【オンラインセールス虎の巻】「 非対面でも売り切る」ための6つのメソッド

2020/6/29
コロナ禍によって、全業種・職種で始まったリモートワーク。取り組みやすい職種もあれば、そうでない職種もある。セールスはこれまで「直接会って」提案をするのが当たり前と言われ、リモート化しにくい職種に分類されており、苦労している人も多いのではないだろうか。

本記事では、地方の受注案件の約半数は非対面営業が占めるなど、オンラインセールスの経験を武器に、クラウドの領域で急成長する株式会社セールスフォース・ドットコムにおいて、オンラインセールス部門のキーパーソンから押さえるべきメソッドを集めた。

INDEX
☑️【準備編】その商談の「目的とゴール」を最初に明示せよ
☑️【顧客分析編】顧客を3パターンに分けよ
☑️【資料編】「見せる資料」と「読ませる資料」を分けよ
☑️【会話術編】「人柄売り」は通用しない。国語力を身に付けよ
☑️【アフターフォロー編】議事録はミーティング中に送付せよ
☑️【クロージング編】接点を増やし「距離」を縮めよ
鈴木 オンラインセールスで私たちが気をつけているポイントを、今日はお話させていただきますが、その前にリアルにあってオンラインにない前提条件のお話をさせてください。
 それは、オンラインでは「空気を読めない」ことです。
 オンライン商談では、カメラで相手の表情を多少感じ取れますが、相手のリアクションがほぼ分かりません。
 リアルの場では、説明している中で相手の表情、場の空気でお客様が理解しているのか、欲しい情報を提供できているのか、購入に前向きなのかを察知し、必要に応じて会話の軌道修正ができます。オンラインでは、それが難しい。
 これからいくつかオンラインセールスにおいて気をつけるべきことをお話ししていきますが、この「空気を読めない」ことは、すべての内容に共通する前提条件です。
取材もオンラインで実施した
安田 もう一つ注意点として、オンライン商談は「聴覚」に依存する割合が大きくなります。
 会っている時のプレゼンテーションやコミュニケーションは、通常「目から入る視覚情報」が強く、それを「耳で補う」形で進んでいきます。
 しかし、オンラインでは画面を通じて資料の共有はできるもののリアルに比べて相手に視覚で訴える力が弱く、耳から入る情報を目が補うというイメージで、情報認識の順番が変わる。
 この伝え方の「目と耳の逆転現象」が起こることも踏まえるべき前提条件になると思います。
鈴木 オンライン商談にお客様が慣れてくると「時間は30分でお願い」など、リアルな商談よりも時間が減る傾向があります。そうなると、濃密な話を進めるために商談のストーリー立て、つまり商談の事前準備がリアルの現場よりももっと重要になる。
 事前の下調べや事前のゴール設定の合意が商談の成否を分かつ要素になります。
 商談のアポが取れたら、3日前くらいに、できれば電話で時間を割いてもらい、その商談の目的とゴールをできるだけ明確に聞き出すことが大事です。
西田 この目的とゴールの明確化を印象づけるために、今日の商談の目的とゴールを提案資料の最初のスライドにして、その話からスタートすることにしています。
安田 これはリアル、オンラインを問わず、私たちはお客様の状況を3つに区分しています。それが「座っているお客様」「立ち上がったお客様」「走り出したお客様」です。
 座っているお客様は文字通り、どっしり座って動かない。質問もなければ話を広げる気もない。どんな情報を収集できるか、どんな学びを得られるのか。期待値はさほど高くない、そんな状態です。
 立ち上がったお客様は、必要性は理解し関心を持った状態。走り出したお客様とは、もう導入することは決めて、品定めしている状況です。
 お客様のそれぞれのステータスをまずしっかりと見極めて、そのステータスに応じた的確な情報提供、提案が大事です。
iStock/elenabs
 座っているお客様は、長い話は嫌がります。文字も読みたくありません。ですので、動画を使ったプレゼンを多用するなど飽きさせない工夫が必要です。ゴールは「面白そうだな」と感じていただけることです。
 立っているお客様には、やらないといけないことは分かっているから、背中を押してあげることが大事。お客様が検討している状況自体を賞賛したり、お客様の課題意識を褒めたり。他社の事例集やデモンストレーションは、このステータスのお客様に適しています。
