失われた経済バランス。再構築のカギは「技術と物語」。

2020/8/19
 JTがこれまでにない視点や考え方を活かし、様々なパートナーと社会課題に向き合うために発足させた「Rethink PROJECT」

 NewsPicksが「Rethink」という考え方やその必要性に共感したことから、Rethink PROJECTとNewsPicksがまさにパートナーとしてタッグを組み、ネット配信番組「Rethink Japan」をスタート。

「Rethink Japan」は、これからの世の中のあり方を考え直していく番組です。

 世界が大きな変化を迎えている中で、歴史や叡智を起点に、私たちが直面する問題を新しい視点で捉えなおします。全6回の放送を通して、文化・アート・政治・哲学などといった各業界の専門家をお招きし、世の中の根底を “Rethink” していく様子をお届けします。

波頭亮が語る、今“Rethink”したいテーマとは

 Rethink Japan、初回の収録は、モデレーターを務める佐々木紀彦(NewsPicks CCO/NewsPicks Studios CEO)と、経営コンサルタント・波頭亮さんの軽快なトークでスタート。
 番組を通して、どんなことを ”Rethink” していくのかーーー。
 波頭さんの考える「今問うべきテーマ」を軸に、セッションは大きな広がりをみせた。

崩れはじめた民主主義と資本主義

佐々木紀彦 NewsPicksの佐々⽊です。早速、ナビゲーターをご紹介します。経営コンサルタントの波頭亮さんです。
波頭亮 よろしくお願いします。
波頭亮(はとう・りょう)経営コンサルタント。1957年生。東京大学経済学部経済学科卒業。82年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。88年コンサルティング会社XEEDを設立。著書に『成熟日本への進路』『プロフェッショナル原論』(いずれもちくま新書)、『組織設計概論』(産能大学出版部)などがある。
佐々木 波頭さんは「Rethink」という番組コンセプトを聞いて、まずどんな感想を持たれましたか。
波頭 以前から、産業革命後に確立された民主主義や資本主義が明らかにうまくいかなくなってきていると感じていて。新しく世の中を⽀える価値観を、根本から考えなければという問題意識があった。
 そこに、このコロナウイルスの流行で、物理的にもはっきりと変化が現れているよね。「ニューノーマル」という言葉も出てきている。
 まさに今が、世の中や我々の意識を根本からRethinkするいい機会だと思っています。
佐々木 ベストタイミングということですね。今回は、NewsPicks Studiosのアンカーお二人もお招きしています。一人目が徐さんです。
徐亜⽃⾹ つい最近、清華⼤学に新しく建設されたシュワルツマン⼤学院を卒業しました。これまでに世界41カ国を訪問し、インターンシップや留学を経験してきたので、そこで⾝についた知識も活かせればと思っています。よろしくお願いします。
佐々木 もう一人のアンカーは、安田クリスチーナさんです。
安田クリスチーナ ⾼校時代は北海道の公⽴⾼校でおとなしく勉強していたんですが、その後いきなりフランスに渡ってパリ政治学院で政治や国際法を学びました。現在はマイクロソフトで国際交渉を担当していて、同時にNGOの活動も続けています。よろしくお願いします。
佐々木 早速「今考えるべきテーマ」について深堀りしていきます。先ほども民主主義と資本主義という言葉が出ましたが、まずは「政治と経済」が大きなテーマだと思います。
 波頭さんは10年前に『成熟日本への進路』という本を書かれていますが、民主主義と資本主義のバランスの悪さ、相克、というのが波頭さんの一番の問題意識なのではないですか。
波頭 相克ではなく「癒着」だね。経済が政治を買収して、世の中が資本主義の思うがままになっているのが問題だと。
 経済の仕組みの根本を提示したのがアダムスミスの『国富論』だけど、本来、世の中の土台となるべきは、経済合理性以上にエシックス(倫理)だと思う。そこが随分と弱体化してしまっている。
安田 人々の意識をどう改善するかはとても難しい問題だと思いますが、今は世界的に「若者による変革」が期待されていると思います。その点についてどうお考えですか。
波頭 僕としては、若い人のほうが思い切ったことをやれると思ってる。
 昔は、社会を変えるには絶対に革命が必要だと思っていたんだけど、これまでの革命を振り返ると、随分と血が流れてしまったし、非常に長い時間がかかってる。革命の主導者たちが、革命後もっと全体主義的な政治をすることもある。
 だから革命的な運動ではなくて、しがらみの少ない若い人が提案をして、サポートしてくれる大人を見つけながら少しずつ変えていく、というのが最良の社会シフト方法なんじゃないかなと今は思ってるんだよね。
佐々木 昔は、そういった革命を通して民主主義が目指されたわけですが、先ほど波頭さんは、今は民主主義が経済の思うがままになっていて、うまく機能していないとおっしゃってましたね。

