突然リモートワークにシフトせざるを得なくなった多くの企業が、ひっきりなしに開催されるテレビ会議や、1日中続くチャットなどで、チームのコミュニケーションを補おうとしている。毎日「可能な限り早くメッセージに応答すること」が期待されているのだ。
しかし、残念ながら、リモートで働くメンバーをコミュニケーションツールで縛り付けておくと、仕事を進める力は弱められる。
チームリーダーは、オフィスでのリアルタイムでのやり取りを再現しようとするのではなく、リモートワークの企業が何年も実行していることを行うべきだ。
つまり、非同時的なコミュニケーションを受け入れるのである。

非同時的か、同時的か

非同時的コミュニケーションとは、簡単に言うと、すぐに返事が来るとは期待せずにメッセージを送ることだ。たとえば、あなたが私にメールを送って、私が数時間後にそれを開いて返答する。
これに対して、同時的(リアルタイムの)コミュニケーションでは、あなたが私にメールを送ったら、私はただちにその情報を処理して返答する。
会議などの対面のコミュニケーションは、まさに同時的なコミュニケーションだ。あなたが何かを言うと、私はあなたが話している間にその情報を受け取り、ただちにその情報に応答する。
インスタント・メッセージなど、デジタルでのコミュニケーションは同時的である場合が多い。SlackやTeamsなどのチャットアプリでメッセージを送ると、受け取った側には通知が届くので、すぐにアプリを開いてメッセージを読み、ほぼリアルタイムで返答する。
メールでさえも同時的なコミュニケーションとして扱われがちだ。ヤフー・ラボの2015年の調査では、メールの返信までの時間で最も一般的だったのは、わずか2分だったという。

恐ろしい速さで進む「いつでもリアルタイム」のコミュニケーション

過去20年間で、従業員がコラボレーションに使う時間は50%増えた。研究によると、勤務時間の80%を同僚とのコミュニケーションに使うことも珍しくないという。
2019年にアドビが実施した調査では、組織の従業員は1日に平均で3時間以上を仕事のメールに費やしており、会議の時間は週平均6時間だった。マネジャーになると、会議の時間は大幅に増加する。
最近では、インスタント・メッセージのアプリが職場を嵐のように襲っている。平均的なSlackのユーザーは、1日に200通のメッセージを送っている。ある分析会社によると、1000通ものメッセージを送るパワーユーザーの存在も「例外ではない」という。
このほぼ常時のコミュニケーションが意味するのは、平均的な知識労働者は、複数の会議の合間に自分の仕事をし、その間も片目でメールやチームチャットを追って、半分上の空で仕事をしているということだ。
こうしたリアルタイムのコミュニケーションから生じる負荷のために、従業員は集中するのが難しくなる。頭脳のリソースを浪費し、仕事で意味のある進歩を遂げることが困難になる。具体的には、次のようなさまざまな状況が生じてくる。
仕事が恒常的に妨げられる
:リアルタイムでコミュニケーションをするために、頻繁に文脈を切り替える必要が生じ、注意が分散される。その結果、認知的に要求度の高い仕事、たとえばコーディングや執筆、戦略立案、問題解決などを完成させるのが、より困難になる。
生産性より、つながっていることが優先される
:リアルタイムのコミュニケーションの環境では、常につながっていて、連絡が取れる状態である必要が生じる。
もし、つながっていなければ、議論で意見を言うチャンスを得ないまま(あるいは議論にさえも気づかないうちに)、話が先に進んでしまう。
重要な意思決定や議論を見逃さないように、誰もがメッセージを1時間の間に何回もチェックするようになり、そのために、体や心の状態や生産性がダメージを受ける。
不要なストレスをつくり出す
:いつでも連絡が取れるよう期待されているということは、自分のスケジュールを自分で管理できないということだ。日々、能動的に自分で計画を立てるのではなく、受動的に要求に応えているうちに時間が過ぎていく。
ある研究によると、仕事が中断されて失われた時間を補うために、人々は仕事のスピードを上げようとし、それによって「ストレスが増え、苛立ちや時間的なプレッシャー、必要な労力も増す」という。こうした同時性の文化は、「燃え尽き症候群」につながりやすい。
議論の質が低下する
:すぐに返事をしなければならない時には、重要な問題を十分に考えたり、よく練ってから答えたりする時間がない。どんな状況に対しても、最初に出てくる答えは、最高の答えではないことが多い。
仕事から完全に切り離されにくくなる
:モバイル技術の発達により、リアルタイムのコミュニケーションは、実際の職場や勤務時間だけに限られたものではなくなった。私たちはいつでも、昼でも夜でも、休暇中でも週末でも、メールをチェックしメッセージに答えることができ、実際にそうしている。その結果、完全に勤務時間外であることがなくなっている。

