[28日 ロイター] - 米自動車メーカー各社は、今年春に新型コロナウイルスの大流行によって景気が悪化した際に大半の専門家や業界幹部が予想していなかった問題に直面している。その問題とは、ディーラー網における強い需要と在庫の減少だ。

各社は10月1日に9月の米国内販売台数を発表する。専門家は年換算の販売台数が8月実績の1520万台を超えると予想している。利幅の大きいスポーツ用多目的車(SUV)やピックアップトラックの消費者需要は春以降、急速に持ち直している。

米自動車大手3社は、ディーラーの在庫を補充するため、自社の工場がフルスピードで操業していると明かしている。

ゼネラル・モーターズ(GM)<GM.N>の世界生産部門を率いるジェラルド・ジョンソン氏は「当社はフル稼働している」と語った。

それでも調査会社コックス・オートのシニアエコノミスト、チャーリー・チェスブラフ氏によると、北米の自動車生産台数は昨年実績を約200万台下回っている。同氏は「封鎖解除後の消費者需要は非常に力強く、業界の在庫補充能力を上回り続けるだろう」と述べた。

第3・四半期は通常、自動車業界が新型モデルの生産を始め、年末商戦へ向けて在庫を積み上げる時期だ。だが今年は、そうした動きへの移行が例年より大きく遅れている。

チェスブラフ氏は「2021年型モデルが今年これまでの在庫全体に占める比率は約2.7%にとどまっている」と指摘。「対照的に昨年の(在庫全体に対する新型モデルの)比率は約22%だった。自動車メーカー各社が今なお旧型モデルを生産している中、消費者は新型モデルを見つけられなくなっている」という。

<収益の回復>

販売の持ち直しに寄与しているのは、ノースカロライナ州に住む不動産業者マイケル・ディーンさん(58歳)のような顧客だ。彼は自分のオンライン水泳プール事業「プール・リサーチ」を拡大するため、トヨタの新型7人乗りランドクルーザー「プラド」を6万2500ドルで購入した。

ディーンさんの選択は当初、比較的手ごろな価格のSUVの三菱「パジェロ」だった。だが3000ドルの値引きを提示され、予算を1万2500ドル増やして「プラド」を買うことにした。

「私のオンライン事業は順調に進んでおり、将来の収入を楽観視している。その上、ディーラーの値引きにより、出費を増やすのが正当だと自分で納得できた」と語った。

コックス・オートとJDパワーは今年の米自動車販売台数を前年比約15%減と予想している。ただ見通しは今年、一時は30%超の減少となっていた。ムーディーズ・アナリティクスは28日、リポートに、中古車の供給もひっ迫しており、中古車の卸売価格は2019年8月と比べ約20%高い水準に押し上げられたと記した。

予想を上回る販売と在庫の減少により、米自動車大手3社の収益は改善しそうだ。

リフィニティブのデータによると、アナリストはGMの第3・四半期の利益を約18億ドルと予想している。ライバルのフォード・モーター<F.N>は6億3890万ドル、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)<FCHA.MI>は4億6950万ユーロ(5億4603万ドル)の利益を計上する見通しだ。

ミシガン州の自動車調査センター(CAR)のバイスプレジデント、クリスティン・ジチェク氏は「大半の自動車メーカーは巨額の損失を見込んでおらず、回復は数カ月前に大半の専門家が想定していたよりも力強い」と話した。

CARは2020年の米国内自動車販売台数を前年比約24%減の1300万台と予想している。これに対し2008年から09年にかけての金融危機局面では、販売台数は40%減少していた。

米自動車ディーラーは年内、手持ちの在庫が比較的少ない水準にとどまる可能性がある。JDパワーは年末時点のディーラー在庫を前年比40万台減の約310万台と見込んでいる。

(Rachit Vats記者)