【佐渡島庸平×中山淳雄】情報過多の時代のコンテンツ論

2020/9/9
NewsPicks NewSchoolでは、10月から「ビジネスストーリーメイキング」プロジェクトを始動する。プロジェクトリーダーを務めるコルク佐渡島庸平氏が、『オタク経済圏創世記』著書のブシロード執行役員中山淳雄氏とともに、コンテンツビジネスの未来像を論する(全5回)。
【佐渡島庸平×中山淳雄】リアルにあって、デジタルにないもの

「バズり」より「バズりの後」が大事

──ほかに中山さんの本で、佐渡島さんが印象に残ったところを教えてください。
佐渡島 「バズ」に関する内容が面白かったですね。
「Twitterのように人々の口コミが気軽に広がり、勝手に盛り上がる現代という時代は、デジタルの力を借りることで、流行することの価値がどんどん下がっている。ちょっとした流行など、そこら中で起こるようになり、画像やテキストはあっという間にシェアされてしまう」

引用:『オタク経済圏創世記』(中山 淳雄/日経BP社)
「流行の価値が下がる」というのは、まさにその通りだと思いました。実は僕の本でも「バズりは価値がない」ということを書いているんです。
佐渡島 庸平/株式会社コルク 代表取締役
中山 小さい集団がいっぱいできているから、引っかかるところはちょこちょこありますけどね。今後は2段、3段ロケットをつくるのが僕のテーマです。
──2段、3段がない限り、もはやほぼ意味がないというか。
中山 そうですね。たとえば、「ベイブレード」というアニメが今アメリカでものすごく流行っているんです。
1期目が2001年、2期目が2008年くらいで、今3期目で、一番売れている。
実はSNSやYouTubeでどんどん配信して、出し方をちょこちょこ変えることで、けっこうな数字になっている。
この業界にいると、そういうちょこちょこした売れる理由が見えてきますが、基本的にはコミュニティ施策をガツガツ回している。
それを転用していくと、いろんなものがヒットする再現性が出てくるのかもしれない。そういう法則を抽出したいですね。
中山 淳雄/株式会社ブシロード 執行役員
佐渡島 とにかく、人はすぐ忘れてしまうし、興味も失ってしまうから、その日常的に見えるようにしておくことが重要です。もはやメディアでの周期配信が、日常的に目にはふれるとは言えない感じですよね。
──週刊誌モデルの意味がなくなっているということですか。
佐渡島 1週間前の週刊文春のスキャンダルがなんだったか、全然思い出せないでしょう。
──そのバズりを生んでいる週刊文春の部数が落ち続けているというのが、象徴ですよね。あれだけバズっても、売れていないということですもんね。
中山 コンテンツに線が必要なのかもしれませんね。
毎日見ているって、情報疲れしますよ。自分としては追うべきアイテムがいくつかあったはずなのに、このちょっとした記事を読んでいるうちにもう1時間たってしまった、みたいな。
SNSのゴシップニュースだけ見ている人はすごく多いでしょう。

妖怪ウォッチが消えた理由

──まだいっぱいありますよ、引用が。
佐渡島 この部分ですね。
「21世紀におけるエンターテイメントは、情報過多を常態とする必要がある。繰り広げられているのは、ユーザーのアイボールの獲得競争である。その後ユーザーの行動自制をおさえ、購買タイミングにそのプロダクトの価値を適切に伝える必要がある。

エンターテイメントは既に成熟の極みにある。競争環境の激しい中で、ブルーオーシャンを捕まえるには、小さなユーザーの志向型のコミュニティを押さえるところから始めるべきだ。

