【山口周】効率から逃れよ! 余剰の文化が社会を変える。

2020/9/9
 JTがこれまでにない視点や考え方を活かし、さまざまなパートナーと社会課題に向き合うために発足させた「Rethink PROJECT」

 NewsPicksが「Rethink」という考え方やその必要性に共感したことから、Rethink PROJECTとNewsPicksがまさにパートナーとしてタッグを組み、ネット配信番組「Rethink Japan」をスタート。

「Rethink Japan」は、これからの世の中のあり方を考え直していく番組です。

 世界が大きな変化を迎えているいま、歴史や叡智を起点に、私たちが直面する問題を新しい視点で捉えなおします。

  全6回の放送を通して、文化・アート・政治・哲学などといった各業界の専門家をお招きし、世の中の根底を “Rethink” していく様子をお届けします。

山口周 × 波頭亮 社会基盤として、文化・アートを再考する

 Rethink Japan、第2回は「文化・アート」をテーマに、独立研究者・著作家・パブリックスピーカーの山口周さんをゲストに迎えてお届け。
 モデレーターは、佐々木紀彦(NewsPicks CCO/NewsPicks Studios CEO)と、経営コンサルタント・波頭亮さん。
 現代社会の問題点から日本文化のポテンシャルまで、文化・アートにとどまらない、幅広いトークが展開された。

「安全に生きられる世の中」から「生きるに値する世の中」へ

佐々木 RethinkJapan第2回、スタートです。第1回に引き続き、モデレーターは経営コンサルタントの波頭さんです。
 さらにゲストとして、独立研究者・著作家・パブリックスピーカーの山口周さんにお越しいただきました。
山口 よろしくお願いします。
佐々木 今日は「文化・アート」をテーマにお話を伺います。
波頭 前回の放送で、失われた経済バランスを取り戻すためには「どういう世の中になってほしいか」という、みんなが共有できる「物語」が重要だとお話ししました。
 世の中に「文化的なものを排して、生産性に寄与するものこそが重要だ!」という論調があったなか、あらためて物語の意味や重要性を発信してくれたのが山口さんだったと思います。
 今回は、その物語を作るために文化が必要なんだ、ということを話していければと思います。
山口 はい。僕は、文化的な価値を生み出せば、結果として経済も再び活性化すると思っています。
 先進国の多くは、社会生活における一定の豊かさを等しく実現しました。結果、いまは世界の経済成長がほとんどない状態になっています。
 日本も高い生活水準が実現されています。
 じゃあここから先のお金の使い道は? と考えると、「安全に生きられる世の中」から「生きるに値する世の中」に変えていくことだと思うんですよね。
 その「生きるに値する世の中」って「文化的な価値がある世の中」なんじゃないかと。
佐々木 経済成長を追わずに、文化的価値を重視したほうが結果として経済も成長する、と。
山口 はい。なので波頭さんがおっしゃる通り、僕もまずは「どんな世の中にしたいのか」という物語の部分が議論されるべきだと思っています。
 とはいえ、偉い人がトップダウンで新しい価値基準を説くだけでは、長続きしないでしょう。
 社会の中にいる人たちが自分なりに「物語」に納得して、経済的なものとは別のものさしで、自分の人生を選択できるようにならないといけないと思っています。
波頭 僕は、それを実現するためにも、ベーシックインカムをあげることが大事だと思う。
 経済と離れたところに喜びを感じる人でも生きていけるような公共インフラがあればいいなって。
 たとえばヨーロッパでは、アーティストとして生きていく道って結構広く受け入れられているんだけど、それは社会全体の税制や国民のマインドがあるからなんだよね。
山口 賛成です。ベーシックインカムの仕組みができると、本人が一番やりたいこと、一番楽しいと思うことをやれるようになりますよね。そういう創作活動が、必然的にイノベーションにつながっていく。
 イノベーションはボラティリティ(変動率)が高いものだから、爆発的なお金にはならないかもしれないですが、それは運だと思います。
 お金が生まれたときに、高負担の税率で回収して、再分配すればいい。トライする回数が増えればお金になる確率は上がるので、トータルとしてのアウトカムは必ず増えると僕は思っています。

