2020/10/22

【吉村泰典】不妊治療の保険適用が難しい「3つの理由」

NewsPicks編集部
菅義偉首相の掲げる「不妊治療の保険適用」は、治療を受ける人々の救いとなるのか。
厚生労働省は14日、不妊治療の保険適用拡大について本格的に議論し始め、早ければ2022年度の適用拡大を実現させる考えを示している。
現在、不妊治療で保険適用されるのは一部にとどまり、1回の費用が数十万円かかる体外受精や顕微授精などの高度な治療には適用されていない。
不妊治療を受ける人の約半数は、こうした保険適用外の治療を受けており、支払った費用の平均は193万円にも上るという(第15回出生動向基本調査より)。
特定治療支援という助成金を受けられる制度もあるが、所得制限や回数制限が厳しく、多くの人が恩恵にあずかれていないという声もある。
そのため、菅政権による保険適用に多くの期待が集まっている。
しかし、不妊治療の第一人者であり、安倍政権では少子化担当として内閣官房参与も務めた産婦人科医の吉村泰典氏は、こうした体外受精などの高度先進医療を、すべて保険適用するのは難しく、患者のメリットが損なわれてしまう可能性があると言う。
その理由について解説してもらった。
吉村泰典(よしむら・やすのり)/慶應義塾大学名誉教授、産婦人科医
1949年岐阜県生まれ。75年、慶應義塾大学医学部卒業。95年より同大学医学部産婦人科教授。日本産科婦人科学会理事長など、数々の学会理事長を歴任。2012年、一般社団法人「吉村やすのり 生命の環境研究所」を設立。第2次~第4次安倍内閣で内閣官房参与として少子化対策・子育て支援を担当。

治療の標準化は難しい

不妊治療の保険適用について、厚生労働省で検討がなされています。
現在不妊に悩んでおられるカップルの最大の問題は、経済的負担と仕事との両立です。
その一つの経済的負担を軽減しようと総理が不妊治療の保険適用に言及されたことは、この問題に光をあてる良い機会になったと思います。
一方で、高度な先進医療である不妊治療に、どこまで保険を適用するか、という点は慎重に議論しなければなりません。
結論からいいますと、すべてに保険適用するのは難しいと思います。それよりも、特定不妊治療助成の適用を拡大したほうがスムーズですし、患者さんのメリットも大きい。
その理由は主に3つです。