50M=業界最大規模の出資を受けられる起業家は誰だ

2020/10/15
近年増加傾向にある「アクセラレーションプログラム」。一言でいうと、短期間で事業を成長させるためのプログラムだが、なかでも起業家たちの注目を集めているのが、ニッセイ・キャピタルによるアクセラレーションプログラム「50M(フィフティ・エム)」だ。採択社を一律4億円で評価し、採択時500万円、追加4500万円、合計で最大5000万円の出資をするもので、プログラム終了後も1社当たり累計30億円超の追加投資を行う。
業界最大規模の出資額はたしかに魅力だが、起業家たちが評価するのは「限りなく起業家目線のプログラム」である点だ。何が他のプログラムとは違うのか。プログラムマネージャーの高尾壌司氏に聞いた。

最高出資額だけじゃない。「50M」の全貌

近年、アクセラレーションプログラムは増加傾向にあり、起業を考える人にとって有力な選択肢になりつつある。
「アクセラレーションプログラム」とは、一言でいうと、短期間で事業をスケールさせるためのプログラム。起業家は、アクセラレーターと呼ばれる支援者との定期的な面談を通して、二人三脚で事業アイデアのブラッシュアップを行っていく。
なかでも起業家たちから注目されるのが、このたび3期生秋バッチへの参加募集を開始した、ニッセイ・キャピタルによるアクセラレーションプログラム「50M(フィフティ・エム)」だ。
採択社を一律4億円で評価し、採択時に活動資金として500万円、追加で4500万円、合計で最大5000万円という業界最大規模の出資をするもので、プログラム終了後も1社当たり累計30億円超の追加投資を行える体制を敷いている。
魅力的なのは、業界最大規模の出資額だけではない。出資の仕組みだ。少し専門的な話になるが、初回投資は「社債」であり、可逆的な資本政策となっている。つまり、起業家側の意思によって株主名簿を「元の形に戻すことが可能」なのだ。
では、それの何がすごいのか。
ベンチャーキャピタル(以下、VC)からの返済不要の株式による出資は、創業前または創業間もないスタートアップ企業にとって喉から手が出るほどほしいものだ。しかし、VCから資金調達をした起業家たちからは、デメリットも聞く。
これらはすべて、「資本関係を解消できない」という株式による出資の特徴によるものだ。50Mの出資条件であれば、出資額を返済すればニッセイ・キャピタルに「株主をやめてもらう」こともできるため、これらのデメリットはすべて解決する。
しかしVCには、株式上場時の株売却益や、M&Aなどの売却益を調達元へ還元する責任がある。率直に言ってこの条件は、ニッセイ・キャピタルにとって不利すぎはしないか。「50M」3期秋バッチプログラムマネージャーの高尾壌司氏は次のように説明する。
「この仕組みは、PMF前という起業家にとって非常に重要な期間に、必要としてもらえるだけの価値を私たちが提供するという覚悟の証です。
一方で、調達元に対する利益の最大化というVCの原則からすると、相反する取り組みであることは確かです。その点、通常のVCがさまざまな投資家から資金を集めるのに対し、私たちの調達元は親会社である日本生命保険のみ。
説得するのが一社かつ、日本生命保険の懐が深かったからこそ叶った条件だ、とも言えます」
そもそもニッセイ・キャピタルの設立は1991年と、VCとしては古株だ。10年ほど前から、「リードインベスター(外部筆頭株主)」としてのスタートアップ投資に積極的に取り組み、多くの実績を残している。
ニッセイ・キャピタルがリードインベスターにこだわるのは、その他の株主よりも大きな影響力を持って、真摯に起業家と対峙できるからだ。投資先に対する経営、財務などバリューアップや資金調達サポートなど、そのサポートの厚さは「50M」にも表れている。
「リードインベスターとして、ニッセイ・キャピタルが蓄積してきた知見をシード期のスタートアップに提供したい。それによって、社会にインパクトを与え、世界を変えるビジネスを共に育てたいという思いから、『50M』は生まれました。
採択と同時に500万円を投資することで、知見の共有にとどまらず、経営者と並走しながらPMFに向けた『検証』ができる点も50M の特徴です」(高尾氏)

