なぜ、マックのハンバーガーを食べると「サステナブル」なのか

2020/10/14
今年7月から多くの小売店でレジ袋が有料になった。それによって、「サステナブル消費」「エシカル消費」などの言葉が単なる流行語ではなく、自分の生活につながるものだと実感した人も多いだろう。
このように近年、企業が先導して環境に対するアクションを起こす事例が増えてきた。その原動力のひとつが、2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」であり、消費者の意識の変化だ。私たちは企業として、消費者として、どのように「サステナブル」を実現していくべきなのか。SDGsの専門家である慶應義塾大学の蟹江憲史教授と、グローバル企業として環境活動にも力を入れるマクドナルドCSR部マネージャー岩井正人氏に話を聞いた。
SDGsを活用できる企業とできない企業の大きな差
ここ数年、「サステナブル消費」「エシカル消費」などの言葉を日常的に耳にするようになった。特にコロナ禍でその傾向は強くなり、消費者としての私たちは「できるだけ安く、良いものを」というかつての態度を変容させようとしている。
SDGsの専門家である慶應義塾大学環境情報学部教授・蟹江憲史氏は、「日本におけるSDGsは、企業にとっても強力なツールになっている」と説明する。
写真:市村円香
「2000年代前半にCSR(企業の社会的責任)が、後半にCSV(共有価値の創造)という概念が登場して、企業ももはや目の前の経済的な利益だけを追求していてはいけない、と言われ続けてきました。
SDGsはこれまでのCSRやCSVと比べて、より整理され、カラフルなバッジもアイコンとしてわかりやすい。これまで以上に消費者にリーチしやすいツールなので、企業も活用しやすい。逆に、活用できるかそうでないかによって、差がつきやすいとも言えます」(蟹江氏)
「サステナブル」を一言で説明すると、今も未来も地球が健全な状態を保ちながら、人間と社会が成長するということ。今だけ成長すればいいのではなく、一部の人だけが恩恵にあずかれる状況も違う。また、経済の成長だけを考えてもいけない。
日本には売り手よし、買い手よし、世間よしの「三方よし」という言葉があるが、「そんなのは綺麗ごとだ」と考える人もいただろう。
しかし今は、社会課題を解決することが企業活動に直接影響を及ぼす時代だ。ESG投資やサステナブル投資など、投資家の目も集まるようになり、資本の動きが変わってきた。
「そもそも、金儲けを理由に起業する人はほとんどいません。創業者はなんらかの社会課題を解決したいという高い志を持っているものですが、事業を続けるうちに利益ばかりを追ってしまうことも。
ところが新型コロナウイルス感染症などの影響で、これまで盤石と信じていたものが、ガタガタと崩れてきている。改めて創業者の志や理念に立ち返る機会なのではないでしょうか」(蟹江氏)
これまで企業では、経営者が社会・環境問題に取り組もうとしても、40代、50代のいわゆる働き盛りの層に浸透させるのが困難だった。そもそも関心がない、日々の業務に追われて余裕がなかったということもあるだろう。
眼前の課題に対処し続けた結果、創業時の志を忘れてしまう経営者も多い。
iStock.com/ridvan_celik
しかし、新型コロナウイルス感染症が自分と社会とのつながりの捉え方に変化を生む、と蟹江氏は指摘する。
「新型コロナウイルス感染症は、自分の行動と社会の行動が一致する典型的な例です。マスクを着用する、手洗いをする、というのは自分を守るためでもあり、社会全体を守ることにもつながる。
個人と社会のつながりを実感できれば、企業がいかに行動すべきなのかについても自ずと見えてくるのでは」(蟹江氏)
さらに蟹江氏によれば、若い世代ほどサステナブルに対する意識が高いという。大学生などの若い世代は、学校などでも環境教育を受けているうえ、多くの自然災害を経験している。彼らが、自分たちの環境を守るためにも「社会によいもの」を選びたいと考えるのも必然だ。
出典:消費者庁「倫理的消費(エシカル消費)に関する消費者意識調査」2020年
