【オンライン授業】160人の高校生がコロナ禍で見た、未来への希望

2020/7/27
 2020年春。
 新型コロナウイルスの影響によって、全国の部活生の目標だったインターハイや甲子園、コンクールが中止になった。
 当たり前が当たり前ではなくなった事実に動揺し、この先どのように新たな道を選択すれば良いのか悩み、苦しんでいる高校生も多いはず。
 しかし、「希望」は与えられるものではなく、作り出すもの。大人が作ってきた社会でこれから生きていく高校生には、自分たちの主張を世の中に届け、社会を動かしていくことが求められる。
 アウェーをホームに変えていくために。
 そこで、NewsPicksは6月27日(土)に「大人になることに希望はあるか?」と題したオンライン特別授業を開講した。
 講師に迎えたのは、ユーチューバーであり元アテネオリンピックサッカー日本代表の那須大亮氏と、“日本一生徒の多い”社会科講師である伊藤賀一氏。当日は国内外から参加した高校生約160名がZoomでつながった。
 当記事では、二人の講師による特別授業とワークショップの様子をレポートする。
那須 僕が皆さんと同じ年齢の頃、プロサッカー選手になりたい一心で、サッカーの強豪校である鹿児島実業高校に入学しました。
 優秀な同級生や先輩たちに囲まれてサッカーに没頭するなか、心がけていたのは自分の長所を磨き続けることです。
 その結果、1年生の冬の高校サッカー選手権でメンバー入りを果たし、2年生からはレギュラーとして試合に出られるようになりました。
 しかし、夏のインターハイ中に不整脈が発覚。その後、半年間は手術のため練習も試合も参加できなくなり、僕にとっての大きな挫折経験となりました。
 3年生になってようやく復帰するも、チーム全体がギスギスして成果も出せない状態になっていたんですね。
 鹿児島実業は練習がキツイことで有名なのですが、当時の僕たちは最後の練習メニューまで耐えられるように、すべてのメニューに全力でぶつかることをしなくなり、練習自体“やらされている”感覚に陥っていた。
 そんなチームが変わるきっかけになったのは、夏になってコーチが代わったことでした。
 コーチはギスギスして成果を出せない僕らに対して、「何のためにサッカーをやっているのか、勝つためじゃないのか」と、見失っていた目標に気づかせてくれたんです。
 以来、チームワークは良くなり、3年生の冬の高校サッカー選手権では準優勝を勝ち取ることができました。
 当時のコーチがいなかったら、チーム内で目指す目標がズレまくっていたと思うし、僕はプロ選手になれなかったと思っています。
 プロになってからも、僕のマインドを変えてくれた存在がありました。それは2013年に移籍した浦和レッズのサポーターの皆さんです。
 それまで僕は、自分への対価やキャリアアップのためだけにサッカーをしていました。でも、浦和レッズのサポーターの皆さんが「週末の試合、みんなで頑張ろう」というマインドで支えてくれていることに気がついたんです。
 以来、自分は誰に支えられて、何を目指しているのかを深く考えるようになり、「自分はサポーターみんなの思いを代表する人だ」というマインドでプレーするようになりました。
 そうするうちに、「自分はサッカーに生かされ、サポーターや地域の人たちみんなに支えられてきた。
 だからこそ「サッカーに恩返しをしたい」という思いが強くなり、2018年に現役サッカー選手として初めてYouTubeチャンネルを始めました。
 最初は否定的な言葉が9割で、協力を得られないことが多々ありました。それでも配信を続けてきたのは、自分が今までやってきたことの本質や意味を知ってもらうことで、サッカーファンを一人でも多く増やせたら、サッカーに貢献できるから。
 その一心で、否定的な言葉も力に変えながら行動するうちに、徐々にいただく声の質が変わり、登録者数も協力者も増えるようになりました。
 2020年は、高校生のあらゆる大会やイベントが中止になってしまう年になってしまいました。でも、ピンチのときこそ大きな学びがあります。それは必ず自分の支えになるので、考え方を変えて前に進んでほしい
 僕自身、これまでの人生で逆境や理不尽さを感じることは多く、苦しい時間が続くこともありました。
 でも、歩みは止めなかった。新しいチャレンジには痛みも伴いますが、人生には「立ち止まるか、進むか」の二択しかありません。
 コロナ禍での苦しい思いや辛い思いは大切にしながら、一歩でも半歩でも進む努力をしてほしいと思っています。
伊藤 コロナ以前とは世界がガラリと変わったので、特に若い人は不安が大きいと思います。そこで、前回の対談記事を読んだ人から事前にいただいた質問に少し答えたいと思います。
 コロナ以前は、「世の中にはどうにもならないことがあると知っているのが大人」だと思っていました。子どものような万能感がなくなって、謙虚になっているのが大人だと。
 でもコロナによって世界中の全世代の人が「世の中にはどうにもならないことがある」ことを知ってしまったから、大人と子どもの線引きは曖昧になりました。
 だからこそ、大人と子どもの違いは、法的な線引きである成人年齢だと考えてほしい。
 世界にはいろんな考えがあって、安全保障理事会の常任理事国の中でアメリカに合わせているのはイギリスとフランスだけ。
