【調査】テレワークで露呈。ツール活用の意外な落とし穴

2020/9/30
 新型コロナウイルスの影響で、多くの企業がテレワークを余儀なくされた。
 移動時間が減るなど、一見すると生産性が上がりそうなテレワークだが、公益財団法人日本生産性本部が今年5月に行った調査では、65%以上の人が、自宅での勤務によって効率が下がったと答えた。
 一方で、「テレワークを続けたい」と答えた人も6割以上。どうすれば生産性高くテレワークを続けられるのだろうか?
 数々の企業の経営をテクノロジーの側面からサポートする、IT経営ワークス代表取締役の本間卓哉氏を招き、テレワーク環境に不可欠なITツール活用の側面から、生産性低下の原因を探っていく。

テレワークの成否を決めたのは?

── テレワークの実態を探るためにアンケート*を実施したところ、テレワーク中の悩みとして「他のメンバーが何をしているのか分からない」「上司や同僚にちょっとした相談ができなくなった」など、物理的に距離が離れたことによる弊害を指摘する回答が目立ちました。
 ITコンサルタントとして、多くの企業のIT環境を整備してきた本間さんは、テレワークで生産性が下がる理由を、どう考えていますか?
 *2020年7月に、株式会社マクロミルが全国の22~49歳のビジネスパーソン400人を対象にインターネットで調査を実施。以下出典のない調査データは、本アンケート結果に基づく。
 私は必ずしも、テレワークに移行した全員の生産性が下がったわけではないと思っています。無駄な移動時間や雑談が減り、仕事が捗ると感じている人もいるのではないでしょうか。
 ですが今回は、コロナという突然の事態。たとえば小さなお子さんがいらっしゃる家庭は、急にオフィス以外のワークスペースを確保することになり、苦労している方も多いのでは。
 さらにツール導入や通信環境が整っていなかった企業も、なし崩し的にテレワークに突入しました。そういった企業の生産性は、下がったと思いますね。
一般社団法人 IT顧問化協会 代表理事、株式会社IT経営ワークス・株式会社DXソリューション 代表取締役。大学卒業後、大手IT関連企業に入社し、2008年Chatwork株式会社に転職。企画マーケティング部を発足し、あらゆるWebプロモーションを駆使して、売上げアップに務める。2010年に独立し、IT経営ワークスを創業。2015年にIT顧問化協会(eCIO)を発足し、IT活用・デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を望む全国の企業からの相談を受け、中立的な立場で的確な支援ができる体制を構築している。著書に『全社員生産性10倍計画』『売上が上がるバックオフィス最適化マップ』(ともにクロスメディア・パブリッシング)など。
 その中でも特に、適切なITツールを導入していたかどうかが、テレワーク成功の明暗を分けたと考えています。
 社内のやり取りに対面やメールで対応していた企業は、テレワークで他のメンバーの様子が分からなくなったり、上司や同僚にちょっとした相談ができなくなったりすることで、効率がかなり落ちてしまったと感じているはずです。
 一方で、たとえばチャットツールを導入していれば、手軽で迅速なやり取りが可能に。そのため、社内外のやり取りがスピードアップし、気軽なコミュニケーションも活発になります。

「ツール乱立」の落とし穴

── チャットツールの話が出ましたが、テレワーク中のITツールの活用に関して、調査では以下のような多様なツールが導入されていることが分かりました。
 テレワークの影響で、特にweb会議ツール、チャットツールの導入は増えましたよね。
「ハンコのために出社」という現象も話題になりました。ハンコのために会社に行かなくて済むよう、電子契約系のサービスの導入も加速しています。
── 一方で「複数のツールを使用しているため、情報共有が複雑化」「実績やノウハウの共有が、オンライン上でバラバラに」といった悩みが挙げられました。ツールを導入しているにもかかわらず、うまく使いこなせない状況は、なぜ起きるのでしょうか?
 調査結果では、既存ツールを含め複数のツールを使用することで、情報共有が複雑化したりバラバラになったりすることが、弊害として多く挙がっています。
 今は多くの優れたITツールがあり、それぞれに強みがあります。ですので、複数のツールを導入して使い分けること自体は、悪いことではありません。ですが目的もなく、多くのツールが導入されている場合には、弊害がありますね。
 この主な原因は、企業としてのツール導入のビジョンがないことです。統一されたビジョンがないことで、結果として部署やチームごとにそれぞれが必要なツールを好き勝手に導入してしまい、数だけ増えて、共有がうまくいかずに整理がつかなくなる。
 運用が中途半端というパターンも考えられます。これは、流行りに乗って試しに使ってみようと、様々なツールを中途半端に利用するもの。どれも使いこなせなかったり、人によって好むツールが異なったりして、結局ツールの数が増えてしまうんですね。
また、無料で試せる範囲だけでやりくりしようとするケースもあります。
 多くのツールが、ある程度は無料で使えますよね。だからこそ、その範囲内だけでなんとか頑張ろうとする方々がいるんです。どんどんツールが増えて整理が追い付かなくなり、さらなる非効率を招くだけの行為です。

情報検索に週9時間?

