運任せの転職をデータの力で壊す「アセスメント採用」とは

2020/9/25
 国内では今、人事・組織マネジメント、労務管理、人材育成、採用の革新を謳う「HRテック」が花盛りだ。サービスを提供する各社とも、足もとの得意領域で認知度を高めつつ、“覇者”を目指して事業拡大を急いでいる。
 だが、この潮流を冷静に眺めている男がいる。データに基づく転職サービスを展開するミイダスの代表、後藤喜悦氏だ。
 後藤氏の言う「本質的な進化」とは何を意味し、氏の率いるミイダスはどこを目指しているのだろうか。
1979年宮城県石巻市生まれ。2004年に立命館大学経済学部を卒業後、日興コーディアル証券(現 SMBC日興証券)などを経て、2006年インテリジェンス(現 パーソルキャリア)に転職。dodaの求人広告営業を経験後、石巻市における被災者就労支援事業のプロジェクトマネージャー、人材紹介事業の営業マネージャーなどを歴任する。2015年、社内の新規事業コンテストを勝ち抜いた「ミイダス」を事業化。2019年ミイダス株式会社を設立
ほぼ運任せのままの人材採用
──後藤さんはなぜ「人事・採用領域の進化」に疑問を持たれているのでしょうか?
後藤 人事・採用領域に限らず、この四半世紀の間にあらゆる業務プロセスが紙からデジタルに移行しました。そのこと自体に疑いの余地はありません。
 しかし、人事・採用領域においてはデジタル化による業務効率の向上レベルにとどまったままで、データ活用とは言い難いのです。
 採用手法一つとってもそうです。数年前から耳にするようになった「リファラル採用」や「ソーシャルリクルーティング」は、実質「社員紹介」や「縁故採用」ですし、「ダイレクトリクルーティング」にしても、求人企業が候補者に送信する「スカウトメール」と大差なく、単に呼び方が変わっただけではないでしょうか。
 つまり、どれも昔からある手法やプロセスを、デジタル化によって使い勝手をよくしたようなもの。 例えば、Excelファイルで管理していた情報をクラウド化で“脱Excel”できたからといって、一般的に「テクノロジーを駆使した」とまでは言いませんよね。「本質的に何も進化していないのでは」という疑問は、そういう意味です。
 事実、求人企業も求職者も、いまだに一か八かの賭けを強いられているといった声も少なくない。 ネットでよく揶揄される通り、いわゆる“採用ガチャ”を引かされ続けているような状況です。
ランダムにレアアイテムが出るソーシャルゲームの課金システムのように、「採用は企業にとっても求職者にとっても運任せの“ガチャ”状態」と後藤氏は指摘する(R-DESIGN/iStock)
──だとすると、テクノロジーやデータによる「本質的な進化」とはどういう状態を指すのでしょうか?
 個人的には、“世の中の価値観や常識がアップデートされた状態”だと捉えています。
 そういった「本質的な進化」のためのテクノロジーとは、導入直後の“便利”や“簡単”も大事ですが、それに終始せず、課題を根本的に解決するようなものです。
 一般的なHRテックの定義とは異なるかもしれませんが、我々ミイダスは、このようなアップデートにこそ価値があると考え、その実現を目指しているのです。
いまも勘と経験頼みの採用選考の現場
──後藤さんの言う「本質的な進化」を遂げると、採用市場で具体的には何が起こりますか?
 “採用ガチャ”の撲滅ですね。つまり、本当に活躍する人材の見極めができる世界へと変わります。
 前提として、勘と先入観にとらわれた選考方法や曖昧な採用基準こそが、企業と人材とのミスマッチが起こる原因の大部分を占めているのではないかと疑っています。
Weedezign/iStock
 そもそも「どんな人材が必要か」という採用要件が明確でないまま採用活動を行っているケースは珍しくありません。
 その証拠に、あらゆる企業が「実務経験3年以上。業界経験者歓迎」といった募集条件を掲げていますよね? 本来であれば、企業ごとに採用したい人材は変わるはずなのに、です。
 そうして迎える面接で、結局は面接官のフィーリングで合否が決まります。限られた時間の中では、どうしても第一印象や話の盛り上がりなど、入社後に活躍するかとは関係ないところで判断しがちです。
kasayizgi/iStock
──だからミスマッチが防げない、と。
 そうです。実はいくつかの研究で、面接での評価と入社後のパフォーマンスの相関は、ほぼないに等しいことが証明されています。面接官のみなさんも、それをなんとなくわかっているんじゃないでしょうか。
 内定を出すのが怖い人は結構多いと思いますよ。僕だって今でも怖いですし、たくさん失敗もしてきました(笑)。
 採用したい現場と採用機能を持つ人事が分かれている構造上、採用にまつわる根本的な課題はずっと無視されてきました。
 さらに、ミスマッチは採用の問題から育成の問題にすり替えられがちです。
 「苦労して採用したのに、すぐ辞めてしまった」「想像よりもパフォーマンスが低かった」といった問題が浮上すると「マネージャーの指導が悪い」「教育する時間を増やそう」となりがちですが、本当にそれで解決できるでしょうか?
