【マスクや画面越しでも】手振りは「聞く」ことができる

2020/7/7

見なくても相手の動きがわかる

人が手振りを交えて話すのは、どの文化でも、どの言語でも一般的に見られるが、この研究が示すのは「話し手の姿が見えない時でも、動作は伝わる」ということだ。
認知科学者のウィム・パウによると、会話中の動作は声に表れ、話を聞いている側はそれ認識できる可能性が高いという。
パウは、オランダのナイメーヘン・ラドバウド大学の「ドンデルス脳・認知・行動研究所」で研究を行っており、このテーマに関して最近PNAS(米国科学アカデミー紀要)に論文を発表した。
パウはこれまでの研究で、腕と手首の動きが声にその跡を残すことを発見した。今回発表した研究では、話し手が手で木を切るような動作をしながら「あぁ」と言うと(ただし、声はできるだけ安定させて言う)、その録音を聞いた人は、動作を見たわけではないのに、話し手の動作を正確に、正しい速さで復元できたという。
聞き手は自然発生的に動作を復元し、間違えることはなかった。この研究はアメリカのコネチカット大学のチームと共同で行われた。
たしかに、これは一つの研究でしかないし、実験の規模も小さく、聞き手は30人、話し手は6人だった。しかし、パウと研究チームは、「話をしている時の身振り手振りは、話している内容を補強する視覚的なコミュニケーションであるだけでなく、発話そのものを生物学的に補強する」という理論が、この研究で裏付けられると話した。

体の動きが声に影響

「ボディランゲージの研究では、身振り手振りで話し手の考えがどのように表現されるか、あるいは、誰にもさえぎられずに話し続けるために、手をどう使うかといったことに重点が置かれてきました」
しかし、パウによると、身振り手振りによって体に振動が起こり、筋肉が変化して、それが呼吸のシステムに影響して、声の高さや声量にも反映されるという。
「それは新たな種類の情報だ」と、コネチカット大学の心理学者で、今回の論文の執筆者の一人でもあるジェームズ・ディクソンは、大学の報告書で説明した。ディクソンは同大学の「認知と行動の生態学的研究センター」のディレクターでもある。
パウは、今回の発見は、言葉による言語と言葉によらない言語がどう進化してきたかを示しているかもしれないと言う。たとえば乳児が声を出し始める時に腕をパタパタ動かすのは、乳児が声と動作の生物学的な関係を試してみているのかもしれない、というのだ。
「体が自然に適応する構造であるという見方をするならば、この二つの言語のシステムが協調し合うように誕生してき可能性が考えられます。たとえば目の見えない人が、別の目の見えないと話をする時にも手振りを使っているように。このコミュニケーションが視覚的なものだけではないことはわかっています」

zoomでは顔だけでなく体の動きも見せるのがコツ

では、この議論が現在の私たちの働き方にどんな意味を持つだろうか。
パウの考えでは、ボディランゲージを直接には見られない時でも、そのうちの何かは感じられるが、体や手の動きを見て、なおかつそれを音で「聞いた」時には、効果が増幅するのではないかという。
パウは、ウェブ会議や電話ではためらわずに身振りや手振りをもっと使って、豊かに表現することを勧める。ズームでは顔だけが浮かんでいるような状態で写る場合があまりにも多く、それだと人工的な会議の設定がより一層、不自然になるという。
他の参加者に何が起きているのか、集まって会議をしている時は意識的に考えなくてもわかるが、ウェブ会議では懸命に読み取る努力をしなければならない。だから、少し後ろへ下がろうとパウは言う。メンバーに、あなたの体の動きをすべて見せるのである。

コロナ後のオフィスでは手振りがさらに重要に

「リモートワークからオフィスに戻ったときにも、コロナ危機が継続する中では、手を使いながら話すことがさらに重要になりそうだ」
そう指摘するのは、パウの同僚の認知科学者で、ラドバウド大学の言語学センター教授のアスリ・ウォジュレックだ。
ウォジュレックが指摘するように、マスクをして2メートル離れて立つと、声だけでは明快にコミュニケーションをとりにくい。マスク越しの言葉を理解するのに苦労するのは、耳の聞こえない人や難聴の人だけではない。唇を読めるように透明にしたマスクも含めて、物質的なバリアは何であれ音を聞こえにくくする。
幸いなことに、ウォジュレックの研究によると、人間は元来、互いに理解し合える手の動きを見つけ出すのが得意だという。「手だけでコミュニケーションをとるように言われると、言語が異なる人たちが、複雑なメッセージをわかりやすく伝える方法を、その場で編み出すことができる」と、ウォジュレックは報告する。
机の間隔が大きく開いているような、あるいは、間に合わせにつくったフェイスシールドが同僚との間に立ちはだかるような新たな企業世界では、私たちは新しく開発された身振りや手振りを目にするようになるかもしれない。
元の記事はこちら(英語)。
(執筆:Lila MacLellan、翻訳:東方雅美、バナーデザイン:月森恭助)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.