[22日 ロイター] - 中国系動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の米国事業再編を巡っては、設立される新会社「ティックトックグローバル」が米国内に拠点を置き、オラクル<ORCL.N>とウォルマート<WMT.N>の出資を受ける運びとなったものの、「実際の所有者」が誰になるのかでは当事者間で一向に意見がまとまらない。そこにもう1つ浮上しているのは、米国内でどうやって2万5000人の雇用を創出するかという問題だ。

<売上高を19倍に増やす必要>

トランプ米大統領は、ティックトックの新規ダウンロード禁止を1週間延期することに合意。そのトランプ氏に事業再編案を認めさせようと、当事者側が持ち出した譲歩策の1つが2万5000人の雇用で、トランプ氏は19日にノースカロライナ州で開いた選挙集会で、これを改めて有権者にアピールした。

ただ専門家によると、これほどの規模の雇用を目標に掲げるのを正当化するのは難しい。そのためには、ティックトックが世界中でかつてないほどさまざまな課題に直面している現在の局面にあって、売上高を相当に膨らませる必要が出てくるからだ。

具体的には、ティックトックがツイッター<TWTR.N>など他のソーシャルメディア企業に近い経営効率で運営されるとすれば、今後数年で売上高を最大19倍に伸ばさなければならない。ロイターが以前伝えた今年末の売上高見通しは約10億ドル(約1050億円)だ。

ウェドブッシュ・セキュリティーズのテクノロジーアナリスト、ダン・アイブス氏は、米国で新規採用される人の多くは、米政府がティックトックの個人情報の保護強化に力を入れている点を踏まえると、エンジニアやコンテンツモデレーター、セキュリティー関連の職種になりそうだとみている。

アイブス氏は「セキュリティーとインフラの点から見ると、事態の扱いにくさを考えれば、その問題に専念するためだけに数千人が雇われるだろう」と述べた。

またティックトックは最近、人気のある「インフルエンサー」の動画作成支援のために10億ドルの基金を立ち上げると発表している。広告代理店グループMのブライアン・ウィーザー氏は、これらのコンテンツクリエーターを勘定に入れれば、ティックトックが2万5000人の雇用を実現する手助けになるとの見方を示した。

しかしそれ以外の分野で、より多くの従業員を抱えることの妥当性は訴えにくい。なぜならティックトックを運営する北京字節跳動科技(バイトダンス)側が引き続き、ユーザーへのおすすめの動画を選ぶアルゴリズムを保持、その上で新会社にライセンスを供与するのであれば、新会社には人工知能(AI)関連事業に従事する大規模なチームを新たに編成する必要はなくなるからだ。

コンサルティング会社ザ・センター・フォー・イノベーティング・ザ・フューチャーの地政学フューチャリスト、アビシュール・プラカシュ氏は、こうしたAI関連チームこそがフェイスブック<FB.O>やツイッターの従業員の大部分を占めていると指摘した。

一方、プラカシュ氏は、オラクルとウォルマートが社内にティックトック向けサービス部門を設ければ、新会社の雇用にカウントされてもおかしくないとも述べた。

<収益増には多くの足かせ>

新会社の雇用目標がいかに「高望み」かは、他のソーシャルメディア企業が生み出している売上高と比較すればもっとよく分かる。

例えばツイッターは従業員4800人で、昨年は1人当たりの年間売上高が72万ドル、全体では35億ドルだった。スナップ<SNAP.N>は昨年、3195人が各自約53万7000ドルを稼ぎ出し、総売上高は17億ドルとなった。

バイトダンスは現在、米国で1000人余りを雇用している。ほとんどはカリフォルニア州で、テキサス州などにも拠点がある。

もしティックトックの経営効率がツイッターやスナップ並みであれば、新会社に既存の1000人と2万5000人が合流した場合、想定される年間売上高の規模は140億-190億ドルだ。

ところがプラカシュ氏によると、ティックトックには今や多くの「足かせ」があり、実際には売上高の想定レンジの下限でさえ達成は困難。かつて最大の市場だったインドでダウンロードが禁止されているのがその代表例で「(売上高を)14倍にするのはより時間がかかり、ずっと苦労するだろう」という。

(Sheila Dang記者)