「AI×マッチング」で23万台のタクシーをもっと便利に

2020/8/18
タクシーの「カラ走行」と対照に「満員電車」が戻り、「移動弱者」はさらに出かけなくなる──。経済活動が再開されるなか、公共交通に頼ったこれまでの交通網だけでは、人々の移動ニーズに応えきれていない。
モビリティに潜むこれらの課題を「AI×マッチング」で解決する相乗りサービス「nearMe.(ニアミー )」を始めたのが2017年創業の株式会社NearMeだ。
誰もが思い通りに利用できる「オンデマンド移動」のこれからについて、代表取締役社長の髙原幸一郎氏に話を伺った。
本連載は、次世代モビリティをテーマにした番組「モビエボ」と連動。番組に登場するイノベーターの取り組みやビジョンをさらに深掘りしていく。
独自AIを活用して効率的なルートを作成
──タクシーの相乗りアプリを提供されていますね。これまで日本でありそうでなかったサービスですが、まずは、アプリ「nearMe.(ニアミー)」のビジネスモデルを教えていただけますか?
髙原 ニアミーは、簡単に言えばタクシーの相乗りマッチングサービスです。
 タクシー乗車前に同じ方向に行く人同士をマッチングして1つのグループを作り、AIを活用して効率の良いルートを計算して、グループとタクシーをマッチングします。
 最後に降りる人がタクシー代金を支払い、ニアミーを通じて自動的に割り勘金額が算出され、途中下車した人ともキャッシュレスで決済できます。ニアミーは乗車したユーザーさんからサービス料をいただくビジネスモデルです。
タクシー相乗りも、事前マッチングなら可能
──タクシーの相乗りは日本では禁止されていると思っていました。
 確かに、タクシー会社自身は法規制があるため、不特定多数の乗客が相乗りするサービスができません。不特定多数の乗客が相乗りする場合、通常のタクシーの許認可とは異なり、乗合タクシー用の許認可を取る必要があるのです。
 しかし、乗車前に個人を特定できる乗客同士をマッチングして1つのグループを形成し、乗客同士が同意の下でタクシーに相乗りするのは問題ない。友達や同僚と一緒にタクシーに乗るのと同じ扱いなのです。
 サービス検討時には、弁護士や業界関係者に入念に相談して実現しました。
 タクシーは全国で約23万台あるといわれています。その多くが平均1〜2名程度しか乗客を乗せていません。法律的には最大9人の乗客を乗せられるため、非常にもったいない状態です。
 乗車率の改善はタクシー会社にとっても喫緊の課題で、私は「シェア」が大きく貢献で きると思っています。課題解決に向けて連携して取り組んでいこうと話しています。
 ニアミーは、同じ方向に一緒に行く人、ルートをAIでマッチングします。一緒に乗る相手が見つかったら、その人とタクシーの移動を「シェア」します。そのため、ユーザーさんにとってはタクシーに1人で乗るよりも料金がお得になります。
 実際に乗るのはすべてのタクシーが対象で、タクシー会社の課題にも応えられます。JapanTaxiのアプリと連携しており、マッチング後のタクシー配車もスムーズです。
──事業者ができないからこそ、サービスをローンチできたというわけですね。
 タクシー相乗りの事業の次に生まれたのが、さらに大人数が乗れるワゴンタクシーを使ったサービスです。
 目的地か出発地が固定できれば圧倒的にマッチングしやすくなります。その目的地として最初に挙がってきたのが、空港です。