──なるほど。こうした状況では、本当に必要な人材を効率的に獲得することは難しそうですね。
 エビデンスなき先入観や誤った常識にとらわれ、本来採用すべき人材を取りこぼすことは、求人企業にとっても求職者にとっても不幸なことに違いありません。
 人材のミスマッチは、それがたった一人であっても、生産性の低下を引き起こします。また、本来採用すべき人材を誤って不採用にすることは、将来的には数億、数十億円の機会損失につながりかねない。特に、採用の機会が少ない中小企業にとってミスマッチは死活問題です。
 それにもかかわらず、大半の企業はこの本質的な課題の解決に取り組まず、採用業務の効率化に時間とお金を費やしている。
 そもそもの原因は、このような勘や経験に頼った採用をしている事実に気づけていない企業が多いということ。この状態を放置しておくのは、社会にとっても大きな損失です。
データとテクノロジーで「適材適所」を当たり前に
──こういった企業の採用活動が抱える問題に対し、どのような解決策を提示できるのでしょうか?
 我々ミイダスが提供するのは、「アセスメント」に基づく転職サービスです。アセスメントとは、客観的な基準に基づき、バイアスを極力排した評価です。
 採用活動は結果的に人材獲得がメインになりがちですが、本来は「採用した人物が入社後に期待通りのパフォーマンスを発揮すること」がゴール。
 その実現のために、コンピテンシー(内面的なビジネススキルや思考性や行動の特徴)診断による人材アセスメントを活用し、応募者の適性に則って企業と求職者をつないでいます。
──特徴を可視化できるのはわかりましたが、人材アセスメントの信頼性はどう担保しているのでしょう。
 ミイダスの診断は、人材アセスメントによる採用が進んでいる欧州のモデルを参考にしています。一定のエビデンスに基づくものです。
 ちなみに、先ほど申し上げた入社後のパフォーマンスとの相関を調査した結果、一般的な面接だけの場合に比べ、人材アセスメントによる採用は、倍以上の相関性が認められました。
 それほど面接だけでの採用にはミスマッチのリスクが伴うと言えます。だからこそ、データも活用しながら多面的にその人を評価していくことが重要なのです。
コンピテンシー診断は、「能力の優劣ではなく、思考のクセや好みを見抜くもの」と後藤氏
 ミイダスのコンピテンシー診断は、すでに働いている社員を対象に実施すれば、自社におけるハイパフォーマーの傾向やタイプがわかります。これを踏まえて採用活動を行えば、人材獲得の精度は向上するでしょう。
組織内の社員の診断結果は、ミイダス上で管理・確認が可能。使うほどに組織内の人材の傾向が見えてくる
 また、ミイダス自体の精度向上も進めています。2020年4月に、転職や採用を科学的に研究する「HRサイエンス研究所」を立ち上げました。
 コンピテンシー診断の精度向上が主な研究内容ですが、今後は映像や音声による行動分析も取り入れたアセスメントを実現したいと考えています。
 例えば、営業職に向いている人の声質や話し方、目の動きや表情の作り方の傾向を割り出せれば、本人ですら気づいていない才能を見いだすことができる。企業から見れば、ポテンシャルを秘めた人材が発掘可能になるでしょう。
 客観的な判断材料が増えていけば、自ずと転職のミスマッチは解消されていくと考えています。
 これこそ、業務効率化にとどまらない、「本質的な進化」につながる価値提供です。
──後藤さんは、これからミイダスでどのような世界をつくりたいとお考えですか?
 一言でいえば、サイエンスとテクノロジーで、ミスマッチ転職が起こらない世界をつくる。それが我々にとっての究極の目標です。転職を当たりハズレがある“ガチャ”から、確実性の高い営みに変えていきたいんです
 その実現に必要なものの一つは、情報の適正化。残業時間や離職率など、人事としては出しづらいネガティブな要素も含めてすべて正直に入力してくれる企業は、求人情報の上位に表示するなど優遇していく。
 通常は広告枠とされている箇所ですが、ミイダスではミスマッチをなくすための努力をしてくれる企業を評価し、採用にお金がかけられない中小企業のための機会創出もしたいんです
 正しい情報を流通させる施策に取り組むなど、これからも課題を根本的に解決するためにやるべきことはまだあると思っています。
 いま世の中には、やりたいことを支援するサービスはあっても、本人ですら気づいていない可能性を見いだし、応援するサービスはありません。
 自分にどんな才能があり、どんな職業で活躍できる可能性があるか、ある程度正確にわかるようになれば、この国の成長を妨げているさまざまな要素を減らすことにもつながるでしょう。
 ミイダスを活用してもらうことで、いろんな企業さんと一緒に世の中のミスマッチをなくしていきたいですね。
(構成:武田敏則 編集:中道薫 デザイン:月森恭助 写真提供:ミイダス)