に裏打ちされた「やりたいこと(=WILL)」持ち、その能力を入社後すぐに活かせる会社に就職したい、と考える学生が増えてきているからです。
 経団連による就活ルール改定もあり、今までのように一括採用し、研修を経て一斉に部署へ配属する、そんな慣例は、過去のものになり始めていました。
 いわゆる「就社」をして、会社に入れば一生安泰という時代から、一人ひとりがやりたいことを追い求める時代にシフトしたのです。
 ならば、企業サイドも、当然変化せざるをえません。
佐藤:そこで、ジョブ型採用を設置した。今までの採用とはどう違うのですか。
白岩:前提として、新卒学生全員をジョブ型として採用するわけではありません。
 私たちは、初期配属領域を特定する「WILLコース」と、初期配属領域を特定しない「OPENコース」を併用して採用を進めています。
 ただし、WILLコース=未来永劫その職種、と限定するのではなく、あくまで「入社時の初期配属領域を約束する」というもの。
 本人のキャリアプランに合わせて、入社後のジョブチェンジもありえます。
 今年10月の内定者、つまり2021年4月に入社する社員のうち、約4割がWILLコースの採用。来年にはさらにWILLコースの枠を拡大し、WILLコースとOPENコースでの採用割合が5割ずつになる想定です。
 もう一つ、ジョブ型に移行した理由があります。それは、中途社員の採用数が増えていたことです。
 私が人事部に来た2013年当時は、中途採用数は20名程度だったのですが、この7〜8年で約9倍の180名に増加。
 中途社員は、前職の経験やスキルをベースにしたWILLコースでの採用です。
 と、なると新卒採用の40%、中途採用の100%がWILLコースですから、ジョブ型を志向した新たな人事制度が必要になった、というわけです。

「日本流ジョブ型組織」のつくり方

佐藤:だから、全社でジョブ型を取り入れたわけですね。どんな特徴があるのですか。
白岩:ジョブ型に移行すると申しましたが、正確にはジョブ型と(日本の)メンバーシップ型のエッセンスを組み合わせた、「ハイブリッド型」です。
 全体コンセプトは「プロを創り、育てる制度」。そのために、5つの指針を掲げています。
 上3つにある「成果報酬」「ジョブディスクリプションの明示」「WILLと努力を尊重したキャリア形成」は、ジョブ型のエッセンス。
 下2つの「成長機会の提供」「専門外領域へのチャレンジを許容する姿勢」は、メンバーシップ型に由来しています。
 これらを残したのは、特定領域の成果だけを評価するのではなく、利他心や挑戦心といった人間としてのベースを同時に育みたい、そんなKDDIの人財育成ポリシーから来ています。
佐藤:そう考えると、初期配属を特定しないOPENコースと、ジョブ型のWILLコースを組み合わせているのも、ハイブリッドと言えますね。
白岩:そうなんです。海外と比較して、日本では学生時代に専門分野を持ち、スキルを磨き上げる、というスタイルがまだ一般的ではない。
 そこで、OPENコースとして多様な職種を経験し、そこから専門領域を見つける、というキャリアパスも用意しています。その結果、ゼネラリストを目指したい、という社員も歓迎です。
 また、WILLコースとOPENコースの人材が混在するわけですから、お互いに対するリスペクトや対話も欠かせません。OPENコースの上司にWILLコースの部下がつく可能性もありますからね。
 そこで、キーになるのはリーダーの意識醸成。トップダウンで改革を進めるべく、約2000名の所属長・グループリーダーに、半年間かけて徹底的な研修を行っています。
 意識変化ができないリーダーはマネジメントから手を引かざるを得ません。強い言い方になりましたが、それくらいの覚悟を持ってやっています。

思いは、変革の原動力になる

佐藤:両コースに共通して、KDDIが求める人物像はありますか。
白岩:もちろん、細かい条件は多々ありますが、「あるべき姿に目を向け、具体的な目標を立ててやり抜く力のある人」「周囲と真摯に向き合い、思いを一つにし、変革していく力のある人」の2つは強く提示しています。
 会社の目指すゴールと自分のゴールが重なり合っていて、そこに対してコミットメントできるかどうか。
 そして、KDDIは多角的に事業を展開していますから、事業部や職種を超えたコラボレーションに挑戦し、周囲と真摯に向き合い、「思い」を一つにできるか、です。
 この「思い」というのが非常に重要で、変革を起こす際の原動力になると考えています。
 私個人としても、社員の思いを最大限に尊重し、そこから生まれるチャレンジを応援していきたい。成功や失敗にとらわれず、まずはとことんやってみてほしいんです。
佐藤:今回のジョブ型組織への移行も、白岩さんの思いから生まれたとお聞きしました。
白岩:ええ。私はもともと営業畑の人間で、入社以来20年ほど営業企画やカスタマーサービスの仕事をしていましたが、ある日いきなり人事に配属されたんです。
 思い返せば、当時の社長に「今の人事制度でいいんですか」と提案したことがあって…ならばチャレンジしてみろ、と無言のメッセージをもらったんだと解釈しました。
 そこで、個人一人ひとりの能力を活かす組織を作りたいという思いから、ジョブ型の制度を導入する改革を進めたのです。

「ジョブ型=自分がやりたいことだけをやる」ではない

佐藤:そんな背景があったんですね。ちなみに、白岩さんご自身も学生時代から強いWILLをお持ちだったんですか。
白岩:いやいや、そんなことなかったです(笑)。入社して、さまざまな部署を経験することで、少しずつ自分の強みややりたいことを見つけていきました。
 ただ、自分の経験を振り返ると、異動によって新たな領域で仕事をしたことが、俯瞰的に事業を見る視点につながっていた、とも感じるんですね。
 だからこそ、OPENコースの方はもちろん、WILLコースの方にも、自身の専門能力を伸ばしてもらいつつ、いろいろな現場を経験して職能を身に着けてほしいと思っています。
 つまりジョブ型だからといって、やりたいことだけをやればいい、というわけではないし、ゼネラリストを目指すからといって、専門性を身に着けなくていい、というのも違う。
 お互いのいいところを取り入れつつ、社員全員が経験と能力の幅を広げるべきだ。そんな考えから生まれたのが、このハイブリッド型の人事制度なのです。
佐藤:非常に腹落ちしました。最後に、今日お話しいただいたような「個」のキャリアの形成に、KDDIとしてどのように向き合っていきたいとお考えですか。
白岩:後にも先にも、一人ひとりとの対話が鍵を握っていると思います。
 これまでは、トップダウンで矢印が一方向的でしたが、ジョブ型組織では双方向性のコミュニケーションが欠かせない。
 たしかに、僕一人が1万人以上の従業員と1 on 1をするのは難しいと思います。
 けれど、今まさにマネジメント層やリーダー層に、対話の必要性を伝えていますし、コンセンサスもできはじめている。
 対話を丁寧に積み重ねることで、「個」のキャリア形成のロールモデルをたくさん生みだす組織にしていきたいと考えています。