和田崇彦 木原麗花

[長崎市 1日 ロイター] - 長崎県に新銀行「十八親和銀行」が1日に発足した。新型コロナウイルスの感染拡大がインバウンド需要を奪う中での船出となった。県内の融資シェア7割の新銀行構想が県内同士の地銀統合の究極事例として注目を集め、承認まで2年半を要した。新銀行が地域経済の成長に貢献し、自らの持続的な収益モデルにつなげることができるのか。新銀行の動向は、人口や企業数の減少に悩む他の地域の地銀にも影響を及ぼす可能性がある。

<長崎を「俯瞰」>

長崎県全体をこれだけ俯瞰できるというのはとても大きなチャンスだ――。1日付で十八親和銀行の執行役員に就いた牛島智之氏はロイターのインタビューでこう述べた。十八銀行の地盤は県の南にある長崎市、親和銀の地盤は県北部に位置する佐世保市だ。主力とする地盤が異なる2つの地銀が合併することで、南北に長い長崎県全体をカバーできることになる。牛島氏は「県内の地域振興にとってのわれわれの役割や方向性が見えてきた」と話す。

十八親和銀は21年1月にシステム統合、同年5月から店舗統合を始める。店舗統合により生じる人員は地域経済再生のために振り向ける方針だ。

<長崎銀、法人営業を強化>

長崎県内で圧倒的なシェアを誇る新銀行の登場に、地元の金融機関は危機感を募らせる。西日本フィナンシャルホールディングス<7189.T>傘下の長崎銀行にとって、十八親和銀の店舗統合によって生じる余剰人員は脅威だ。

開地龍太郎頭取は「余剰人員が400人は出る」と指摘。長崎銀の行員230人を上回る規模に警戒感を示し、「(十八親和銀の)400人の行員は県や市町村に派遣されたり、企業に出向・再就職するだろう。もっとガリバー銀行になってくる。その中で長崎銀行が生き残っていかなければいけないので、非常に危機感がある」と語る。

長崎銀は昨年就任した開地頭取のもと、法人営業の強化に乗り出した。西日本シティ銀(福岡市)の人材を営業本部長に据え、法人営業室を4人でスタート。今年1月には合計11人に増やし、シェア拡大を狙う。

十八銀と親和銀の合併により、中堅・零細企業にとっての「相談相手」は1行減る。そこに攻勢をかけるのが長崎銀の戦略だ。くしくも、コロナ禍が同行の戦略に追い風になった。開地頭取は「アフターコロナの中で売り上げをいかに増やそうか、どう販路を増やそうかというときに、いろいろな銀行から様々な情報をもらった方が経営者としてはいろいろな判断ができるという声が多い」と話す。

長崎銀は約3000の取引先があったが、昨年6月から現在までで新規の取引先が400社増えたという。法人営業だけでなくリテールも強化し、支店数も23店から25店に増やす計画だ。

<「福岡流」の手法に警戒感も>

ふくおかフィナンシャルグループ<8354.T>と十八銀が経営統合で基本合意したのは2016年2月。しかし、十八銀と親和銀の合併で誕生する新銀行の県内の融資シェアが7割に及ぶ「究極のケース」(金融庁関係者)になったことで、公正な競争環境の確保を目指す公正取引委員会と金融システムの維持を主張する金融庁との間で議論が活発化。公取委が統合を承認する18年8月まで、2年半の歳月を要した。

十八銀・親和銀双方と取引がある浜屋百貨店(長崎市)の栗山次郎社長は、十八親和銀行が地域経済活性化に重要な役割を果たすことに期待を寄せる。「長崎は人口減少が甚だしいので、銀行といえども今後(存続が)困難になるのは間違いない。両方が弱くなるより、1つしっかりしたところができた方が良い」と話す。

一方、長崎の中小企業経営者からは「新銀行のほかに相談できる金融機関が必要だ」といった声のほか、「新銀行が福岡銀行の手法に飲み込まれてしまうのではないか」といった警戒感も出ている。新銀行が圧倒的なシェアを背景に利用者利便に逆行したサービスを提供しないか、外部の有識者によるモニタリング委員会と金融庁が監視の目を光らすことになる。

<新産業の育成が急務>

長崎県は人口減少率が九州で最も大きい。地域経済をけん引してきた造船業は不況が長引く一方、コロナ禍でインバウンドが蒸発し、観光や飲食業は大打撃を受けた。

十八銀がふくおかFGと19年4月に経営統合して十八銀が東証一部を上場廃止になったことで、長崎県の上場企業はゼロになった。コロナ禍で先行き不透明感が強いものの、今後の長崎経済を見据え新産業の育成は急務だ。

十八親和銀行は、企業の生産性向上に向けた支援を積極化する方針だ。牛島氏は「地元の企業が生産性を上げて元気な企業になっていく。そして上場するくらいの中核企業が出てくる、昔ながらの産業ではなくて新たな産業が出てくるような仕掛け作りが新銀行の大きな役目なのではないか」と話している。

「地方銀行の数が多い」と主張する菅義偉氏の首相就任で、地銀の統合再編への関心が高まっている。県内同士の地銀合併として注目を浴びてきた十八親和銀行が、地域経済活性化の実を上げ、持続可能な収益モデルを築くことができるのか。その動向は他地域の地銀のビジネスモデルに影響を与える可能性がある。

*写真を追加して再送します。

(和田崇彦、木原麗花 編集:内田慎一)