2020/11/11

【人事必見】新時代の人事の役割は「創造開発のエンジン」だ 

NewsPicks, Inc. Brand Design Editor
 コロナ禍で働き方・組織の在り方が大きく変化するなか、根底から人事戦略の見直しが迫られている。
 企業の根幹である“人”との向き合い方が大きく変わるいま、新時代の「人事」が担うべき役割とは何か。
 その答えを求めて、去る10月15日、クラウド人材管理ツールを開発・提供するカオナビとNewsPicks Brand Designはオンラインイベント「“個を活かす”マネジメント改革2020」を開催した。
 本レポートでは、先進的な人事戦略・改革を実践してきた先駆者であるニトリホールディングス組織開発室 室長の永島寛之氏と、コクヨワークスタイルイノベーション部 部長の鈴木賢一氏による白熱のセッションを徹底再現。
 前半は二人から「先進的な人事戦略/改革の実例」を紹介。後半ではカオナビCOOの佐藤寛之氏がモデレーターとなり、新時代の人事に求められる役割を議論した。
 また記事の最後には、圧倒的な熱量であった本イベントのダイジェスト動画を案内する。

人事施策は「個人の成長」を原点とする

永島 あらゆる人事施策は「個人の成長」を原点とすべきである。これが私の基本的な考え方です。
 個人の成長が組織の成長になり、社会課題を解決して世の中を変えていく力になる。それをテクノロジーの力で成し遂げることを目指し、さまざまな取り組みをしてきました。
東レ、ソニーを経て、2013年にニトリへ入社。2015年より採用責任者、2019年より人事責任者へ。長く携わったマーケティングの顧客視点を人事に導入し、HRテックを駆使した「学習型タレントマネジメント」を開発。「個の成長が企業の成長。そして、社会を変えていく力になる」という考えのもと、従業員のやる気・能力を高める施策を次々と打ち出す。
 私はメーカーでマーケティング畑を歩いてきたので、ニトリで人事の仕事をするようになってからも、マーケティングの視点を活かして、採用から教育、人事制度の設計、HRテックの導入までを行っています。
 マーケティングをしていた時代から、私が最も大事にしてきたのが「ドラッカーの5つの質問」を意識することです。
■ドラッカー 5つの質問
Q1 使命は何か
Q2 顧客は誰か
Q3 顧客にとっての価値は何か
Q4 成果は何か
Q5 計画は何か
 マーケティングにはさまざまなフレームがありますが、この5つの問いで多くのことは解決できると考えています。なかでも「顧客は誰か」「顧客にとっての価値は何か」を常に大切にしてきました。
 さらにここ10年ほどで大きなムーブメントといえば、やはりデジタルマーケティングの登場であり、それによって顧客接点が変わりました。
 従来は“1to all”で顧客をマスで扱ってきたのが、“1to1”で扱えるようになった結果、カスタマーエクスペリエンス、つまり顧客体験がクローズアップされ始めています。
 そこで皆さんに問いかけたいのが「人事にとっての顧客は誰か?」です。
 自分たちの顧客を経営者や社長だと思っているケースも多いのですが、人事にとっての顧客は社員や求職者、入社予定者です。つまり私たちの顧客は、組織側ではなく「社員」だということ。
 この至極当たり前のことが、あまり考えられていない現実がありますが、私は非常に重要な点だと考えています。
 よってDXを「お客様の体験が良い方向へ変わること」と定義し、「HRテックを活用する動機は何か?」と考えるなら、答えは「従業員の体験が良い方向に変わること」であるべきです。
 省力化によって人事の仕事がラクになるとか、人件費が低減されて役員が喜ぶといった動機ではありません。
 それを踏まえて「人事の仕事とは?」と問われたら、私は「Employee Journey(従業員体験)をデザインすること」と答えます。
 社員の入社から、志とする社会課題の解決までの道のりを、一人ひとりに合わせてパーソナルデザインする。それが人事の仕事です。