 走り出している人は、品定めしている状況ですから、シビアです。ですので、費用対効果や注意すべきリスクなどを丁寧にお話しします。
 このような形で、なるべく最初にどのステータスにいるお客様かを見極めることが大事です。オンラインでは表情や空気が分かりませんから、お客様に嫌な思いをさせない範囲で、ストレートに今の状況を聞く必要があります。
西田 オンラインセールスで表示する資料は、小さい文字ですと見えにくいし、ごちゃごちゃすると、それだけでお客様の関心意欲が下がります。
 1スライドに1つのメッセージ。文字数は1スライド20文字以内が鉄則で、下品にならない程度に色を上手く活用するのが望ましいです。
 また、 オンラインでは通信環境でズレが生じる可能性があるため 資料内ではアニメーションを極力使わずに、マウス操作でメッセージを強調するといった工夫も大事です。マウスポインターのサイズを大きくしておくなど、事前の準備も欠かしません。
安田 補足すると、シンプルな資料が望ましいのはもちろんですが、そうは言ってもたくさんの情報をお伝えしなければいけない時もあります。
 そのような場合は、文字数を気にせずに「読ませる資料」と割り切ってお客様に情報をお渡しします。
 読ませる資料の場合は、こちらが読むのではなくお客様に読んでいただくことがポイントです。文章は聞くよりも自身で読むほうが頭に入るものです。ですので、事前に資料をお渡ししておいて、「今から1分お時間を差し上げますので、お読みいただければ幸いです」と言って待つのがいいです。
安田 オンラインでの会話術で大事なことは、冒頭に話したように視覚的な情報提供が乏しく「耳への依存度」が高まることですから、国語力が試されます。
 いかに端的に分かりやすく文脈をつくることができるか。顔が見えない、空気を読めない相手に納得いただくには、対面以上に高度な口頭表現力と国語力が求められます。
西田 ここがオンラインセールスでもっとも重要なことかもしれません。
 リアルな営業でバンバン売っていたのに、オンラインになった途端に急に売れなくなる人がいます。そうした人の共通点はロジカルに話せない人。
 リアルでは、雰囲気や資料で説明を補ったり、人柄で売ったり、とにかく会いに行って誠意を見せたりすることで受注に結びつけられることがありますが、オンラインでは通用しない。論理的な説明ができなければ、厳しいわけです。
安田 加えて、細かいTipsで言えば、「間を置くこと」。こちらのペースでどんどん話を進めてしまうと、聞いている人は追いつかない。
 人って表情が見えにくい場合、早口になりがちなので、オンラインではリアル以上に文章ごとに間を置くことが大事になります。
鈴木 私は、相手の理解度を把握し、認識のズレをなくすため、スライド資料で数枚説明した後に、「これらのスライドではこの内容を説明しました。ご理解いただけましたか。では、次は〇〇の説明に移らせていただきます」というふうに問いかけを増やすようにしていました。
 それと、ほかに意識したのは「傾聴の可視化」。「はい」や「ええ」というあいづちは回数を多めにしたり、声が話を遮る場合は少し大きくうなずいたり。
 オウム返しを入れて、「理解しています」という態度を示したりすることをオンラインではとくに意識していました。言い換え、意味付け等、傾聴スキルは弊社のインサイドセールスの研修にも取り入れています。
 お客様が話している時に不安なのは、理解しているかどうかです。会話術としてロジカルに話す力、国語力は大事ですが、「聞く」にもオンラインならではの工夫は必要です。
西田 商談後で重要なのが議事録を送るタイミングです。リアルの場合、一般的にはそのほかの商談を終えてオフィスに帰り、商談しながらPCで議事録は作成しにくいので、ノートをもとに作成。早くてその日の夕方や夜でしょう。
 オンラインの場合は、パソコンを開いていますから、リアルタイムの議事録作成が可能です。商談を終えた時に、その場で議事録を送付して、「今日はここまでお話を進めました。これを決めました。お間違いないでしょうか?」と確認をします。これは認識の齟齬をなくし、記憶に残していただくためにとても有効です。
安田 議事録を商談中に送る利点は、西田が話したポイントに加えて生産性向上にも効きます。