家庭料理配達サービス「つくりおき.jp」ローンチの舞台裏

では、アクセラレーションプログラム「50M」の中身はどのようなものなのか。2期生として50Mに参加した株式会社Antwayの前島恵CEOは、高尾氏のメンタリングを受けて事業開発を行った一人だ。
「『50M』に参加すると、私たち起業家は担当キャピタリストと密なメンタリングを行い、マーケティングリサーチとビジネス構築プロセスを繰り返して、取り組むビジネスを選択していきます。
面談自体は週2〜3回でしたが、メッセンジャーでのやり取りはほぼ毎日。疑問が出てきたらすぐに相談して、高尾さんもすぐに打ち返してきてくれる、というくらいのスピード感でしたね。
最初はもちろん条件面の魅力から50Mに応募しましたが、結果的にはハンズオン能力(伴走力)の高さに助けられました」
シード期の起業家がVCに期待するのは、①フォローオン能力(継続投資能力)と②ハンズオン能力。なかでも、豊富な経験値を持つVCならではのアドバイスや情報提供ではないだろうか。
起業家一人では情報を集めきれないこともあるし、事業モデルに思い入れがあればあるほど、自分に都合のいい情報を集めてしまうというのはよく聞く話だ。それによって適切なリスクの洗い出しが行われず、結果的に事業がスケールしないことも多々ある。
前島氏は採択時、SNS関連の事業の構想を持っていた。しかし、実際にローンチしたのは、一週間分のおかずを冷蔵保存可能なつくりおき形式でユーザーへ配送する家庭料理配達サービス「つくりおき.jp」。
サービスの詳細は画像をタップ。
この大きな方向転換こそ、高尾氏との「壁打ち」の成果だ。
「トラック遊休資産活用や小売店向け省コスト無人レジ、地方行政向け代理届出サービスなど、2〜3週間で30案ほど議論したなかで残ったのが、フードデリバリー事業でした。海外では好調で、ユニコーンも続出しているのに、日本ではそこまで抜きん出た企業はない。
検証していくと、日本にはコンビニが多数あり、かつ手作り信仰も根強いため、そもそもデリバリーをする機会が少ない。高い配送費、人件費を回収できるピザや寿司しかマネタイズできていないこともわかってきた。
最終的に、子どもが安心して食べられる手作り感のある食事を作り、まとめて数日分配送するという現在の事業にたどり着いたのですが、豊富な海外事例の提供やローカライズの要件定義など、高尾さんのアドバイスは本当に貴重でした。『一緒に作り上げた』という感覚です」(前島氏)
50Mに採択されれば、起業家たちはニッセイ・キャピタルに併設された丸の内の50Mシェアオフィスが使用できる。つまり、相談したいことがあればすぐにキャピタリストと会って話せる環境が提供されるのだ。
そこでは月に1回、VC、先輩起業家、金融機関などのゲストを招いたピッチイベントが開催され、ニッセイ・キャピタル以外のキャピタリストから事業に対する率直なアドバイスを受けたり、先輩起業家のリアルなアドバイスをもらえる機会が得られたりもする。
同期を含めたさまざまなフェーズの起業家たちとのコミュニティに参加できるのも、50M参加者の特権だろう。
さらにAWS、GCP、HubSpot等の各種スタートアッププログラムも特別価格で受けられる。
ニッセイ・キャピタルに併設された丸の内の50Mシェアオフィス。同期の起業家たちと同じ空間で切磋琢磨することができる。
「かなり初期からコミュニティでの交流は盛んで、金融機関との付き合いなど、企業に必要かつ、よりリアルな情報を得られたという実感があります。外部からの資金調達を検討しているなら、50Mは候補に入れるべき」(前島氏)

ビジネスモデルよりも「起業家」を重視する理由

50Mの特異な点は、ほかにもある。投資をした分の利益を得て、会社や投資家へ還元するというVCの特性上、ビジネスモデルの独創性や市場優位性が採択のポイントになりそうなものだが、見るのは「起業家の事業に対する考え方」だと言うのだ。なぜなのか。
「前島さんの場合は審査面談の際に、『今の事業ではなく、変える前提で採択します』とお伝えしていたほどで、誤解を恐れずに言えばそれくらい、ビジネスモデルは重視していません。
ですが、前島さんとの会話から事業選択の背景にある考えや経営者としての能力の高さは見えてきましたし、人柄や柔軟性、エンジニアスキルもビジネスをスケールさせるのに必要なものと判断しました。
重視するのは経営者としての資質、『この人ならできる』と感じられるかどうか、という部分です」(高尾氏)
50Mに参加した2期生の集合写真。このコミュニティの存在も貴重だ。
高尾氏の説明を裏付けるように、50M採択時と最終的なアウトプットが全く違う、というのは珍しいことではない。
過去にも、筋トレのログをとるアプリを構想していた人が、結果的には法人向けプリペイドカード事業で起業したり、日本製の女性向け化粧品をアジアで販売しようとしていた人が、Alexaのソフトウェア開発で起業したり。
壁打ちの結果、まったく違う事業にたどり着き、それぞれの事業をスケールさせるべく奮闘しているのだ。
この「スケール」という観点こそ、50Mが重視するものだ。50Mでは、社会にインパクトを与え、世界を変えるビジネスをする起業家を応援する。
「すべてのビジネスが大きくある必要はありません。小さなビジネスで、自分の周りを幸せにすることも大切です。
ですが、社会にインパクトを与えるためには、100億、1000億の時価総額を目指すスケール感が必要です。手持ちの資金でできる事業は限られるかもしれませんが、30億あれば可能性は広がる。投資という形で挑戦できる環境は用意するので、50Mに参加した起業家には高みを目指してほしいです」(高尾氏)
高い目標を掲げるからからこそ、「この事業でスケールできるか」ではなく、「この人ならスケールできるか」を見る。
ニッセイ・キャピタルは、「独自の事業仮説」と「やりぬく熱意」を持つ起業家の挑戦を待っている。
(取材・文:大高志帆 撮影:片桐圭、堀越照雄 デザイン:板庇浩治)