「ジョブ型か、メンバーシップ型か」の議論は意味がない

 昨今では、「ジョブ型か、メンバーシップ型か」というテーマがよく議論されます。
 しかし、両方とも経験した立場から言うと、この比較はあまり意味がありません。なぜなら、どちらも組織開発の観点でのみ話をしていて、「個人の生産性を上げる仕組み」を考えていないからです。
 ですからこの比較による議論は早くやめて、「組織の生産性か、個人の生産性か」という軸での議論がまたれます。そして、この二つの統合を可能にするのがテクノロジーです。
 HRテックによって会社と個人が1to1でつながることが可能な今の時代は、個人の生産性を追求し、個の成長を軸に組織開発を進めていくことが大切だと考えています。
 ニトリもそのためにテクノロジー改革を推進してきましたが、その過程で実感したことがあります。
 それは、適応課題と技術的問題を分けて考えることの重要性です。
 外部環境が変わるとすべてが問題に見えてしまい、あれもこれもとテクノロジーの導入に走りがちです。
 しかし、あくまでHRテックは組織・人材開発における適応課題の解決を手伝う手段であって、それ自体が目的になってはいけない。
 例えばWEB面接システムを導入するにしても、まずはどのような人材採用・開発をしたいのかを考えるのが先になる。
 特に現在は、コロナ禍によって外部環境が大きく変化していますが、ニューノーマルにだけ目を向けるのではなく、Beforeコロナから抱えていた適応課題、いわば“旧ノーマル”な課題に向き合い続けることが大切です。

「自律した社員」の育て方

 ニトリは過去33期連続で増収増益を続け、オーガニックに成長してきました。今後は非連続な成長を目指し、現在6000億円の売上高を2032年には3兆円まで伸ばす目標を掲げています。
 そのために採用にも力を入れ、入社した社員が3年間で自律するための人材プラットフォームを運用しています。
 これは本人の好奇心がモチベーションとなり、最終的には認知的動機付けによって自律的に行動できる人材に成長するための仕組みです。
 具体的には、各種の研修や学習カリキュラムを提供して本人の好奇心に知的な刺激を与え続けたり、3年に1度は配置転換して新たな挑戦ができる環境を用意したりすることで、自律までの流れを支援します。
 また年に2回は社員に「30年後まで」の配置転換の希望や自己育成プランを聞き、それをテキストマイニングでデータ化する実験をしたり、社員全員が利用できるグロービスの動画学習サービスの学習結果をデータ化したりと、多種多様なデータの活用も進めています。
 このプラットフォームもあくまで本人の好奇心を起点とし、社員がやりたいことと会社の経営理念や経営課題をどうつなぐかという考え方を基盤としています。
 「個人の成長」にコミットする人事をスタンダードにしていきましょう。それが私からのメッセージです。

「人の価値をいかに引き出すか」を経営の最優先に

鈴木 これからの時代、人材価値の向上に向けて人事は何をすべきか。私からは企業の実例として、コクヨの事例をご覧いただきながら考えていきたいと思います。
 コクヨはメーカーですが、モノを作れば売れる時代は終わり、新しい価値を創出しなければ生き残れない時代になっています。
コクヨの働き方改革コンサルティング事業責任者。住宅・デザイン・プロジェクトマネジメント・新規事業開発を経て、現在に至る。年間50社を超える改革相談を通じて「企業の課題」を整理し、組織としての「ありたい姿」を導出。社員の働きやすさに加えて、創造性・生産性・安全性といった組織ミッションの達成に向けて顧客プロジェクトをアクセレートしている。
 低成長が続き、社員が高齢化する中で、若い人材をどう確保していくか。消費者の価値観が多様化し、個が強くなる中で、いかにテクノロジーを活用し、新たな価値に昇華させるかが議論されてきました。
 さらにコロナ禍で、強制的な在宅勤務やテレワーク、経済的な低迷による危機感などが課題として露呈しました。
 これはコクヨに限らず、多くの企業に共通する環境変化です。
 では企業を取り巻く市場環境が急速に変化する中で、経営として何を優先すべきか。コクヨが出した答えは、「人の価値をいかに引き出せるか」です。
 「人は財産である」という考え方を根幹に、人の価値を引き出し、組織や個人の創造性を最大化する。その仕組みを創ることが、コクヨのHR戦略です。