 ロシアはアメリカと意見が違うし、中国のスタンダードもありますよね。
 宗教で考えても、イスラム教はイスラム暦があるので1年は354日で、太陽暦の365日とは違います。グローバル・スタンダードって、実ははっきりしていないんです。
 対談では「成人年齢引き下げは、グローバル・スタンダードに合わせただけだと思う」と言いましたが、個人的にはそれにわざわざ合わせる必要はないと思っています。
 教育の質の差は、大人の事情と子どもの事情の両方から生じていると思います。まず大人の事情としては、地方は就職の選択肢が少ないため、優秀な人が教員になっているケースが多いんですね。
 一方で、都会は教員よりも待遇が良くて能力を認めてくれる仕事がたくさんあるから、教員免許を取っても一般企業に就職する人は少なくありません。だから、相対的には地方の方が優秀な教員が多いと思います。
 じゃあ地方の方が教育の質が高いのかというと、ここに子どもの事情が絡んでくるんですね。
 特に東京都の子どもの4人に1人は、中学受験で私立や国立の中学校に進学する道を選ぶ。つまり都会と地方の教育は同列で比べられない。
 この差を埋めるために、予備校や塾が発達したのではないかと思っています。
 アフターコロナの教育でテーマになるのは、オフライン×オンラインです。今まではオフラインが圧倒的でしたが、オンライン化が進むことで教育の質の差にも変化が生まれるでしょう。
 実は、古代エジプトでも江戸時代でも、いつの時代も若者は大人に対して「わかってくれない」と言います。
 つまり、いつの時代においても若者からすると大人は敵なんです。団塊世代の人たちだって、学生運動をして大人と大げんかをしましたよね。
 どちらが良い悪いではありません。でも、若者の思いは大人が受け止めないといけない。思いを大人にぶつけて「がっかり」するのはまだしも、「やっぱり」と思ってしまうのは絶望しか与えませんから。
 若者にとって、大人の社会は国際社会と同じで正直怖いものです。国内社会には中央政府があるけれど、国際社会には中央政府がなく、国際連合の総会に法的拘束力はありません。
 条約を守らなくても制裁措置を発動できないので、例えば北朝鮮は核実験をやり続けている。いわば「なんでもあり」の国際社会の縮図が、社会と呼ばれるものなのです。
 そんな「なんでもあり」の社会で生きていくために必要なのが、「防具」「武器」「翼」の3つ。
 「防具」とは体力や経済力、資格、学歴。「武器」は教養(教養の基本は歴史と哲学)、そして「翼」は語学や数学、音楽を指します。
 若者にはこれから社会に飛び込むために、自分の努力でなんとかなる範囲で、ぜひこの3つを揃えてください。
 ただ、努力ではどうにもならないことは絶対にあるので、できないことを責めてはいけません。
 今ここにある常識は唯一絶対のものではないし、どんな人でも必ず間違います。それを忘れずに、人の弱さを理解できる強い人になってもらえたら嬉しいですね。
 オンライン特別授業の後半は、Zoomでつながっている約160名の高校生をランダムに5〜6名のグループに分け、
・コロナ期間中に「あなたが発見したこと」を伝えよう
・コロナ時代の高校生に希望はある? ない?
・「コロナは私たちにとっての●●●だ」の●●●を考えよう
 上記テーマでディスカッションするワークショップを実施した。
 住んでいる場所も学校も学年も違う高校生たちがアツい本音トークを繰り広げた後、3名にそれぞれのチームに話した内容を共有してもらった。
 時間の関係上、すべてのチームに発表してもらうことはできなかったため、参加した高校生たちがイベントで感じたことや、経済界で活躍しているビジネスパーソンや社会に向けて届けたい声を、当記事のコメント欄に記載してもらった。
 「#NPstudents」のタグをつけて発信してもらったコメントの中から、一部を抜粋する。
  さらにイベント後、参加した高校生たちがSlackで集まり、次回のワークショップを自分たちで開催しようとしていることがわかった。
脱脂綿さんのnoteより抜粋

 コロナは社会の変遷を加速するブースターだ、という参加者がいた。言い得て妙だ、と思った。元々は可逆的に進んで来ていたオンライン化、リモート化がコロナ禍で一気に、かつ不可逆的に進んだ。正にブースターの役割を果たしていると思う。

 この波に乗りやすいのは、まず間違いなく若者だ。デジタルネイティブであり情報の発信に慣れている若者こそ、新たなイノベーションを起こせる。既にその動きの片鱗は見えている。

 全員では無いものの多くのNPstudentsがSlackに集まり、ワークショップを設立している。活動の方針は今日また話し合う予定で、大変楽しみだ。
 想像以上に、高校生たちはこの状況をポジティブに捉え、希望やチャンスを見出していた。
 もちろん、今回のイベントに参加したのはごく一部の高校生だが、コロナ禍を悲観し、不安を煽っていたのは大人ばかりなのかもしれない。
 「当たり前が当たり前ではなくなった世界」を体験した高校生は、これからどんな出来事が起きても、受け取り方と次につなげるアクション次第で、いくらでも希望を作れる。それを言語化できたイベントになったのではないだろうか。
 高校生には、希望しかない
(文:田村朋美 編集:海達亮弥 写真:隼田大輔、デザイン:小鈴キリカ)