2020/8/9

【新】なぜ今、韓国コンテンツが日本を席巻しているのか

国際社会文化学者/ タレント(ホリプロ所属) 株式会社BeautyThinker CEO
教養を身につけたいけれども、忙しすぎて学ぶ時間が取れない。一方で、日々のニュースだけでは、体系的な知識を得られない──。
そんなビジネスパーソンに向けて、NewsPicks編集部が月ごとにテーマを設定し、専門家による解説をお届けする連載「プロピッカー新書」。毎週末に記事を掲載し、計4本で「新書1冊分の知識」が身につくはずだ。
今月のテーマは「韓国コンテンツ」。
Netflixで常に上位にランクインしている『愛の不時着』『梨泰院クラス』や、社会現象ともなっているアイドルオーディション企画の「Nizi Project(虹プロジェクト)」など、2020年になって、韓国コンテンツのヒット作が続々と生まれている。
なぜ今、韓国コンテンツは再び流行しているのか。『冬のソナタ』が2003年に日本で放送されてから約20年間で、劇的な進化を遂げた韓国コンテンツの秘密について、韓国文化の研究者でNewsPicksプロピッカーのカン・ハンナ氏が、4回にわたって解説する。

もう「韓流ブーム」とは呼ばない

コロナ禍でのオンラインコンテンツへの追い風もあり、過去最高益を記録しているNetflix。ここ数カ月、日本版ランキングのベスト5には、韓国ドラマの『愛の不時着』と『梨泰院クラス』がランクインし続けていることに気づかれた方も多いかもしれません。
そして、ソニー・ミュージックと韓国の大手芸能事務所「JYP」が手掛けるアイドルオーディション企画の「Nizi Project(虹プロジェクト)」。
2019年の始動以降、HuluやYouTubeなどで視聴者数を増やし続け、同プロジェクトから生まれたアイドルグループの「NiziU」は、デビュー曲の公開初日に動画再生回数が1千万回を突破するなど、空前のヒットを記録しています。
『冬のソナタ』が日本で放送された時期を「第1次韓流ブーム」と呼ぶとすれば、現在の韓国コンテンツの盛り上がりを「第4次韓流ブーム」と呼ぶメディアもあります。(韓国コンテンツの歴史については、連載の第2回で詳述します)
ただし私を含めた研究者は、今回の現象を「韓流ブーム」と評するのは、少々ミスリードだと考えています。
「韓流」とは、1990年代後半から2000年代前半にかけて、韓国コンテンツを中華圏で広めるために使われた言葉です。いまや韓国コンテンツは世界的に定着しており、Koreaの頭文字「K」から「Kポップ」「Kドラマ」「Kビューティー」「Kフード」などと呼ぶのが主流となっています。
また「ブーム」とは、一過性の流行や社会現象を指します。しかし韓国コンテンツはすでにエンターテインメント産業として地位を確立しており、世界中の多くの国で固定ファンを獲得しています。
そのため元々存在していた固定ファンの上に、今回の『愛の不時着』のような大ヒット作品が生まれたことにより、新しいファンが加わり、さらに大きな盛り上がりを見せているというのが、今の構図だと言えます。

中高年男性さえも泣かせる「物語性」

ではなぜ、今の韓国コンテンツが、これまでの固定ファンを超えた人々にまで届き、大きなムーブメントを生み出しているのでしょうか。
まず、ドラマから説明しましょう。
愛の不時着』は、2019年12月から韓国の地上波で放送され、日本では今年2月からNetflixで配信されています。
あらすじを紹介すると、韓国の財閥令嬢で化粧品会社社長のユン・セリが、余暇でパラグライダーをしていたところ、竜巻に巻き込まれて北朝鮮に不時着。助けてくれた北朝鮮の軍人、リ・ジョンヒョクと恋に落ちるストーリーです。
『愛の不時着』の卓越した点はいくつも挙げられますが、特に①深い物語性②社会情勢とのマッチ③現代的なジェンダー感覚の3つが指摘できます。
ドラマ『愛の不時着』の制作発表会(写真:EPA=時事)
①深い物語性