── ツールを複数使用することの弊害の実態を深掘りしていくと、ITツールを1人当たり何個利用しているかという質問に対しては、約4割の人が5個以上ものツールを利用していると答えました。 
 各個人が明確な目的もなく様々なツールを使用することは、ファイルの置き場所が分からなくなったり、パスワードを何個も覚えなければいけなかったり、生産性を低下させる要因になります。
 米国の調査会社のIDCが行なった調査では、一般的なビジネスパーソンは、社内の情報を探すために、なんと週9時間以上の時間を割いている、という結果も出ているんです。
 これは通常の終日勤務約1日分に該当するので、週に丸1日は探し物をしていることになります。1年に換算すると約2ヶ月、これは改善しないとまずいですよね。
── 実際に調査結果を精査すると、ツール利用数が2~4個の人に比べて、5個以上のツールを併用している人の方が、複数のツールを併用することに弊害を感じていることが分かりました。「ツールバラバラ問題」は、チームの生産性にも影響を及ぼすのでしょうか?
 部署ごとにバラバラな運用になっている場合は、チームの生産性を大きく下げてしまう危険があります。ツールの乱立の影響を特に受けるのが、コミュニケーションと情報共有の領域。
 たとえばメールとSlack、Facebook Messenger などのツールを行き来するだけで、かなりの時間ロスですし、「あのクライアントからの連絡は、どのツールだっけ?」と情報を探す時間も、馬鹿になりません。異なるツールをまたぐことで、情報漏えいのリスクも高まりますね。
 情報共有についても同様で、たとえば開発部門はDropbox、営業はGoogleドライブ、店舗はOneDriveと、部署ごとにバラバラのツールを使っていると、どこになんの情報があるかが分かりません。探す手間がかかるのはもちろん、最新のデータがどれなのかも分かりにくくなります。
 このようにツールがバラバラに存在していて情報が分断されていると、暗黙知化したローカルルールが散在することにも繋がります。
 情報に格差が生まれることで、目指すゴールに対する意識もバラつき、チームとしての一体感も失われてしまう懸念があります。

ツール活用でバラバラをまとめる

──「ツールバラバラ問題」を抱える企業にコンサルティングする場合、本間さんは何から始めますか?
 まずは、業務整理から取り掛かります。実は、業務全体の流れを可視化できていない企業って多いんです。
 たとえば、「新たに人を採用した場合、どのようなフローで管理していますか?」と聞くと、一連の流れをきちんと話せる人は意外と少ない。各部署が行き当たりばったりで、手元に仕事が来てから対応するだけになっているんですね。
 業務の流れを可視化することで、効率が良い部分、悪い部分が分かる。全体の業務を把握した上で、手間がかかっている部分をツールで補う、という発想にすれば、効果的にツールを取捨選択することができます。
 また、バラバラなツールや情報をまとめて管理できるクラウドサービスを使うことも、有効な解決策になると思います。サイボウズ社の「kintone(キントーン)」は私自身も使っていますし、クライアントにも度々紹介や導入活用支援をしているツールです。
kintoneは、サイボウズが提供する業務改善プラットフォームで、バラバラなツールやコミュニケーションを1つにまとめられるクラウドサービス。用途に合わせて、多様な業務アプリをクラウド内に自作することも可能だ。
 kintoneは、社内のコミュニケーションと情報共有をワンプラットフォームでまとめられるサービスで、簡単に言えば社内みんなで共有できる「大きな箱」なんですよね。
 たとえば、その大きな箱の中に従業員データの箱・顧客データの箱をそれぞれ持つと、顧客管理に担当従業員をひも付けられ、その従業員の経費申請や営業進捗状況も一元管理できる。
 大きな箱を用意し、チーム全員がその箱の中で情報をやり取りするようになれば、二重管理もなくなり、シームレスな業務環境を構築できます。
 コミュニケーションの場所をオープンな場で整理できるため、記録にも残るし、迅速なやり取りも可能。申請内容やプロジェクトの進捗確認のために、わざわざメールしたり電話したりする必要がなくなり、kintone内で各事象に対して円滑なコミュニケーションが図れます。
kintoneのスクリーンショット。オープンな場で、様々な事象に対するコミュニケーションができる。
 kintoneのような「同じ箱の中で一元管理できるツール」であれば、複数のツールをあちこち探し回る必要はなくなります。テレワーク中でも「あの資料は紙しかない」とか「あの資料は会社のパソコンのデスクトップだ」といった事態もなくなりますね。
kintoneでは、このようにドラッグ&ドロップで簡単に、それぞれのチームや部門の業務に合ったツールをカスタマイズして作成することができる。
 しかし先ほども申し上げたように、私は特定の用途に特化したツールを使い分けること自体は問題ないと思っています。ただそれらのツールが連携せずにバラバラに独立していると、やはり「ツールバラバラ問題」の弊害を受けてしまいます。
 そういった場合は「情報のコア」を1つ作り、それぞれのツールと連携させるのが良いでしょう。言い換えれば、「そのツールさえ更新すれば、全てのシステムのデータが最新になっている状態」にすること。
 その点kintoneは外部ツールとのAPI連携が可能で、「情報のコア」になることもできるので、非常に便利ですね。kintoneを更新すれば、連携している名刺管理ツールの名刺データも最新になる、というイメージです。
 新型コロナウイルスで、ビジネスパーソンの働き方は大きく変わりました。しばらくはテレワークの継続が予想されるなか、テレワークで生産性を落とさない環境を整備できるかは、死活問題です。これを機会と捉えて、業務の整理とIT環境の見直しをしてみるのはいかがでしょうか。
(編集:金井明日香 執筆:シンドウサクラ 写真:本間氏より提供 デザイン:田中貴美恵)