「バトルシップ」と「プレイワーク」

 人の価値を引き出すために、私たちは2つのコンセプトを設定しています。
 1つは、「人の成長に賭けるバトルシップになる」です。
 不確実性が高く変化のスピードが速い今の時代は、対応力を高めて競合との激しい戦いに勝たないと会社は沈みます。
 よってこれからコクヨの船は、勝つために今までの戦いを変える勇気と、新しい変化や競合との戦いに負けない強さを持たなければなりません。
 そのためには、いかに「人の成長に組織が本気で賭けられるか」が勝負なわけです。
 もう1つは、「仕事を通して、仲間とともに価値を高め、成長する“プレイワーク”」です。
 他人からやらされ、我慢しながらただ頑張る仕事ほどつまらないものはないし、生産性も下がります。新しいことやこれまでと違うやり方に挑戦することによって、個人も成長できる。私たちは「バトルシップ」と「プレイワーク」の両立を目指しています。
 では、コンセプトの実現に向けた人材マネジメントの具体策とは何か。
 「バトルシップ」については、「会社が勝つこと」と「個人が成長すること」の両立をテーマとしています。基幹職(管理職)の人事制度を大きく変え、仕事と報酬がセットの制度に改革をしました。
 それに伴い、職務に求めることを明確にし、「自分が育つこと/メンバーを育てること」を促す、適所適材の配置を後押ししている。
 結果として、昇格・等級設定をシンプルな仕組みにしています。
 「プレイワーク」は、働き方の柔軟性を高めることがテーマです。
 代表的な施策が「PLAY WORKマイレージ」という制度で、学びや健康の行動変化を後押しするチャレンジメニューを用意し、行動変化に応じてマイルが貯まる選択型福利厚生制度です。
 自分が関心のあることを学ぶ「マナビチャレンジ」、好きなテーマを設定して勉強会を開催・参画する「マナビシェア」などのメニューがあり、個人の自由な学びを加速させる仕組みになっています。

社員の価値観は6分類できる

 働く人たちの価値観も多様化が進んでいます。
 コクヨの市場調査結果をもとに分析したところ、現在の社員の価値観は大きく6タイプに分類できることがわかってきました。
 横軸に「継続思考」と「変化思考」、縦軸に「自律志向」と「協調志向」をとると、このような分布になります。
 これを見ると「継続志向」かつ「協調志向」の枠に入るタイプが合計で約40%に上ります。
 つまりこれまでと同様、オフィスに出社して、同僚たちと集まって仕事をしたい人が世の中に4割程度いるということ。
 色々な企業にヒアリングしても、現在の出社率は50%くらいのケースが多いので、このデータは現状と合致すると考えられます。
 一方で、「自律志向」かつ「変化志向」の枠に入るタイプが合計で約30%いることも明らかになりました。
 これらの人たちは、コロナ禍で在宅勤務やテレワークが進んだことで、新しい仕事や価値を創り出す働き方が実現できているのかもしれません。
 なお青い円内はコクヨ社内の数字ですが、一般の数字よりも「継続志向」かつ「協調志向」の枠に入るタイプが少なく、「自律志向」かつ「変化志向」の枠に入るタイプが多い結果となりました。
 これは先ほどお話しした人事改革により、自律的な学びの意欲を促進し、働き方の自由度を高めてきたことが反映された数字であると理解しています。
 ただしこれらの価値観は、同じ人でも役割や年代によって変化する可能性があります。そのため、これからの人事は社員を一様に見るのではなく、一人ひとりの多様性を細かく見ていくことがより一層求められます。
 つまり、今後は個人の多様な価値観や成果に着目していく時代になるといえるのではないでしょうか。

