ランダル・パリシュは今年、スマートスピーカーの有名ブランド、ソノスでアートディレクターとして働き始めた。サンタバーバラの本社では、社員のためにおしゃれな発酵ドリンクや水出しコーヒー、ゲームにレンタル自転車、シャワールームまで用意され、毎週金曜日にはケータリングのランチが味わえた。だが、恵まれたオフィスライフはほんの10日ほどで終わりを告げたのだ。
新型コロナウイルスの感染拡大によるロックダウン(都市封鎖)で、ソノスの1500人の従業員は完全リモートワークに移行。新しい職場は自宅のソファからビジネス向けチャットのスラックを通してしか感じられなくなった。「これでは誰もが望むような、会社の一員になれた実感を伴う長期的な関係を築けません」
フェイスブックでソフトウェア技術者として働くリンダ・リーは、オフィスで無料で提供されていた食べ物を懐かしんでいる。 職場から一歩も外に出なくても食事や軽食が食べられるのは、社員向けの福利厚生であるとともに、仕事に集中し続けるための「黄金の手錠」でもあったとリーは言う。
「普通の大人であれば気を回さなければならない色んなことから開放されるのだから、辞める気になどなりませんでした」
ドットコムバブル以降、時代の顔となったテクノロジー企業は、新たな分野への進出に必要な優秀な人材を確保するために、高い給料を払うだけでなくオフィスにおける福利厚生の充実を図ってきた。
だがコロナ後の世界においては、シリコンバレーのオフィスで当たり前になっていた豪華なビュッフェやハイテクスポーツジムといったものの運用が難しくなっている。ソーシャル・ディスタンシングとは相容れないからだ。
オフィスにおける福利厚生の充実が切り札にならないとなれば、新型コロナウイルスのおかげで人材確保においてはどんなテクノロジー企業も同じスタートラインに立てるようになったのかも知れない。「会社は本当に居心地が良かった」とリーは言う。「ああいった福利厚生がなかったら、もっと真剣に転職を考えたかも知れない」

リモート勤務向けの福利厚生の時代が来る

業界トップクラスの福利厚生を誇っていたフェイスブックやグーグルなどの企業はすでに、少なくとも年内は従業員に自宅勤務を認めることを決めている。
これまで同様のオフィス環境を提供できなくなった今、企業はリモート勤務をする従業員に合わせた福利厚生(例えば遠隔医療を利用できるようにするといったもの)を考え出さなければならなくなったと、人材会社G&Aパートナーズの上級人材アドバイザー、デーブ・バーントは言う。
「未来のオフィスから(従来型の)福利厚生が完全になくなるとは思わない」とバーントは言う。だが企業はオフィスに常駐する必要のある従業員向けからそうでない従業員向けへと「変化する考え方や方針をもっと柔軟に受け入れなければならなくなるだろう」

ケータリング会社の新たな戦略

テクノロジー企業がパンデミック後の世界におけるオフィスの姿を模索する中で、シリコンバレー周辺でオフィス向けのケータリングを行っている企業は事業再開に向けた計画を練っている。
かつてのような豪華なセルフサービス方式のビュッフェへの需要がないのは明らかだ。オフィス向けケータリングを手がけるフェア・リソーシズ社のギャビン・クラインズ共同創業者兼最高執行責任者(COO)は、セールスフォースなどの得意先企業向けの弁当に軸足を移すつもりだと語る。
クラインズはまた、1人分ずつパッケージされた軽食と飲み物を出すカフェテリア形式にすれば、衛生基準を満たして安全性を保てるのではと考えてもいる(同社はかつて、ゴミ削減のために1人分用容器の一掃を目指していた)。
得意先はベイエリアの約20社のテクノロジー企業を得意先として抱える415ケータリング社は、バーチャルな形での企業から社員への食事の提供を提案している。バーチャルな社内飲み会や意見交換会で食べるように、食事の材料キットを従業員の家に配送しているのだ。コロナ禍の前には自炊する必要などそれほどなかったであろうテックワーカーたちのために、料理のハウツーを教える動画も制作している。
元の記事はこちら(英語)。
(執筆:Michelle Cheng、翻訳:村井裕美、バナー写真:Explora_2005/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.