乱雑の中に結びつきを見つける

たくさんの人が、在宅勤務の恩恵に気づきつつある。その1つは、机を散らかしていても、誰からもとがめられないことだ(少なくとも、同僚からはとがめられない)。
この新しい世界では、たとえ整理好きの人であっても、書類を積み上げておくほうがいいのかもしれない。机が散らかっていることで興味深いものが視界に入り、創造性が刺激されるという研究がいくつもあるのだ。
隔離期間中には、そばにいる同僚からひらめきを得たり、食事や飲み会で面白い人と会ったりできないが、「散らかった机」が助けになるかもしれない。
「だらしなさ」に関する本を書いた、コロンビア大学ビジネススクールのエリック・エイブラハムソン教授は、創造性には乱雑さが不可欠だと述べている。「散らかっていることによって、つながっていないものがつながる」と同氏は述べる。
エイブラハムソン氏は、1950年代に生体分子学を研究していたレオン・ヘッペル氏を引き合いに出す。
とんでもなく散らかった状態で仕事をしていたヘッペル氏は、米国立衛生研究所(NIH)の散らかった机を、茶色のブッチャーペーパーで覆ってスペースを作り、そこをさらに散らかすということも少なくなかった。
ある日、ヘッペル氏の机の上に、変わった分子とその細胞生物学的効果について説明した手紙があった。そして数枚下に、別の分子に関する手紙があった。ヘッペル氏が2つの手紙の著者を引き合わせると、その1人はホルモンが細胞を調節する仕組みに関する研究でノーベル賞を獲得するに至った。

整理整頓にはコストがかかる

ミネソタ大学でマーケティングを研究するキャサリン・ボース教授は、こうした「散らかりと創造性の仮説」を検証した。
ボース氏は被験者を、本や書類で散らかった部屋と整った部屋とに分けた。そして、メーカーがピンポン球の新たな用途を必要としていると伝え、被験者が出してきた提案の創造性について評価した。
整った部屋からは、ビアポン(ビールのカップとピンポン球を使ったゲーム)に使うことと、ナーフ(おもちゃの銃)から発射することが提案された。散らかった部屋からは、フックをつけて風変わりなイヤリングにすることや、水を入れて再利用可能なアイスキューブにすることが提案された。
判定は、散らかった部屋の勝利だった。
残念ながら、社会では整頓が過大評価されていることから、ほとんどの人は散らかりから生まれる結合を逃している。近藤麻理恵氏の本がよく売れている。企業は整理整頓を要求しており、最高経営責任者(CEO)の写真に書類が積まれた机が写ることは決してない。
しかも、整理整頓にはコストがかかる。ファイルにラベルを貼るには時間がかかるし、引き出しにしまうのにも時間がかかる。それらは、仕事ができたはずの時間だ。
「われわれは整理整頓を大切にするあまり、それにかかるコストがわからなくなっている」とエイブラハムソン氏は述べる。

面白いものを選んで残しておく

大事なのは中庸だ。2007年にデイヴィッド・フリードマンとの共著『だらしない人ほどうまくいく』(邦訳:文藝春秋)を出版した後、エイブラハムソン氏は以前よりも整頓するようになったという。
最近は、散らかっているところを把握し、散らかりすぎないようにしている。また、選定して面白いものだけを机に残すようにしており、特によいものを「半端者(oddmen)」と呼んでいる。
半端者は、魅力的な絵はがきだったり、研究レポートだったり、古いおもちゃだったりする。好奇心を刺激し、物理的に、あるいは観念の世界の中で、ほかのものと結合する可能性があるものだ。ヘッペル氏が著者同士を引き合わせた、分子に関する手紙もこれにあたる。
エイブラハムソン氏の父は売れない芸術家で、ガレージにはひらめきを生むたくさんの半端者が控えていた。エイブラハムソン氏によると、父親はお金に困り、洗濯機とベルトと金属板でろくろを作ったことがあったという。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はひどい状況だが、働く人にとっては、生産性向上の障壁になっていたものから自由になった部分もある。通勤の2時間はデスクワークの時間になった。会社で隣の小部屋にいた声が大きい人も、話す相手をいつも探している人も、今は遠くにいる。
「意味のない机の整頓」も、こうした障壁リストに加えることができる。整理された机が好きなのであれば、それは結構なことだが、半端者をいくつか残してみることをおすすめする。

有効に散らかすためのヒント

最後に、できるだけ有効に散らかすためのヒントをいくつか紹介しよう。
1. 散らかりは、すべて平等なわけではない
「よい散らかりには、クールなものが10個から15個ほど含まれている」とエイブラハムソン氏は述べる。前述した半端者がそれにあたるが、これを同氏は「リコンビナント(再結合体)」とも呼ぶ。結合を生み出す助けとなる可能性を秘めている、と感じられるモノたちだ。
2. 散らかすのは、創造性が必要な場合にしよう
そういうときこそ、いちばん効果的なタイミングだ。決まり切った作業の場合は、散らかっているものが邪魔になる可能性が高い。
3. 書類は、机の上に重ねていくことでまったく問題ない
一見、無秩序かもしれないが、実は時間で整理されている。
4. ほかに、散らかっていないスペースを用意しよう
マーケティングの教授であるボース氏の場合、書きものをする自宅のオフィスは、自宅のほかのところよりも散らかしている。最近は、コンピューターのコードがもつれ、ティッシュの箱が転がり、まだ途中のクロスワードの山、領収書、化粧水の瓶、リップクリーム2つが置かれていた。データ分析の際はキッチンを使うが、キッチンテーブルの上にはほとんど何も置かれていないという。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Anthony Effinger、翻訳:緒方 亮/ガリレオ、写真:monkeybusinessimages/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.