人事は「創造開発のエンジン」へ

セッション後半では、カオナビの佐藤COOを交え、佐藤氏や参加者からの質問に答える形でトークセッションが行われた。
鈴木 これまで会社では「生産性」が指標の神様みたいに扱われてきましたが、在宅勤務やテレワークが広まって、オフィスにいる必要がなくなった時に何が自分の柱になるかというと、「創造性」しかありません。
 では人事の仕事において創造性はどのように発揮できるのか。テクノロジーを使うのも一つの方法だし、カオナビを使って社員の顔を見ながら仕事をするのも一つの方法かもしれない。
 だから「手作業でやる満足感で終わっていないか?」ということは自分に問いかけてほしいですね。
 ただしテクノロジーを使うなら、創造性を発揮することを前提とすべきです。さらに言えば、テクノロジーの活用は、人事が現場を知った上で行うのが理想です。
佐藤 マーケティングなら、現場を知るのは当たり前ですよね。
 1to1でリサーチして、ペルソナを定義して、店舗に行って実際に消費者の購買行動を見て、といったサイクルが回っている。
 それがなぜ人事ではできないのか私も疑問でした。
 採用もマスで捉えて、「うちは100人採用できた」「うちなんか200人採用できた」と言っていますが、それは創造性を発揮していることになるのかなと。
永島 人事の創造性とは「従業員体験を良くしていくこと」というのが私の答えです。
 ただし従業員体験は相対評価なので、50%は良くなっても、50%は悪くなったりする。そこは難しい部分ですよね。
 本来なら経営者と話し合うべき点ですが、大企業になるとなかなか難しいと感じる人も多いのでは。
 それに経営者は理想形を語るので、現場としては「そうなれたらいいけど、現実にはできないんです」という話で終わってしまった経験がある人事は多いはずです。
 それでも経営者がどんな景色を見ているのかは意識した方がいいと思います。それを知らないと、人事がやりたい方向へ持っていくこともできないので。
 ただし、意識するあまり自分の顧客が経営者になってしまうのでは本末転倒です。
 私たち人事の顧客はあくまで社員。経営者が考えていることだけをやろうとすると、個を起点とした人事ではなくなってしまいます。
永島 これからの人事が目指すべきは、「未来事業計画や未来組織図の創造」です。
 会社は中長期の経営計画を作りますが、組織全体を考えるとどうしても保守的なものになりやすい。
 だからこそ人事は「個人はどんな未来を思い描いているのか」を起点に未来の計画や組織図を作り、個人の成長を当てはめていく役割を担う必要があります。
鈴木 同感です。新時代の人事の役割を一言で表すなら、「創造開発のエンジン」になること。
 社員に創造性の発揮を求めるなら、人事も創造的な活躍をしないと説得力がない。皆の創造性を高めていくエンジンになれる人事を目指してほしいですね。
 そのためにもテクノロジーをハードルが高いものと捉えず、上手に活用してこの変化を乗り越えていただきたい。今こそ人事が変わる絶好のチャンスなのですから。
佐藤 ありがとうございます。今回の議論で見えてきたのは、これからの人事戦略は「個人の生産性(成長)」を起点に考えるべきだということでしたね。
 旧時代は、経営の都合で組織や個をコントロールするというパワーバランスでしたが、新時代は個の力が強い中で組織をどう運営するかが課題となる。
 つまり、「個」の成長を引き出し、社員一人ひとりが活躍できる企業が勝ち抜く時代になるということ。
 その両者をテクノロジーでつなぎ、個人を起点とした組織の成長を目指す仕組みを創ることが、新時代の人事に求められる役割ということではないでしょうか。
経営、マネジメント、人事など、組織開発に携わるあらゆるビジネスパーソンが、今こそ知るべき情報を語り尽くした本イベントのダイジェスト動画を特別公開。以下、イベント特設サイトよりご覧ください。