幸いデジタルの力によって、小さいコミュニティの発見は容易になった。その育成もしやすくなった。コミュニティの照準をコンパクトにしぼって、まずは小さなヒットを打つことから始めれば、その後に展開する大きな動きには対応しやすい」
引用:『オタク経済圏創世記』(中山 淳雄/日経BP社)
だからまだフォロワーが1000人とか2000人くらいの段階で、漫画家が自分のコミュニティを強くしていく行為が重要だと思っています。
Aja Koska/iStock
そして、あえてフォロワーを増やさない。そのあいだに、自分の作家としてのテーマを決める。それでフォロワーの質を似せていくようにしたほうが勝てるんじゃないか。
ドラァグクイーンという、派手に女装するゲイの人たちがいるでしょう。レディー・ガガは一番初めに、ドラァグクイーンの小さいコミュニティの中で、彼女を知らない人がいないという状態を1回つくったんですよ。
中山 それが最初の集団だったんですね。
──マツコデラックスさんも似ていますね。もともとゲイ雑誌の編集長ですから。
佐渡島 すごく狭い業界に限定されるけれど、そこでは誰も知らない人がいないくらい、圧倒的な知名度を誇る状態をつくるのが重要だと思います。
中山 佐渡島さんの本(「WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE~現代の孤独と持続可能な経済圏としてのコミュニティ~」News Picks Books)って、こういう難しいタイトルにしたのは、そういう理由なんですか。
佐渡島 幻冬舎の箕輪厚介さんが、「何も書いていない、白い本でも売ってみせる」と言っていたでしょう。
それに僕は小難しいことを言っているから、たくさん売れることにあまり意味がないと思っているんですよ。
中山 タイトルから立たせようという狙いがあったんですか。
佐渡島 そうです。僕には「コルクラボ」という狭いコミュニティがあって、箕輪さんも「みの編(箕輪編集室)」という狭いコミュニティがあって、それに加えてNewsPicksというコミュニティがあった。
3つのコミュニティをかけ合わせたら、英語のタイトルでも買う人はどれくらいいるか知りたくて。
もし自分が編集者だったら、絶対に英語のタイトルなんてつけさせませんよ、売れないから。
でも自分の本だから売れなくてもかまわないからやってみたいと言ったら、箕輪さんが「いいんじゃない」と言ってくれた。実際、このタイトルでも2万部ぐらい売れました。
中山 支える団体の質が高かったんですね。
佐渡島 もともとは200人くらいですよ。でもそういう人たちがSNSなどで発信してくれました。
中山 これを見ていたら、あえて狭くする必要があるのかなと思ってしまいますね。参入障壁が差別化になるかもしれない。
佐渡島 圧倒的に売れているときって、買うのは応援してくれる人じゃありませんよね。
5万部、10万部、安定的に売れるように、コミュニティをゆるやかに大きくしていって、まず2万部が3回繰り返せたあとに、5万部を目指す。
5万部を3回繰り返したあと、10万部を目指すのならいいんです。でも1回ドンと、一発目で10万売れても、そのうちの8割くらいは、「実は著者の名前を知りませんでした」みたいな人たちだからあまり価値がない。
中山 やはり勝ちすぎると危険ですよね。その基準でしか考えなくなるから、目が曇るということがまず1つ。
2つ目はやっかみも含めて周囲からの攻撃が強くなる。
だから中ぐらいのヒットのほうが継続性が高い。妖怪ウォッチは爆発的でしたけど、急速に下がってしまいましたね。
──妖怪ウォッチはなぜ人気が落ちてしまったんですか。
佐渡島 「コンテンツを出しすぎた」という話は聞きましたけど。本当はコンテンツの連鎖にストーリーと期待値を持たさなければいけないんですよね。推測するに、あらゆる商品を出しすぎて「これで終わった感」が出てしまった。
── 一発屋の芸能人と同じですね。
佐渡島 ポケモンを倒せると、ちょっと思ってしまったのかもしれない。
中山 もしかしたら途中で目が曇ってしまって、まだいけると思っていろいろな商品を出しすぎたのかもしれませんね。
全部で42.195キロなのに、20キロ地点でラストスパートをかけたみたいに。
佐渡島 でも、うちの息子も大好きで、まだ見てる。
あまりにも圧倒的な勢いだったから、終わったという人がいるけど、丁寧にやっていくとまだまだずっと子供に愛される作品になる可能性は十分ありますよね。

コンテンツ創りと一夫多妻制

──まだいっぱい引用がありますよ。
佐渡島 まず、「人が集うとそれ自体が遊びになる」という章タイトルがすごくいいと思いました。
「ヒット商品の本質は、その商品の提供する機能そのものではなく、ヒットしており、自分の周囲が消費しているという事実である」
引用:『オタク経済圏創世記』(中山 淳雄/日経BP社)
周囲の人とその作品についてしゃべれるというのは、すごい価値ですよね。
ニコ動が面白いのは、つまらないコンテンツについてしゃべるのがめっちゃ面白いからでしょう。
つまりコミュニティがあると、あまりにもつまらないこと自体が超楽しくなってしまう。
中山 僕、今、漫画アプリで、「愚者の皮」(草野誼作・ぶんか社)という、いびつな漫画を読んでるんですけど、コメント欄があるんですね。そのコメント欄で、作品が描かれた当時だからこそありえた設定をみんなでクサしながら喜び合ってるのが面白い。
コメントを書き込んでいる人のなかに、本当に作品を読んでる人は2~3割しかいませんね。
ニコ動もそうだけど、みんなのレビューのほうが面白い。
佐渡島 だからどんどんメタ的な楽しみ方もできるようになっている。
今までは本というもののレイヤーが1つしかなかったのに対して、デジタル上でレイヤーを複数にできてしまうので、本当にさまざまな楽しみ方ができるようになっていると思います。
中山 1だけ、突っ込んでいいですか。
アニメ民とか、オタク系って、ハイコンテクストな楽しみ方が強すぎて、批評家になりすぎるんですね。
勝手に盛り上がったり、勝手に見下げたりして、皆が高等遊民になってしまっている。
初期からのファンの結束が固いのはいいんだけど、固すぎて新参者がブロックされたりする。そうなると、いわゆる「マニアがジャンルを殺してしまう」と思うんですよ。
佐渡島 そういうことの繰り返しですよね。でも「家虎根絶」のときはえらい話題になってましたね。
中山 「ブシロード」創業者の木谷高明がアイドルのライブでファンが「イエッタイガー」と掛け声をかける、いわゆる「家虎」をやめさせると宣言した件ですね。
あれは本人してやったりで、朝起きたらえらい騒ぎになってたと言ってました。
※明日に続く
(構成:長山清子、撮影:遠藤素子、デザイン:九喜洋介)
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