RV車企業の株価は一旦落ちるも急上昇

アメリカに暮らしている人は、この夏これまで以上にRV車を見かけることになるかもしれない。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を受けて米経済が停止状態になった3月、RV車の2大上場企業であるソーア・インダストリーズ(Thor Industries)とウィネベーゴ・インダストリーズ(Winnebago Industries)の株価はS&P500指数よりも速いスピードで急落した。だがその後、両社の株価は着実に上昇し、夏に向けて明るい兆しが見えてきた5月下旬には大幅に上昇した。
時価総額50億ドルを超える世界の自動車メーカー(上場企業)31社のうち、ソーア株は2月の初旬以降、アウディ(Audi)とテスラ(Tesla)に次いで3番目に優れた実績を記録している。
ソーアの最近の業績リポートによれば、同社のボブ・マーティン社長兼CEO(最高経営責任者)は「第3四半期の終盤以降、当社の財政バランスの見通しは顕著に改善されている。新規顧客が急増しており、これはRV業界の長期的な健全性にとって良い兆候だ」と語った。
RV業界は長年、激しい浮き沈みに直面してきた。RV車、つまりトレーラー(牽引車)やキャンピングカー、トレーラーハウスは必需品ではないため、人気が高まるのは家計の可処分所得に余裕のある時だ。
自然災害が発生した時の仮の住宅や前線で働く人々が自主隔離をするための施設にするなど、緊急事態にも役に立つが、こうした要因は全体の売上にはさほど影響力を持たない。

#vanlife の流行、ライフスタイルトレンドに

同業界に追い風が吹き始めたのは2017年。アメリカの特に若い人の間で#vanlife(バンライフ=車中泊・車上生活の意)が人気のトレンドになったことをきっかけに、過去4年間は各メーカーが記録的な販売台数を達成してきた。米RV協会の委託を受けて実施された調査によれば、RVの所有者のうち最も大きな割合を占めるのが35~54歳のドライバーだ。
同協会のモニカ・ジェラーチ広報担当は「あらゆるライフスタイルや予算に合うRV車がある。ポップアップルーフ式で小型の6000ドル未満のものから100万ドルのコーチ型のものまで、さまざまだ」と言う。
パンデミックが発生する前から、2020年は既にRV業界にとってかなり希望の持てる年だった。1月と2月の販売台数は前年の同時期と比べて増えていたとジェラーチは言う。だが経済が停止状態になると、それに伴ってRV車の需要と供給も停止した。
ソーアの決算報告書によれば、各工場が閉鎖され、また再開後もサプライチェーンにまつわる問題が残っていたため、一部の部品が十分に揃わなかったという。また失業率の記録的な悪化は、休暇やそのための移動に使う車を購入できる余裕のある人が減ったことを意味した。
だが一部の制限が解除され始めたことを受けて、状況は変わりつつある。

社会的距離をとりながら移動できることが価値に

自宅に閉じこもっていた多くの人が、感染リスクを抑えつつ旅行をする手段としてRVに注目し始めているのだ。これまで夏に海外旅行をしていたような人が、より安い旅行、あるいはより自宅に近いところへの旅行を選ぶようになっている。
こうしたなか、全米50州でキャンプ場が営業を再開している。今も自宅勤務をしている人々は、自分のRV車にWi-Fiを装備することで、自宅のデスクに縛りつけられることなく仕事ができる。
「最近のひとつの新しいトレンドは、『自宅で仕事』から『あらゆるところで仕事』への革命だ。RV車を購入した人々がRV車をオフィスとして使って、今いるどこからでも、あるいは自分が行きたいどこからでも仕事ができるようにしている」とソーアのマーティンは言う。
ジェラーチは、「再び家から出て、何らかの形の旅行をする気になっている人もいる。それにはRV車が最も妥当だ」と指摘する。実際、彼女自身もRV車での旅行から帰ってきたばかりだという。「キャンプ場に行けば、子どもたちが自転車に乗り回っても、自然にお互いに約2メートルの距離を確保することができる。隣の敷地でキャンプをしている人に手を振ったり、その人と話をしたりもできる。お互いにそんなに近づくことはないが、それでもつながりを感じることはできる」
多くのアメリカ人がこの考え方に魅力を感じている兆候が、既に表れている。5月のRV車の売上高と販売台数はまだ出ていないが、市場調査会社イプソス(Ipsos)が実施した調査によれば、今後12カ月以内にRV車で旅行に行こうと計画しているアメリカ人は、昨年よりも大幅に多い4600万人にのぼっている。
レンタル件数も、消費者の関心の高まりを反映している。ビジネスニュースサイト「Business Insider」によれば、レンタルサイト「RVshare」での予約は4月初旬から5月19日にかけて1000%増加した。別のレンタルサイト「アウトドアジーOutdoorsy」では、5月下旬の最も予約が多かった日は、パンデミック下で最も予約が少なかった日から予約件数が1500%増加したという。
だがRV業界が今年の夏、スムーズな乗り心地を楽しめると断定はできない。RV車のレンタル市場では海外からの旅行者がかなりの割合を占めるため、各企業はそうした旅行者の不在を痛感することになるだろう。
「(初めて)RV車をレンタルしようと考えている人が大幅に増えてはいるが、それでも海外旅行がなくなっていることで、市場の40%が消え去った」とジェラーチは言う。そして感染の第2波が訪れれば、各州が再びロックダウンの措置を復活させる可能性がある。そうなればキャンプ場や代理店、工場は閉鎖せざるを得なくなり、またもや需要と供給の両方が減ることになる。
「誰もが、自分たちでコントロールできない状況に翻弄されている。しかし、私たちは慎重に構えながら、ポジティブな未来を想像しています」とジェラーチは語った。
(執筆:Alexandra Ossola & Dan Kopf、翻訳:森美歩、バナーデザイン:月森恭助)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with KINTO.