【移動とビッグデータ】政策立案にも必要不可欠となったMaaS

2020/8/19
MaaS事業者は、交通事業者の運行関するデータ、アプリ利用者のビッグデータなどを日々収集し、自社サービスの改善に活用してきている。
コロナ禍においては、MaaS事業者がパンデミック発生直後から、都市の活動量や移動量に関する情報を提供し続けている。例えば経路探索をグローバルに展開しているCitymapperMoovitTransitなどが代表だ。
Citymapper(シティマッパー)は都市毎に移動の活動量を指標化し、自社サイトで毎日レポートを続けており、データもダウンロード可能だ。
公開されているデータを用いて国立シンガポール大学の研究グループは、例えば図のような世界主要都市の人の移動量の推移を可視化し公開しており興味深い。
世界主要都市の都市活動量の可視化例(出典:シンガポール国立大学)
同様に世界中の政府機関や研究機関などが、MaaS事業者から提供される情報を用い、様々な分析や調査研究を進めている。

インテルが9億ドルで買収したMoovit

Moovit(ムービット)は2020年の5月にインテルが約9億ドルで買収したことでも話題になった。経路検索の企業として成長し2020年時点で、102カ国、3100都市、45言語、市場は8億人を超え、今や巨大グローバル企業だ。
Moovitは、アプリの利用データから日々の公共交通利用の動向をレポートし続けている。ロックダウンが解除された都市においては、7月末時点でも公共交通需要の回復は鈍化しており、厳しい経営状況が続いていることが一目でわかる。
これら交通の移動に特化した指標はMaaS事業者ならではだ。データ標準化やオープンデータが普及し、様々な交通がMaaSとして繋がっていなければ実現しなかっただろう。
Moovitは世界中の公共交通利用動向をレポート
また、プラットフォーマーのグーグルは施設別の移動量を公開しており、公共交通の動向がマクロに確認できる。アップルは移動手段別の移動量を公開し、車、公共交通、徒歩別の動向が確認できる。これらも自社サイトからデータがダウンロードできる。

エストニア発Trafiが独でMaaS

MaaS事業者は、公共交通の利用状況をモニタリングしているだけではなく、新しい移動サービスの稼働状況や利用状況も把握している点が特徴的だ。
今回のコロナ禍においてTrafi(トラフィ)社では、ポルシェコンサルティングと協力し、ベルリンにおける1月から4月までの週ごとの移動の変化を解析している。
Trafiはベルリン市交通局が提供するMaaSアプリのシステムを構築したエストニア発のスタートアップ企業だ。公表された結果によれば、総移動量は58%減少し、特に公共交通利用への影響が大きいことが報告されている。
配車サービスは一般向けには休止しており、利用はゼロである。一方で、自転車利用が増加傾向となっている。自転車利用の増加はニューヨークやパリなどでも報告されている結果と類似の傾向だ。

マイクロモビリティの利用が急増

また、コロナ禍及び外出自粛が緩和された後のマイクロモビリティ利用状況も報告されている。1月上旬と5月上旬を比較すると、自転車シェアリングが約209%増、電動アシスト自転車(Moped)が597%増、電動キックボードが507%増と急増していることがうかがえる。
Trafi社は、外出自粛や社会的距離の確保が求められる中で、人々の移動手段の選択性向がどのように行動変容していくかを解析し、社会に提示している。
ベルリンにおける1月と5月前半のマイクロモビリティ利用状況比較

オープンデータ化、世界500都市が対象も日本は…

世界約500都市を網羅する自転車シェアリングのオープンデータプラットフォームBIKE SHARE MAPは、リアルタイムな自転車シェアリングの稼働状況をパンデミック前から伝えている。
自転車の分野でも世界中でオープンデータが進む一方で、このBIKE SHARE MAPには日本の稼働状況が金沢や富山以外ほとんど表示されていないのは残念だ。
昨年11月~12月にかけて、フランスで大規模なデモが長期間続き、公共交通機関の運行が休止した。その間、自転車シェアリングや電動キックボードが市民の移動を支えており、稼働有無や稼働状況のリアルな様子を市民の誰もが確認できたことは、オープンデータが進展していたからだろう。
世界の自転車シェアリングの稼働状況を可視化
わが国でもEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)による政策の推進が言われて久しいが、思うように進んでいないのが実情だ。
英国政府は、この間、日々自国のセンサーから収集されるデータから、道路交通、自転車交通、公共交通機関の利用動向を分析し、毎週水曜日の午後2時に最新の状況を報告している。
海外のプラットフォーマーのデータに頼らず、マルチモーダルな利用動向を自国のデータソースから更新し続けている英国政府の姿勢は、国民の信頼に値するのではないだろうか。
MaaS事業者も自社の利益だけにとらわれることなく、このパンデミックにおいては積極的に政策意思決定者や市民に情報開示を行ってきた。
MaaS事業者の社会的な役割や価値は、パンデミックの経験を通して、市民からも一層期待、信頼されていくことになるだろう。