そういった人にとって、何がよいものなのかを判断する指標の一つが「サステナブル・ラベル」だ。
これまでFSC® Forest Stewardship Council® (森林管理協議会)認証、MSC(海洋管理協議会)認証など、いろいろな認証制度によるサステナブル・ラベルがすでに存在し、時間をかけて徐々に浸透してきた。そういったサステナブル・ラベルがあれば、消費者にとっては自然環境や労働環境に配慮した商品がわかりやすくなる。
「最近ではMSC『海のエコラベル』のついた魚がスーパーに並んでいるのも珍しくありません。これまでは『魚を食べられればそれでいい』という意識だったかもしれませんが、これからの世代は『10年後も食べられるように、この魚を買おう』と自然に考えるのです。
これまでも環境問題については、政府より企業の動きが先行することが多かった。トップランナーがデファクトスタンダードを作ってきた歴史を見ると、そうした認証への投資、5年後、10年後に差を生むのではないでしょうか」(蟹江氏)
大企業の行動がデファクトスタンダードを作っていく
サステナブル・ラベルの取得に熱心な企業のひとつがマクドナルドだ。
サステナブル・ラベルとは、持続可能な原材料調達や環境・社会的配慮、生物多様性等につながるさまざまな国際認証ラベルを日本サステナブル・ラベル協会が命名した総称。
昨年だけでも大きな動きがあった。10月からはコーヒーをレインフォレスト・アライアンス認証のものに切り替えた。
マクドナルドのコーヒーはレインフォレスト・アライアンス認証を取得した農園から仕入れたコーヒー豆を使用。
写真提供:日本マクドナルド
また、同年8月にはMSCのCoC認証を取得し、10月にはフィレオフィッシュがリニューアルに伴いMSC「海のエコラベル」付きのパッケージに切り替わった。
さらに2020年度中には、店舗で使用しているお客様用紙製容器包装類の100%をFSC認証済み資材に切り替える目標を掲げている。
製品にMSC「海のエコラベル」を付けるためには、使用される水産物を獲る漁業がMSC漁業認証を取得していることと、認証水産物を取り扱う企業がCoC認証を取得していることが必要になる。
生産元の漁業については、持続可能であるとして、すでに漁業認証を取得済みだった。
一方のCoC認証は、流通・加工の認証であり、マニュアルだけでなく、納品伝票や返品伝票まで確認する等、非認証の水産物が混じっていないかも調べる必要がある。
マクドナルドのフィレオフィッシュはMSCのCoC認証を取得している。パッケージにはMSC「海のエコラベル」付き。
写真提供:マクドナルド
実際にCoC認証取得に尽力した日本マクドナルド株式会社コミュニケーション&CR本部CSR部マネージャーの岩井正人氏は次のように話す。
「CoC認証を取得するまで期間は半年ほどかかりましたし、金銭的な負担ももちろんあります。しかし、私たちは100を超える国と地域に3万9000店舗を構え、国内でも全都道府県に2900店舗が存在しています。
これだけの大きな会社なので、私たちがやりはじめたことがデファクトスタンダードになっていく側面もある。それで、これまでもマクドナルドの事業活動と環境活動の両方を合わせて、うまく社会、環境、経済が回るように配慮してきました。
実はSDGsが提唱されるはるか以前、マクドナルドが創業の時点から、『スリー・レッグ・スツール』、つまり3本脚の椅子という考え方があります」(岩井氏)
マクドナルドコーポレーションの創業者であり、世界最大のフランチャイズチェーンを築き上げたレイ・クロックは、マクドナルド、フランチャイジー、そしてサプライヤーの3本の脚がないと、マクドナルドは成り立たないと考えていた。
「これはSDGs目標の17『パートナーシップで目標を達成しよう』と重なります。私たちだけでなくクルー(アルバイト従業員)、生産者から消費者の皆さん、さらには、関係省庁や自治体、あるいはNPO、NGO団体なども含めて、皆さんにマクドナルドを支えていただき、そして私たちも地球を支える。
