[東京 26日 ロイター] - 第2次安倍内閣で内閣官房参与を務めた藤井聡氏(京都大学大学院教授)は、歴代最長政権となった安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」について、消費増税によって第2の矢である財政政策が十分に機能しなかったとの見方を示した。

その上で、足元のコロナ禍で内需が低迷する状況に対応するため、さらなる財政出動と消費税減税が必要と語った。24日に書面で回答した。

<財政政策がマイナスに>

藤井氏はアベノミクスの成果について、「2014年3月までの期間、消費税5%の状況下で10兆円の補正予算を組んだこと。この時、非常に大きな効果があったことは間違いない」と指摘。3本の矢のうち、2本目に当たる「機動的な財政出動」の初期の対応を評価した。

一方で藤井氏は、「14年の消費増税で、この成功は消し飛んでしまった。そもそも第2の矢は『財政支出額マイナス増税額』で測るべきもので、増税前まではプラスだったものが14年4月の増税以降、それがマイナスになった」と説明。「アベノミクスをやろうとしてやれなかったことを意味する」との見方を示した。

「第1の矢(大胆な金融政策)や第3の矢(民間需要を喚起する成長戦略)をいくらやっても、第2の矢を打たなければ資金は市場には回らないし、デフレも終わらない」と述べた。

成長と財政健全化の両立を目指す政策運営に関しては「もちろん大正解」とする一方、「増税と緊縮、国債発行額の縮小(プライマリーバランス赤字の縮小)を通して、経済再生でなく経済悪化を導いた」と指摘。「プライマリーバランスの赤字の縮小は、短期的には財政を改善するように見えても、翌年以降の財政を悪化させる。旗印は正しかったが、その旗印に基づく財政運営をしていなかった」とした。

14年4月と19年10月の消費税増税が「成長を止め、国民の貧困化を助長した。実質賃金の下落が一番わかりやすい尺度で、決まって支給される給与は1割以上、平均で下落することになった」とした。特に消費税率10%への引き上げは「税収すら下落させる効果を持った」と語った。

<財政健全化へデフレ脱却>

藤井氏は、足元の新型コロナウイルスの感染拡大が日本経済に与える影響について、賃金の下方圧力がかかると指摘。「外国と比べれば失業率の上昇は限定的である可能性は考えられるが、需要が減少している以上、失業の拡大と、賃下げ圧力は避けられない」と述べた。

その上で「さらなる財政出動、消費税減税こそが財政を改善する最善の方法。さもなければ、それこそ財政発散をもたらす」とし、 「デフレ脱却なくして財政健全化はない。デフレ脱却のためには消費税の一時凍結と損失補償、長期的投資のための財政支出が不可欠」と語った。

(梶本哲史 編集:山口貴也、久保信博)