【ヒーローを運ぶヒーロー】エッセンシャルワーカーの移動を守れ

2020/8/5

ライフラインを支える「エッセンシャルワーカー」

エッセンシャルワーカー(essential worker)とは、ライフラインの維持に欠くことができない仕事に従事している人であり、医療従事者、薬局・スーパーの従業員、公共交通機関で働く人、物流の従事する人、警察、消防士、ゴミ収集作業員などだ。
例えば米国では、国土安全保障省が3月19日、医療、食料農業、エネルギー、交通や物流など16分野185項目の職種を「エッセンシャル・クリティカル・インフラストラクチャア・ワーカー(essential critical infrastructure workers)」と明確に定義し、エッセンシャルワーカーの移動支援を続けている。
このコロナ禍においては、世界中で鉄道や路線バス、新しい移動サービスが医療従事者をはじめ、エッセンシャルワーカーの人々の移動を支えてきた。
米国では、果敢にコロナと闘うこれら交通事業者の人々を、「ヒーローたちを運ぶヒーロー(#HeroesMovingHeroes)」として称賛、UITP(国際公共交通連合)では、「移動の守護神」として彼らの活動をレポートし続けている。

Uber、Grabも医療従事者の移動を支える

独ベルリン市交通局(BVG)が運営しているオンデマンド型交通サービスBerlKönigは、コロナ禍の中、通常の運行を中止し、その代わりに夕方や夜間の医療従事者向けに移動サービスを提供した。
自動車会社ダイムラーとスタートアップのVia社が展開するViaVAN社がこの間、運行を担ってきた。パンデミックが始まる前は、約150台のダイムラーの車両(多くは電気自動車)がベルリン市の東側を営業エリアとして運行、5月27日からは感染症の予防対策を徹底し、定員3人で通常運行を再開した。
配車サービスのGrab、Uber、Lyftなども医療従事者などの送迎サービスを強化した。
シンガポールでは、病院への送迎サービスのGrab Careを通常のメニューに追加、シンガポールの主要な医療機関全てを対象とし、医療従事者の専用送迎サービスを展開した。このような重要な役割を担うドライバーの使命感も高かったという。
Uberは、Uber Healthという患者の自宅と医療施設の間、および医療施設間の最前線の医療従事者の移動を支援するサービスをパンデミック以前から提供してきた。米国では、国内最大の医療組合の1つである1199SEIUと提携し、パンデミックの影響が大きい地域に対して医療従事者を最前線で支援した。
また、ロンドンでは、NHS(国民保険サービス)のスタッフに20万回の無料乗車サービスを、スペインでは、自家用車の所有者が医療従事者に車を貸すサービスを支援し、バングラデシュでは、地元のNGOと協力して、医療スタッフに配車サービスを提供した。
新型コロナウイルスの感染が拡大していく中、配車サービスは厳しい経営環境が続いていると聞く。そのような状況下でも、車両とドライバー、乗客をITで結びつけるプラットフォームを生かし、医療従事者などのエッセンシャルワーカー向けに移動支援を行い国難を支えていく姿勢には頭が下がる思いだ。医療従事者も、安心して移動できる手段が確保されているというこの経験は一生忘れることはないだろう。

電動キックボード事業者の取り組み

電動キックボードのシェアリングサービスを提供している企業も医療従事者などのエッセンシャルワーカー向けの無料の移動支援を行っている。
例えばLyftは米国6都市で無料のサービス提供を期間限定で行った。対象地域は、オースティン、デンバー、ロサンゼルス、ワシントンD.C.、サンディエゴ、サンタモニカであり、1回あたり30分まで無料とし、利用回数に制限はないそうだ。病院周辺に多めに車両を配備し、清掃や消毒の頻度を従来よりも増やすことで支援を行った。
欧州で最大のシェアを誇るTIER社は4月からエッセンシャルワーカー向けに無料の乗車サービスを開始した。開始2週間ほどで、約3.3万回の利用回数があり、利用時間は55万時間に及ぶという。62%が医療従事者、19.3%が食品やスーパーの仕事に従事する人だそうだ。1割弱が警察の利用という点も興味深い。
TIER社によるエッセンシャルワーカー向けのサービス利用者の属性

ロックダウン解除直後、サービスが加速

パンデミックが進行し、公共交通機関でのサービスを継続していくことが困難に陥りつつある中で、世界では新しい移動サービスが必要不可欠な移動(エッセンシャルトリップ)を支えてきた。
ロックダウン解除後においては、これらサービスが加速している状況が各地で生まれている。地域全体の交通サービスの水準を可能な限り維持しつつ、エッセンシャルワーカーの移動を止めない取り組みは今も続いている。
誰もが自動車を所有し利用できるわけではない。それはわが国も同様だ。金沢ではバス運転手の感染により一部の地域でバス輸送がストップする事態も生じた。そうなると、自動車を所有していない人は、移動できずにたちまち孤立してしまう。
今後もエッセンシャルワーカーの移動が困難となるリスクを極力少なくする備えが一層求められる。様々な交通手段や様々なプレーヤーとの連携が、今回のパンデミックを契機に進展していくことを期待したい。