 オンデマンド型の空港送迎サービス「スマートシャトル」は、2019年8月から成田空港と都内15区でサービスを始めました。今年7月からは東京・羽田空港と都内15区、沖縄・那覇空港と那覇市内の2エリアでもサービスを開始して、国内3エリアでの空港送迎を展開しています。
 その他には、2019年11月に東急不動産と共同で、千葉県中央部にある季美の森ゴルフ倶楽部と都内を結ぶゴルフ場シャトルを始め、2020年1月にはJR東日本スタートアップと新潟市で観光地周遊用のシャトル相乗りサービスの実証実験も行いました。
──新しく通勤シャトルも始められました。確かに、通勤も目的地が同じです。
 成田空港〜都内間の空港送迎シャトルをリリースして半年たち、課題や収益黒字化のポイントが見えてきたところでしたが、このパンデミックに際して注力するべきサービスを変える必要がありました。
 そこで、送迎の仕組みを使って始めたのが事前予約制の通勤シャトル「nearMe.Commute」です。今年6月から東京駅と渋谷駅周辺でサービスを始めました。
 ニアミーのスマートシャトルは乗車前の消毒やマスク着用の義務付けなど感染防止対策を徹底しています。
番組『モビエボ』より
少数の運行かつ乗客を事前に把握した上でマッチングするので、万が一、感染者が出たときにも追跡が可能です。より安心・安全な移動サービスを提供できると思います。
 シャトルが空いている時間帯も多いため、空き時間を活用してフードデリバリーや法人向けの日中の移動用といったいろいろなサービスの展開も考えています。
「自分の近くを便利にして暮らしを快適にしたい」
──タクシーやシャトルといったドアtoドアの移動に着目したのはなぜですか。
 もともと自分の身近な問題を解決して地域を活性化するというテーマで起業しました。「NearMe」という社名にも「私の近くがより便利で暮らしやすくなる」という意味を込めています。身近な問題を考えたときに、日常生活における「移動」は特に大きな課題だと感じていました。
 以前埼玉に住んでいた際、最寄り駅から自宅までバスで移動していました。最寄り駅までの電車は深夜1時まであっても、家までの最終バスは22時台。それを逃すとタクシーに乗るしかありませんでした。
 タクシー待ちは常に行列で、疲れた体には待ち時間もつらい。雨なんて降ったら絶望ですよね(笑)。
 そんな中、同じ方向に行くのに1人ずつ乗車する様子を見て、非効率でもったいないと強く思いました。
 そして、いわゆる「移動弱者」の問題です。当時自宅があった集合住宅のコミュニティは約400世帯で、その多くが70〜80歳代と高齢化が進んでいました。
 今ドアtoドアの移動課題に着手しなければ、買い物や通院など最低限の日常生活すら営めなくなる高齢者、移動弱者がもっと増えると強い危機感を持ったのです。
──なるほど。はじめに着目していたのは、「日常」の移動だったのですね。
 その通りです。しかし日常の移動の前に、まず収益がきちんと出るよう事業化する必要がありました。
 空港送迎など収益化が見込める「非日常」な事業から始め、当初からやりたかった通勤や買い物など日常の移動課題にようやく取り組み始めたところです。
起業家の働き方を見て「自分もやってみたい」と発起
──元々起業を目指していたのですか?