より穏やかで、生産性の高い働き方

多くの人が、こうした集中力の分散や中断を仕事の一部として受け入れている。しかし、リモートワークの企業、たとえばジットラボ(Gitlab)やザピアー(Zapier)、オートマティック(Automattic)、ベースキャンプ(Basecamp)、バッファー(Buffer)、そして私の会社であるドゥーイスト(Doist)などの企業は、もう何年もの間、より非同時的なコラボレーションのアプローチを取り入れている。
つまり、従業員が同僚といつコミュニケーションを取るかに関して、従業員自身がコントロールできるようにしている。そのメリットは何なのか、主なものを以下で紹介しよう。
1日のスケジュールを自分で決められ、従業員の幸福度と生産性が高まる
:非同時的な環境では、勤務時間が決められていない。従業員は勤務日の1日をどう組み立てるか、ほぼ完全に自分で決めることができ、自分のライフスタイルや体のリズム、仕事以外の責任(たとえば子どもの世話など)に合わせることができる。
反射的ではない、質の高いコミュニケーションができる
:非同時的なコミュニケーションは、たしかにスピードが遅い。しかし、その一方で質は高くなる。情報のムダな行き来を避けるために、従業員はより明確かつ十分に言葉を伝えられるだろう。
よりよい計画立案でストレスが減る
:ギリギリになってから「なるべく早く」と急ぎの依頼ができないため、前もって計画を立てる必要が生じる。仕事量や業務の連携について慎重に計画を立てるようになり、最終的にはチームワークの質も高くなる。
仕事への深い集中が当たり前になる
:メッセージが届いた瞬間にその内容を把握する必要がなくなると、組織にとって最も高い価値を生み出す仕事のために、従業員はまとまった時間を確保できるようになる。
自動的な文書化と透明化が進む
:非同時的な職場では、コミュニケーションの大半が文字で行われるため、重要な議論や情報が自動的に文書化される。特に、メールではなくチーム向けのツールを使っている場合はそうである。これによって、議論の検索や参照、共有がしやすくなる。
1日が終わって接続をやめてもペナルティはない
:従業員は1日の仕事が終わったら完全にネットワークからの接続を遮断することができ、重要なことを見逃す心配もない。エネルギーを蓄え、翌日もリフレッシュして働くことができる。

チームを非同時的なマインドセットにするために

非同時的なコミュニケーションは、どんなツールを使うかよりも、習慣化することや、トップが持つ期待がより重要になる。マネジャーは、労働時間よりも、実際に成し遂げられた仕事にフォーカスすることが求められる。
また、従業員が自分の時間を思慮深く使うと信じ、毎日24時間つながっていることは、従業員の健康にも、会社の長期的な利益のためにもよくないということを受け入れる必要がある。
非同時的なコミュニケーションを始めるには、まずチームのミーティングのうち、どれを文字でのやり取りに代えられるかを考える。
また、必要ないと思うミーティングをチームのメンバーが提起できるようにしたり、自分が付加価値を提供していないと思うミーティングからはメンバーが退出できるようにする。
そして、仕事に集中したい時には、勤務時間中であっても、メールやチャットアプリなど、チームのコミュニケーションツールから接続を切ってもよいことを知らしめる。どのくらいの時間で、チームの仲間からのメッセージに返答すべきかの目安を、分単位ではなく時間単位で設定する。
さらには、何をするにしても、チームリーダー自らが期待する行動の模範となるようにし、自分の勤務時間外にはメールやメッセージをメンバーに送らない。
非同時的なコミュニケーションは、チームの唯一のコミュニケーションの方法とはならないし、そうすべきではない。現在では、対面でのコミュニケーションがこれまで以上に重要になっている。
私の会社も含めて、リモートワークの企業が毎年、何千ドルをも投じてチームのリトリート(会社から離れた場所に集合して行う研修会など)を実施するのには意味がある。チームの一体感を醸成するのには、テレビ会議や楽しむことを目的としたグループチャットも不可欠なツールではある。
しかし、こうしたリアルタイムのコミュニケーションは常態とはせず、例外に留めるべきで、決してそれを当たり前のものとすべきではない。
従業員に常時接続を求めない企業、すなわち、他者と連携した業務と自ら集中する業務とのバランスを取り、働く時間と場所の両方を柔軟にし、勤務が終了したら完全に接続を切ってよいと認める企業こそが、この危機が終わったあとに、以前より力をつけ台頭してくることだろう。
元の記事はこちら(英語)。
(執筆:アミア・サリフェヘンディッチ、翻訳:東方雅美、バナーデザイン:月森恭助)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.