Uberに加え欧州2社が名乗りを上げていた買収交渉

米国シカゴを拠点とするフードデリバリーの大手Grubhub(グラブハブ)は2020年6月10日、買収に関して交渉していたUber(ウーバー)を候補から除外し、ヨーロッパでフードデリバリーを提供しているJust Eat Takeaway(ジャスト・イート・テイクアウェイ)との合併に合意した。全株式取得総額は73億ドルになるという。
uberにとっては、大西洋をまたいだ合併のチャンスが失われたかたちだ。
実現していれば、傘下のUber Eatsはアメリカ最大のフードデリバリーサービスになり、競合するDoorDashを一気に追い抜くと同時に、規模が小さいPostmatesやWaitrを大きく引き離すことができたはずだった。
買収額が問題になった可能性もある。しかし、grubhubを買収しようとすれば、規制当局からの認可に関して苦戦を強いられたであろうことは間違いない。
Uberはこれまでにも、規制の壁にぶつかってきた。米上院議員エイミー・グロブシャーをはじめとする民主党議員団は5月20日、司法省反トラスト局に書簡を送り、UberとGrubhubの交渉が成立したら、買収について調査するよう求めていた。
議員団は書簡のなかで、Uber EatsとGrubhubが合併すれば「事実上の複占状態となり、企業間競争と消費者利益が脅かされる可能性が高く、料金高騰とサービスの質低下、選択肢の限定、技術革新の停滞につながる」と述べていた。
さらに、オンラインのフードデリバリーサービスはいまだ「発展の途上にあり、消費者とレストランを結びつける新たな方法を模索中だ」と続けている。
買収が反トラスト法に違反するものであったかどうかはともあれ、反トラスト法をめぐる懸念が生じたことそれ自体が、料理宅配ビジネスがどれほど大きな存在になったのかを浮き彫りにしているといえよう。

フードデリバリーの急成長

反トラスト機関は歴史的には、スタンダード・オイル(1911年に連邦最高裁から独占禁止法違反として解体命令が出された)やベル・システム(1984年に解体)などの重要企業をトラスト法違反で解体に導いたことで知られている。
また、近年の反トラスト機関は、1990年代にマイクロソフト、現在はグーグルと、テクノロジー企業をやり玉にあげている。
フードデリバリー業界は、新型コロナウイルスが世界的に大流行しフードデリバリーが必須サービスとなる数年前から急成長を遂げてきた。
ペンシルヴェニア大学ウォートンスクールで法学と企業倫理を研究するハーバート・ホーフェンカンプ教授によれば、10年前は、フードデリバリーと言えば飲食店の従業員が車1台で料理を配達して回るのが普通であり、ごく一部の大手食料品店が商品を顧客の玄関先まで配達している程度だったと指摘する。
その状況を変えたのがフードデリバリー・アプリだ。

新しいサービスがどう普及浸透するか

Uber Eatsを例にとろう。2014年に創業(当時は「UberFRESH」で、翌2015年に改名)された同社は、2020年第1四半期には前年比で54%成長し、46億8000万ドルの売上(booked revenue)を計上した。
急成長の一因は、配車サービスプラットフォームのUberを土台として、膨大な数の登録ドライバーを活用できたことだ。最近では、パンデミックが需要増加を後押しした。
とはいえ、料理宅配ビジネスは依然として不安定だ。Uber Eatsは2020年第1四半期に、調整後EBITDAで3億1300万ドルの損失を計上した。
市場調査会社フォレスター・リサーチのアナリスト、ブレンダン・ウィッチャーが指摘するように、消費者がパンデミック収束後もフードデリバリーに高い料金を払い続けようとすることは考えにくい。レストランが営業を再開すれば、ウーバーイーツやその他の競合サービスに対する需要は低下する可能性が高いのだ。
「いまは、フードデリバリー・アプリが成功するかどうかの分かれ目だ」とウィッチャーは話す。「自社が提供しているサービスにほぼすべての人が群がっているときに利益を出せないのであれば、事業計画を疑問視すべきだと私は考える」
ウィッチャーはさらに、今回の合併には、フードデリバリー業界が規模を拡大させる必要があることが反映されていると指摘した。手頃な料金でサービスを提供しても利益を出せるほどの規模が必要になっているというのだ。
フードデリバリー業界は、利益を出せない企業で溢れつつあることから、投資家たちは、企業の合併統合が進むのではないかと注目している。
Just Eat Takeaway自体も、ヨーロッパ系のフードデリバリー2社が合併してできた企業だ。合併前はそれぞれイギリスとオランダで、Uber EatsとDeliverooという競合相手としのぎを削っていた。
Uberは、Grubhubの買収には失敗したが、だからといって別の買収先を探していないわけではない。ウーバーのダラ・コスロシャヒ最高経営責任者(CEO)は、2020年6月はじめに行われたバンク・オブ・アメリカとの電話会議で、フードデリバリー事業は「巨大」かつ「重要な」分野であり、業界では今後も合併統合が起きるだろうと述べた。
ウーバーが参入している世界市場で頂点を目指すにあたっては、「適切な交渉が行われなくてはならない」と述べた。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Michelle Cheng、翻訳:遠藤康子/ガリレオ、写真:Brett_Hondow/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with KINTO.