 まったく起業は考えていませんでした。
 もともと、「グローバル×インフラ」をキャリアの軸にしていて、新卒ではSAPに入社しました。ヨーロッパにある本社に異動するにはMBAが必要だとわかり、30歳で大学院に留学しました。
 留学先で優秀な仲間たちとディスカッションする中で、自分の「目標やゴールを考えてプロセスを考えていく」緻密さが武器になると感じました。
 そして大学院を卒業後は本社に行くか転職するか非常に迷い、悩んだ結果「日本企業で世界一を目指そう」と決めました。そして、当時掲げていた「グローバル イノベーション カンパニー」というビジョンに共感して、楽天に入社したのです。
──海外で自分の強みを見つけるも、あえて日本に戻ってきたのですね。
 はい。はじめは国内で新規事業を立ち上げ、そのモデルを海外展開したりと、事業立ち上げの醍醐味を味わいました。
 アメリカ行きの仕事に手を挙げて抜擢してもらい、買収した海外企業で楽天の事業が着実に成長するよう、経営統合(PMI)と創業者(ファウンダー)をサポートする仕事に就きました。
 彼らの姿がとても印象的で。その事業が大好きで起業して、好きなことにひたすら打ち込む働き方に憧れました。それと同時に、彼らにできるなら自分もできるのではないかと感じたんです。
 社内で新規事業としてドアtoドアのサービスを立ち上げることも考えましたが、大企業には大企業の優先順位があり、いつできるかは正直わからない。それなら自分でやるのが確実だと、起業を決意したのが2017年の夏ごろ、その年末に楽天を退職しました。
 随分悩みましたが、上司も応援してくれて。最後は「これで死ぬことはないし、人生一度きりだからワクワクすることにコミットしよう!」という感覚でした。あのときの決断は正解だったと今も思います。
 それから自己資金300万円でプロトタイプを作り、知人の起業家に見せたところニッセイ・キャピタルのアクセラレーションプログラムを紹介してくれました。ステージが進むと資金調達ができるということで、プログラムに参加して資金援助を受けるまでに至りました。
 実は、そのときのプロトタイプを商品化したのが今展開している相乗りマッチングアプリのニアミーなんです。
 続いてシャトルを事業化して空港送迎が3エリアに広がって、「さあ、ここから行くぞ」と思った矢先に、コロナ禍がやってきました。
コロナ禍で未来がいきなりやってきた
──上り調子で来たところにまさかの事態でしたね。
 海外旅客数が99.9%減り、はじめはやはり動揺しましたが、出張される方など国内の旅客は今のニアミーにとっては十分な規模はありますから、それほど悲観してはいませんでした。
 通勤シャトルは、いつかはやりたいと思っていたのが、未来がいきなりやってきて実現したと思っています。
 今こそきちんとしたサービスを作り、今後インバウンドが回復した際には、20カ国の方々に利用いただいたときよりも充実したサービスが提供したい。今はその準備期間とも言えます。
 旅客の減少よりも、私がいま最も危機感を持っているのは、タクシー会社の倒産です。経営が成り立たない会社が増え続ければ、せっかく乗客が戻ってきたのに乗れるタクシーがないという事態になりかねません。
 ドアtoドアの移動はタクシーにしかできず、なんとしても存続させなければいけない。そのためにはタクシーに乗客をなるべく多く乗せ、フル稼働させる必要があります。
 私たちとタクシー会社で協働して、この危機をなんとか乗り越えていくつもりです。
「自由な移動」でかなえたい未来
──今後、どのような将来を描かれていますか?
 まずはシャトルが当たり前のように浸透して、高齢者がシャトルで病院や買い物に不自由なく行ける世界、免許がなくても移動が自由にできる世界を作りたいですね。移動の主流がドアtoドアになっていく未来は近いはずです。
 そして、私たちニアミーは地域活性化がテーマの会社なので、これからもいろんな地域の「もったいない」を技術で解決したい。最初に手掛けたのが「1人しか乗ってないタクシー」でしたが、次は観光資源など、様々な事象に注目しています。
──日常でも、非日常でも、変わらず「移動」は残ります。
 例えば通勤でいえば、電車やバスは安価で大量輸送できる非常に素晴らしい移動手段です。しかし、今後は3密回避のために近くの人は徒歩、自転車、シャトルを使い、遠方から来る人が電車やバスを快適に使えるようにするといった分散、バランスも求められるでしょう。
 これからは「近隣の人/遠方の人」「通勤客/観光客」など、移動する人全員の快適さと安全性を考えなければいけない。これは、日本だけでなく世界中で必要ですよね。
 同じ仕組みを使って別の地域の課題を解決できる。高齢者の課題、混雑解消の可能性もあって、日本全国に広がっていくと海外でも必要なところに広がるはずです。
 シャトルやタクシーが、個人の移動や公共交通機関とをつなぐ役割を担うことで、社会全体で人の移動をシームレスにしていければと思っています。
(取材:久川桃子、執筆:柴田祐希、編集:安西ちまり、撮影:小池大介、デザイン:月森恭助)