テクノロジーは人類の社会的土台

波頭 そう。その原因のひとつが、メディア。特に、日本がこうしてずるずるいろんな意味で革新しないのは、メディアの中立性に問題があるから。
 イギリスのBBCは、政権に予算承認を握られた組織で、その点、NHKとすごく似ている。
 昔、BBCが反政府的な報道を多く行なったことを理由に、政府が予算を承認しないと言った。そのとき、BBCは「予算が認められなかったので番組の放送ができません」って1日中サンドストームを流したんだよ。
 それくらい体を張って、報道の中立性や自由に対して抵抗した。日本のメディアに関わる人たちも、「第四の権力」を握っている自覚がないといけないよね。
安田 日本のメディアを変えるにはどうしたらいいと思いますか。
波頭 結局のところ良心、エシックスだと思うんだよね。メディアを担う人たちが、中立性を損ないかけたときに踏みとどまれるかどうか。
 今「ニューメディア」と言われるように、人工知能などの技術がメディアにも入ってきていますよね。人々の見たいものを機械的に選別し発信していく流れがあります。
波頭 まさにそう。世の中の仕組みを構築し直すときの方法は「技術と物語」なんだよ。
 テクノロジーってずっと経済の道具にされてきたけど、世の中の構造を根本的に決定づける、もっとすごい力がある。農業や航海術、産業革命、コンピューター。そういうテクノロジーが人類の社会的土台を決めてきた。人間が決めているのは、その上にあるルールや仕組みでしかない。
 そして僕は、その土台(テクノロジー)を生み出すときに、「どういう世の中がいいか」「何が大事か」という指針を人の心に植え付けるのは、「物語」だと思っているんだよね。
 でも今は、テクノロジーが発達し続けている状況なのに、「こういう世の中になるといいよね」ってみんなが共有できる物語が失われている。
佐々木 波頭さんがおっしゃっているのは、あらゆるレイヤーでの「物語」ですよね。国家ビジョンも企業としても個人としても。確かに、失われている気がします。

人々の意識を変える唯一の手段は「物語」

佐々木 日本もその国家ビジョンを一から考えなきゃいけないと思うんですけど、国家のモデルとして、政治・経済と物語がうまくかみ合っているような国はありますか。
 例えば北欧だと自由経済で、福祉が充実しています。中国だとテクノロジーを重視して、民主主義ではないですが資本主義としては強国です。
波頭 理想、とは言えないけど、フランスはどうだろう。個人の自由と多様性をすごく尊重してる国だよね。主要なヨーロッパ国家の中では一番国民負担率(国民全体の所得に占める、税金と社会保障費の負担割合)が高くて、年収2000万円を超えた分は9割くらい税金で取られる。
 でもみんな、「自分が税金を払わないために、母子家庭の子供が学校にいけないなんて状況を見聞きするくらいなら、それくらいのコストは払う」って言うんだよ。
 日本の社会で、そのような感覚を目覚めさせるにはどうすればいいのでしょうか。
波頭 メンタリティや習慣だと思う。寄付税制はアメリカとほぼ一緒なのに、一人あたりの寄付額ではアメリカの15分の1という話もある。かなり低いもんね。
 お金を稼いだとき「社会に還元したい」というより「もっと自分が稼ぎたい」「自分のために使いたい、蓄えたい」と思う人が多いからこうなってるんだよね。まだまだお金と権力に価値を感じてる人は多いと思う。
 そのためにも僕は「物語」だと思ってるんだよ。どういう人生に意味があるのか、何を幸せと実感するかっていうのは、物語が決めてると思うから。
 その「物語」を作るのもメディアの大事な役割ですよね。

「技術と物語」で、これからの世の中をRethinkする

佐々木 メディアと教育ですよね。波頭さんが「文学部の逆襲」「リベラルアーツが大事」とよくおっしゃいますが、そのあたりもぜひ山口さん(第2回ゲスト/独立研究家)や新井さん(第3回ゲスト/数学者)と語っていただきたいです。
 特にリベラルアーツに注目する背景は、まさに「物語」に関係しますよね。
波頭 いろんな背景があると思うけど、テクノロジーの進化によって、今まで言われていた「賢い」の基準がコモディティー化してきてるんだよね。これからはもっと、文学や音楽、哲学なんかの人文的なものが物語を構成していくと思う。
 番組を通して、そういう哲学的な視点を常にアンカリングしながら、これからの経済やアート、教育などの根底を見極めていきたいと思っています。
佐々木 民主主義と資本主義、メディア、などが第1回のキーワードになりましたね。
 最後に総括の意味も込めて、今後5回のRethink Japanのためのキーワードを書いていただきたいです。
波頭 「技術と物語が世の中を形作る」
 技術の発達についてはあちこちで語られているけど、僕は、物語についてもう少し考えたい。技術と物語セットで、皆さんに注目してもらいたいなと思います。
 テクノロジーを使って、どの方向を目指すのか、というのが「物語」の話。それこそ20年、30年かけて、次の数百年の世の中のあり方を決めるタイミングにきていると思います。
佐々木 ありがとうございます。
 次回のテーマは⽂化・アートということで独立研究家の⼭⼝周さんをお招きして語りたいと思います。
波頭 私、彼のお話、⼤好きです。
佐々木 それでは皆さん次回をお楽しみに。波頭さん、ありがとうございました。
 Rethink PROJECT(https://rethink-pjt.jp/

 視点を変えれば、世の中は変わる。

 私たちは「Rethink」をキーワードに、これまでにない視点や考え方を活かして、パートナーのみなさまと「新しい明日」をともに創りあげるために社会課題と向き合うプロジェクトです。

「Rethink Japan」は2020年7月より全6話シリーズ毎月1回配信。

 世の中を新しい視点で捉え直す、各業界のビジネスリーダーを招いたNewsPicksオリジナル番組「Rethink Japan」。NewsPicksアプリにて無料配信中。

 視聴はこちらから。
(執筆:西山桜 編集:株式会社ツドイ デザイン:斉藤我空)