コロナで生まれた「2種類の種族」

小学生の子ども2人に家で勉強を教えながら、仕事に必要な業務をなんとかこなす――。ロンドンの大手メディアエージェンシーを共同経営する友人は、こんな日々を何カ月も過ごしてきた。
そして今、新たな難題に直面している。
経済活動再開後の職場には「2種類の種族」が生まれていた。ロックダウンの間も通常通りの勤務を続けていた従業員と、政府助成による有給の自宅待機をしていた従業員だ。友人は、この両者の間に生じている溝を埋めなくてはならない。
この友人のチームのあるスタッフは、3月以来有給で自宅待機を続けているが、自宅待機の間に年次休暇の一部を消化するようにとする会社命令に腹を立てた。友人は会社の規則を守ったが、ロックダウンの間に働かなければならなかった従業員の85%のことも気にかけている。
勤務を続けなくてはならなかった人がどれほどたいへんだったか、自宅待機組は理解していないという思いを、社内の多くの人が共有している。自宅待機から復帰してすぐに夏休みを取得したりしたら怒りを助長するかもしれないと私の友人は言い、職場内の話だから絶対に名前をださないでくれと念を押した。

それぞれの苦境を共有する必要性

有給扱いで自宅待機をしていた何百万人もの従業員が職場に復帰するなかで、多くのマネジャーが同じような状況に直面するだろう。
こうした問題に対処するには、自宅待機者が職場を離れていた間に状況がどのように変化したか、そして職場復帰に際して何を期待されているかをはっきりと知らせるメッセージが必要だと、英国のコンサルティング会社Work Psychology Groupのディレクター、マイア・ケリンは言う。
「そのことが従業員に伝わっていない組織では、有給扱いで自宅待機をしていた人たちが、職場復帰の際に相当なショックを受けることになるでしょう」
この2種類の従業員はそれぞれが、相手は自分が経験した困難な時期を十分に理解していないと考えているため、互いに疑いの目を向けやすい。
仕事を続けた「サバイバー」は高まるプレッシャーの下で苦労したかもしれないが、自宅待機組の多くは今、職場での新しい立場を受け入れるのに苦労している。

職場の緊張状態をいかに和らげるか

今もリモートワークが続いているという現実によって、事態はさらにもう一段階複雑になると、INSEAD教授で組織行動学を教えるアンディ・ヤップは言う。
誰もが居間のカウチや台所のテーブルの前に座ってメッセージを発し、コミュニケーションの大半が秘密裏に交わされ、電子メールやインスタントメッセージのなかに隠される。
「誰と誰が話しているのかわからないし、その力関係を推測することもできません」と、ヤップは言う。「人はストレスを感じ、疲れ、不安になります」
以上のような複合的な問題に対処しようとするマネジャーのために、職場の緊張を和らげるいくつかの戦略を紹介しよう。
妬む気持ちを乗り越える
この数カ月、誰もが本来の自分を見失いそうになり、想像もしなかったやり方で働かざるをえなくなったと言うのは、キャリア開発会社Amazing Ifの共同創設者ヘレン・タッパーだ。
「私たちは一人ひとり業務にあたってきました」と彼女は話す。「マネジャーには従業員という集団に対する責任があり、再度人々をまとめる必要があります」
・負荷を分散する
企業がさまざまな立場の従業員を集めて危機対応チームを編成すれば、意思決定の負担が一カ所に集中しすぎないようにできると、ヤップは説明する。
再統合計画を立てる
自宅待機後の職場復帰は、産休や病気休暇からの復帰とそれほど変わらない。雇用主と従業員は「心理的契約」をもう一度交わす必要がある、とケリンは言う。
休暇中もオフィスと連絡を取り合っている人は、職場復帰のときにそれほど混乱しなくてすむということが明らかになっている。
• 目標を明確にする
この春には、多くのチームリーダーが業務計画を白紙に戻した。マネジャーは、スタッフがこうした変更をきちんと理解していることを確かめなくてならない。これから年末まで、まったく違った職務に取り組む可能性があることを誰もが受け入れる必要がある。
• つながり、共感する
企業とマネジャーは、リモートワークを単なる業務対応ではなく、経験として学ぶ機会ととらえ、有意義な人間関係を育むものにするべきだ。
ある金融サービス会社のスタッフは「ポッドキャストクラブ」を設立した。このように社会的距離を確保しつつ、チーム感覚を構築する取り組みなどもこれにあたると考えていい。
• 個人の成長を二の次にしない
予算は厳しく、仕事の負荷は大きいかもしれないが、そこから得られる奥深い学びを無視するのは間違いだ。特に昇給などの楽しみが検討されない今のような時期には、レジリエンスとチームの結束を促進するための訓練とプログラムが引き続き重要となる。

経済活動再開、ひな型のない未来

ロンドンの教育慈善団体Voice21のレベッカ・アーンショー最高経営責任者(CEO)は、ここ数カ月の状況は実に劇的だったが、マネジャーがやるべき仕事は「ある意味では非常に明快」だったと言う。
停止していた経済がゆっくりと回り出し、時に感染拡大の第二波によるロックダウンやそれに伴う混乱に見舞われながらも回復の時期に入るにつれて、やるべきことはだんだん不明確になる。
「今の状態は、はるかに複雑で微妙なニュアンスに満ちています」と、アーンショーは言う。パンデミックの発生とともに、アーンショーは20人の部下の半数以上を自宅待機にしたが、そのうち7人がまだ仕事に復帰していない。
「定型のやり方はないのです」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Adam Blenford、翻訳:栗原紀子、写真:Anchiy/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.