あなたにとって心を動かされるものはなにか

佐々木 創作活動をする人だけでなく、普通の生活者、たとえば一ビジネスパーソンが文化的にもっと豊かになるためには、なにが必要だと思いますか。
山口 生活者にとって、「身の回りのものすべて」が文化なんですよね。なので、とにかく美術館に行け! ということではなくて、ただ心が動く感覚に素直に従うのがいいと思います。
 自分がかっこいいと思ったものを買う。まずはそれで十分だと思いますね。
佐々木 なるほど。
山口 いま、多くのビジネスパーソンが通勤の必要性を考え直しているように、さまざまな意味で「あなたはどういう生き方をしたいのか」が問われる時代になっている。
 会社側も、どんな働かせ方をしたいのかを考えなくちゃいけません。
 なので文化・アートに限らず、「あなたにとって心を動かされるものはなにか」という問いをリフレクトすることは、人生のすべてを再考する発端になると感じています。
波頭 すごく同感。
 アートのいいところは、答えが一点に収斂しないことだと思う。自分にとってなにがハッピーかというのも人によって多様だよね。
 これからの時代、それを見つけるセルフリフレクションの能力が必要だと思う。
佐々木 文化・アートを通して、その力を養えるということですね。
波頭 実はいま、日本人一人あたりがアートに使っている金額はヨーロッパ平均の7分の1程度だというデータがあるんだよ。
 文化的なものを楽しむ、心の余裕が削ぎ落とされてしまっている。
 僕は、年収が100万円上がるよりも、絵や音楽を楽しむほうがずっと幸せを感じられる可能性が高いと思うんだけどね。
佐々木 文化的な生活をしていて、幸せそうに暮らすロールモデルが増えるといいですよね。
アンカー セルフリフレクションって簡単に思えてすごく難しいなと感じます。アドバイスはありますか?
山口 具体的な方法はさまざまなところで語られていますが、結局、答えは内側にしかない、ということを伝えておきたいです。
 成功者のモデルは外在的なものですから、それを追い求めても必ずしも自分が幸せになれるとは限りません。
 自分の感覚も必ず変化していくものですし、かたくなにならず、しなやかに自分と向き合い続けることが大事だと思います。

「職人」と「消費者」2つの立場が文化を守っていく

アンカー 日本の文化は世界的にみてもすごくリスペクトされていて、そこに何かしらのチャンスがあるのでは、と感じています。ご意見はありますか?
山口 日本文化への憧れは確かにあると思います。だけどそういうライフスタイルや価値観をうまく輸出することができていない。
 オランダや北欧諸国は家具や雑貨などの分野でオリジナリティのあるものを作り、輸出して、ある程度うまくいっていますよね。
 彼らは、国のあり方や「物語」そのものを発信することができている。それが市場における競争力を強めているんだと思うんです。
 日本も、日本文化というアセットをきちんと自己認識して発信していく、国としてのブランディングが重要だと思います。
佐々木 波頭さんは日本文化のポテンシャルについてどう思われますか。
波頭 日本文化では禅や盆栽なんかが世界的に評価が高いけど、それはオリジナリティにこだわった結果だと思う。
 そういう文化が、経済合理性にのまれないで維持できたら、というのが僕の希望です。
山口 文化と経済の折り合いは重要なポイントですよね。
 京都に開化堂という茶筒の老舗があるのですが、戦後、日本に自動化や効率化の波がきて、経営の苦しい時期があったらしいんです。
 職人が手作業で作るのをやめて、工場で安価なものを作ろうか、という話も出ていた。
 でも、それを京都のお茶屋さんたちが止めたそうなんです。「責任をもって自分たちが買うから、いいものを作ってくれ」って。京都の街が伝統を守ったんですよね。
 僕は、この「応援経済」のスタンスがとても大事だと思っています。
 文化を守るためには、やりたい仕事に取り組む職人さんの立場と、残ってほしいものにお金を使うお客さんの立場という2つの役割が重要なんです。
 だから、ビジネスパーソンであっても、アーティストの気持ちで仕事をしてほしいと思いますし、なにかを消費するときは、アーティストを応援するパトロンになるつもりで選択してほしいな、と思いますね。
波頭 消費をするときに定量と効率から離れること、つまり経済的観点からは一度距離を置いて考えてみることが大事だよね。
 みんながそういう選択肢を持てるようになると、個人の人生も文化全体もすごく変わると思う。
佐々木 最後に、お二人からメッセージをいただきたいです。
波頭 「定量と効率から逃れよ!」
 いまの世の中はキャピタリズムに支配されていて、定量、収益、効率なんかが重要視されているけど、そういう指標から離れたところに新たな価値がある。
 これまで削ぎ落としてきたものをもう一度包摂して、経済以外のものから作られる人間の大事な部分を取り戻してほしい。
山口 「経済に衝動を再び」
 アーティストは衝動に突き動かされて作品を作ります。ビジネスパーソンも自分の心に従って仕事をしてほしい。あなたがワクワクして、やらずにはいられないことはなんですか。
 みんながそれをやったら、社会は相当面白いことになっていくと思います。
波頭 もともと、山口さんは僕と考えが近いなと思っていました。今日は前回の総論に続くような、各論のコアが話せたと思います。
 次回以降、山口さんのお話を、教育や経済、思想などの観点から具体的に補完していきたいと思います。
 山口さんがより実践的な話題を入れて話してくださったので、僕にとってもすごく勉強になりました。ありがとうございました。
Rethink PROJECT (https://rethink-pjt.jp)

視点を変えれば、世の中は変わる。

私たちは「Rethink」をキーワードに、これまでにない視点や考え方を活かして、パートナーのみなさまと「新しい明日」をともに創りあげるために社会課題と向き合うプロジェクトです。

「Rethink Japan」は2020年7月より全6話シリーズ毎月1回配信。

世の中を新しい視点で捉え直す、各業界のビジネスリーダーを招いたNewsPicksオリジナル番組「Rethink Japan」。NewsPicksアプリにて無料配信中。

視聴はこちらから。
(執筆:西山桜 編集:株式会社ツドイ デザイン:斉藤我空)