心理的な嗜好でタイプを分ける手法

ハナ・ハーディング(37)は性格診断によれば「内向型」。ロックダウン(都市封鎖)下の生活を謳歌できるタイプのはずだった。オフィスの喧噪にいつも神経をすり減らしていた彼女にとって、在宅勤務は夢だったのだ。
ところが2か月が経ち、さすがにひとりぼっちはもうたくさんと思ったとハーディングは語る。最近では妹の家を訪ね、玄関先で2メートルの距離を保っておしゃべりするようにもなった。
「『私は大丈夫。1人でいるのは楽しいし、何日間も他の人に会わなくても平気だし、すばらしい』と心底思っていた」とハーディングは言う。「でもその後に訪れたのは『ちょっと待って。8週間も誰とも触れあってない』って気づいた瞬間だった」
性格診断ツールMBTIで知られるマイヤーズ・ブリックス社のジョン・ハックストンによれば、さらされているストレスが大きいためにこうした思いを抱く人は決して珍しくない。MBTIは心理的な選好に基づいて人の性格を16のタイプに分けるメソッドで、1960年代に開発されて以降、広く使われている。
企業などの組織はこのテストを用い、生まれ持った傾向は人それぞれで異なるということや、人とぶつかることは必ずしも無礼ではないということの理解を深め、スタッフ間の調和を図ってきた(診断テストの一例がここにあるが、マイヤーズ・ブリックスは有資格者の下で受けることを推奨している)。
MBTIでは4つの指標についてその人の指向を診断するが、ロックダウンへの反応を予想するにはこのうち2つが参考になるかもしれないとハックストンは言う。
1つ目は興味関心の方向、つまり「外向型」か「内向型」かに関するもの。2つ目は外界への接し方に関するもので、「判断型」とされた人は、物事をさっさと決断し実行することを好む。「知覚型」とされた人は、新しい情報や選択肢を積極的に受け入れる傾向がある。
社会的な活動が制約されるわけだから、ハーディングのように内向的な傾向を持つ人たちにとってはいい時期が、外向的な人にはつらい時期が来たと思うかもしれない。
だが、必ずしもそうとは言えない。「ツイッターで内向的な人々が、これはつらくなりそうだと言っているのをよく見かけた。だが、話はそう単純ではない」とハックストンは言う。

極度のストレス下では、逆の性格タイプが顔を出す

何週間も孤独な状態で在宅勤務を強いられるといった、極端なストレスを長い時間受け続けた状況においては、いつもとは反対の行動を取ってしまい、悪い意味で逆の性格タイプのようになっていることに気づくかもしれない。
「自分の好きなプロセスにエネルギーを注ぎ込みすぎて、ガス欠になってしまうこともある」とハックストンは言う。「性格の普段使っていない部分に乗っ取られるかたちで、まったくその人らしくない行動をいきなり取るようになる」
プレッシャーの下では、たいていの人は気に入った方法論に頼りすぎるくらい頼ってしまうとハックストンは言う。お守りのようなものだ。
孤独になってしばらくは、内向的な人々は引きこもりになったように見えるかもしれない。だが、ストレスがあまりにも長い期間続いたり、あまりに強かったりすると、内向的なエネルギーを使い果たしてしまい、精神が反対の性格に「支配された」状態になってしまう。
内向的な人の場合、それは攻撃性や怒りのかたちで――ぎこちないかたちで外向的パーソナリティが出てくるわけだ。
外向的な人の場合は対照的に、他の人からの刺激や元気の素である他者との交流を得ようと騒がしくなる。だが、孤独の中で他者からの注意を向けられなくなると、柄にもなく暗くて陰鬱な内面の世界に引きこもってしまうこともある。
外界への接し方に関しては、判断型の人はルーティンを好む。突然のロックダウンへの移行には困難を感じるかもしれないが、いったん自分のリズムをつかんでしまえば大丈夫だとハックストンは言う。
対照的に、知覚型の傾向がある人は、ロックダウンへの移行はスムーズだったかもしれないが、目先の新しさが感じられなくなると一転して、生活が単調に感じられるようになる。
以下はハックストンに聞いた、性格タイプ別にロックダウン下の生活をスムーズに過ごすためのアドバイスだ。

■ 内向型の人

仕事のできる静かな場所を探そう。ルームメイトと一緒に住んでいる場合は、1人になれる場所で仕事をするか、ノイズキャンセリング機能のついたヘッドフォンを使おう。
同僚とたわいのない会話をもっと楽しみ、機会を見つけておしゃべりするよう努めよう。
静かに座って、起きたことを振り返るための時間を作ること。静かな場所でランチを取りながらでもいい。ただし、仕事机で食べるのではダメだ。

■ 外向型の人

同僚とのつながりを維持しよう。バーチャルなクイズ大会に参加するのもいいし、ズームやスカイプを使って連絡を取り合うのもいい。
家の仕事環境が単調にならないようにしよう。音楽を流すのもいいし、時間を決めて休憩を取って友人とおしゃべりするのもよし。屋外に出るのもいい。
もし必要なら、誰にも邪魔されない時間が取れるよう、周囲に働きかけよう。

■ 判断型の人

突然の生活の変化がもたらすショックを乗り越えるため、できるだけ迅速に新しいルーティンに移行しよう。
部屋の隅に仕事専用スペースを用意しよう。あなたは何であれ、物事をきちんと区分けするのが好きなはずだ。
自宅モードから仕事モードに切り替えるため、朝には仕事着に着替えよう。

■ 知覚型の人

生活を単調に感じないように、その日によって仕事のリズムを変え、スケジュールを変動させよう。
日中の休み時間を延ばし、その分の仕事は夕方に片づけるような時間の割り振りも、必要なら検討しよう。
締切は守ろう。午前2時にいきなり電子メールを送ったりしないこと。同僚が混乱するかもしれない。
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コロナ禍で同じチームの仲間と直接会えなくなったり、コーヒーマシンの前で顔を合わせる機会がなくなった昨今、同僚のパーソナリティが何型かを知ることはとても役に立つとハックストンは言う。
落ち込んでいる様子の同僚がいたらそれを受け止め、元気を取り戻すにはどうすればいいか考える助けにもなる。
「人はいかなる時もバラバラに孤立した存在ではない」とハックストンは言う。「実際、今こそ、みながお互いに助け合うことのできる時だと思う」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jess Shankleman、翻訳:村井裕美、写真:AnthiaCumming/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.