これまでもいろいろな活動に取り組んできましたが、SDGsという共通言語を得たことで、さらに理解を得やすい状況が整えられてきたように感じます」(岩井氏)
SDGsの17の目標のうち、マクドナルドが注力しているのは次の6つだ。
消費者に近い部分では、2016年にアイスコーヒーのカップをプラスチックから紙に切り替えた。
2018年からは、ハッピーセットについてくるプラスチックのおもちゃを回収し、プラスチックトレイへのリサイクルもはじめた。18年は127万個、19年には340万個ものおもちゃを回収している。
「おもちゃを持ってきてくれるのはお子さんです。彼らにとってはリサイクルというより『変身』なんです。自分がリサイクルボックスに入れたおもちゃがトレイに変身したことに喜ぶ。経済と環境を結びつけるものとして、『楽しさ』は欠かせません。
さらに、親御さんからはESD(Education for Sustainable Development:環境教育)につながるとご好評をいただきました」(岩井氏)
リサイクルボックスにおもちゃを入れることは、子どものESDにもなる。
マクドナルドが運んでいるのは「物」ではなく、何か?
岩井氏は蟹江氏同様、「サステナブル・ラベルがついているからこそ、その商品を選ぶ」という人が増えると考えている。
2018年、SDGsの講義のために中学校に呼ばれた岩井氏は衝撃を受けた。いくつかのサステナブル・ラベルを見せたところ、6割の生徒がすべてのラベルを知っていたのだ。
「サステナブル・ラベルは教科書にも載るようになったので、そのラベルが何のために存在し、何を保証しているのか、子どもたちは知っているんです。FSCやMSCのイベントにもたくさんの高校生が参加している。
ミレニアル世代や、Z世代は生まれたときからパソコンがあって、インターネットがある。それは同時に、生まれたときから環境問題にアクセスできるということです。亀の鼻からストローが出てくる動画を見たり、地球温暖化や自然災害を身近に感じていれば、私たち世代よりも環境問題に敏感なのは当然です」(岩井氏)
今年8月、日本マクドナルドは日本サステナブル・ラベル協会との共催で、全国の学生対象のオンラインワークショップ「JSL Youth Club withマクドナルド」を開催した。
オンラインワークショップ「JSL Youth Club withマクドナルド」で完成したグラフィックレコーディング。日本全国のマクドナルド店舗にて表示される。
日本マクドナルド、日本サステナブル・ラベル協会、学生の3者で、持続可能な未来に向けて、サステナブル・ラベルおよびマクドナルドのサステナビリティに関する取り組みをより多くの人へ届けるためのアイデアを考える。
さらにそれをグラフィックレコーディングにより可視化し、より多くの人の行動につなげていくことが狙いだ。
「もともと環境に関心がある学生が集まったこともあり、優秀なアイデアが多く出ました。印象的だったのは『サプライチェーンは物を運んでいるだけではない』という声。
マクドナルドは、お客様のフィールグッドなモーメント、つまり、『お客様が美味しいものを食べて笑顔になること』を求めて営業しています。そのためには、単に物を運べばいいという古い概念ではなく、心や気持ち、笑顔も入っていないといけません。その感覚を共有できたことはとても嬉しかったですね」(岩井氏)
こちらも「JSL Youth Club withマクドナルド」で完成したグラフィックレコーディング。若い世代は私たち大人よりも環境問題に敏感だ。
若い世代を中心に、「よいものにはきちんとお金を払う」という意識の変化が起こっているのは間違いない。企業としては、自社の取り組みをどれだけわかりやすく消費者に伝えられるかがカギになる。
「綺麗ごとだ」と冷笑するのではなく、自社の活動を見返して、何ができるのかを考えなければいけないタイミングが来ているのだ。
(執筆:唐仁原俊博 編集:大高志帆 デザイン:板庇浩治)
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