 生産性が下がる原因の一つは、それぞれのタスクが終わるまでに新たなタスクが入ってきて作業が分断されてしまうこと。オフラインであれば、次の商談があればその商談に行きますし、なくても移動で分断される。オフィスに帰れば、上司に呼ばれたり、メールチェックしたり……。分断の材料はたくさんあります。
 オンラインであれば、そうした分断の素材はありませんので、完結しやすい環境が整っている。これを利用しない手はありません。
安田 最後の意思決定はオンラインでは難しいと思われる人も多いかもしれません。その理由は、「距離」だと思います。会っていないから顔を合わせていないから、「この人に任せていいのか……?」と、お客様が不安に思い、最後のジャッジができないと感じるからではないでしょうか。
 ただ、もう会わなくても距離を縮めることは十分に可能です。電話、メール、お客様との距離が縮まった場合、個人のSNSでつながることもできます。会わなくてもお客様との距離を縮めることができ、信頼を勝ち取れると思います。
 私はメンバーに、些細なことでもいいから、お客様の迷惑にならない範囲でできるだけ短いサイクルで連絡をしなさいと言っています。コンタクトの回数がお客様との距離を決めますので。
iStock/runeer
鈴木 商談を前に進めるために、次のステップについて明確に合意することも大切です。「いつ・何処で・誰に・何を・どのように・なぜするのか」、5W1Hでお客様に回答をいただく。オンラインでのクロージングでは明確な合意形成も大切になります。
西田 安田が話したように、オンラインでもお客様との距離はいくらでも縮められます。それと、オンラインでは少額なプロダクトしか売れないのではないかというのも違います。弊社のオンライン商談の平均規模は500万〜600万円。
 オンラインだからオフラインだから売れる、売れない、金額規模は小さい、大きいは相関関係はなくて結局、どれだけお客様とのコミュニケーションを通じて信頼関係を結ぶことができるかどうかにかかっていると私も思います。
鈴木 これまでオンラインセールスの6つのメソッドを話してきましたが、最後にオンラインセールスは非常に「メリットが多い」、その主な利点をお話しさせてください。
西田 まず商談件数を増やすことができます。弊社の実データで言えば、私が所属しているチームの活動件数は、リモート以前に比べて2倍に増えています。
リアルでは1日3件程度が平均値だと思うのですが、オンラインだと5〜6件は可能です。ちなみに私自身、以前は1日平均8件、商談していた時がありました。
安田 シンプルに営業スキルが上がります。国語力の話をしたように、端的に分かりやすく論理立てて説明する力を養えます。
また、オンラインの場合、上司など社内関係者を商談に招きやすい。商談を見てもらい、アドバイスももらいやすい。自分では気づかない振る舞いや行動を指摘してもらえるのは大きいです。
また、私の持論ですが、オフラインで売れる人がオンラインで売れるとは限りませんが、オンラインで売れる人はリアルでも必ず結果を出すと思います。
西田 別の観点で言えば、「宿題」を持ち帰る機会を減らせます。オフラインであれば関連資料を送ったり、いただいた質問に答えられなかった場合、宿題として後日連絡したりします。
オンラインの場合は、パソコンで関連資料を探してその場ですぐに送付できますし、自分でわからない時は社内チャットツールで「今、こんな質問を受けたのですが、回答例を持っている人いませんか?商談中です」と聞けば、その場で回答できるかもしれません。
 宿題が減るのは、とても生産性を上げられます。疑問点をその場で解消できるため、お客様との認識の食い違いが生じにくくなります。
鈴木 単純にエリアの制約がなくなりますので、アプローチできる対象が広がります。東京にいながら全国、場合によってはグローバルに向けてセールス活動が可能になる。
オンラインセールスのメリット
✅️商談件数が増える
✅️営業スキルが上がる
✅️「宿題」が減る
✅️営業先が増える
 このようにオンラインセールスには多くのメリットがあります。
 コロナ禍の影響によってオンラインセールスを「余儀なくされた」と思っている人も多いかもしれませんが、これを好機と捉えて新しいセールスの在り方を試す時期だと位置づけるのも良いと思います。
(取材・編集・構成:木村剛士 デザイン:堤香奈)