【藤原和博×鎌田浩毅】ポストコロナ時代は、「分散」がキーワード

2020/6/21
NewsPicksアカデミアは、京都発の文化・アートの新サービス「THE KYOTO」と連携し、「THE KYOTO ACADEMIA」という新プロジェクトを始動。記事、イベントなどを通し、「with/ポストコロナ時代」を⾒据えた「豊かさの再定義」を進めていく予定だ。

今回は特別対談として、教育改革実践家の藤原和博氏が京都を訪問。京都大大学院人間・環境学研究科教授の鎌田浩毅氏と、「いまこそ求められる学び」について語り合った。(聞き手:THE KYOTO編集長・各務亮)
【藤原和博×鎌田浩毅】 真に必要とされる「学び」の正体

「100万人に1人」になるには

──「演出力」は教育にも必要でしょうか。
藤原 もちろん必要です。人の一生も「演出」の連続と捉えることができるのではないでしょうか。ところが、日本の教育は人生に向き合う方法を教えず、用意された正解を素早く探す「情報処理力」の獲得のみに注力してきました。
人生のデザインができないままでは近い将来、AIに代替される可能性が高い。そして、コロナ禍でそれがますます加速しようとしている。
今後は世界に1冊しかない、自分の一生を凝縮した「希少本」を一人一人がプロデュースしてつくり上げることが求められます。その原動力が「100万人に1人の存在になること」です。
ある分野に1万時間以上集中すると100人に1人の専門家になり、それを3つのキャリアで達成すると100万人に1人という、五輪の金メダリスト級の人材になれる。
私の場合、リクルートの営業・プレゼン職が1つ目、マネジメント職で2つ目を築きました。ただ、3つ目が達成できたのは52歳で、義務教育初の民間出身校長を全うできたときでした。
藤原和博(ふじはら・かずひろ)
1955年生まれ。78年東京大学経済学部卒業後、リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任。93年からロンドン大学ビジネススクール客員研究員。96年より年俸契約の客員社員「フェロー」制度を人事部とともに創出、自らその第1号に。教育、ビジネス、生き方など、幅広い分野で著書がある。ちくま文庫から『本を読む人だけが手にするもの』『必ず食える1%の人になる方法』など人生の教科書コレクション創刊。人気番組のもとになった『世界でいちばん受けたい授業』(小学館)も。
鎌田 そのとき「よのなか科」を創設したわけですね。藤原先生の著作で初めて知ったときは心を揺さぶられました。
僕は意欲が低いまま就職して、1年後に偶然火山学に出会って学問の楽しさに目覚めました。これまでの人生を振り返ると、良い意味での「受け身」というか、火山も、海外留学も、京都大学赴任も、全然ご縁がない外部から自分の方へヒラリとやって来た感があります。
過去には逃げ回ったこともありました。でも、そのたびにある人がぽっと現れて「君、これをやりたまえ」と勧められた。それが結果として僕には大当たりだった。
だからやっぱり「オープンマインドで、どんな人の話でもよく聞いたほうがいい」と思うようになりました。
鎌田浩毅(かまた・ひろき)
1955年、東京都生まれ。79年東京大学理学部卒。通産省(現経済産業省)入省。同地質調査所の研究官として火山と出合い、とりことなる。米国カスケード火山観測所客員研究員など経て97年から現職。理学博士。専門は地球科学・火山学・科学コミュニケーション。テレビや講演会で科学を明快に楽しく解説する“科学の伝道師“。 「世界一受けたい授業」「情熱大陸」「ようこそ先輩 課外授業」「グレートネイチャー」などに出演。『新版 一生モノの勉強法』『理学博士の本棚』『一生モノの超・自己啓発』『理科系の読書術』『座右の古典』『地球の歴史』など著書多数。
──藤原先生の場合、アクティブに人生を動かしているように見えますが、何かに引っ張られたことはないんでしょうか。
藤原 もちろんあります。例えば杉並区立和田中学校の校長に決まったときは、東京都教育委員会の比留間英人さんと井出隆安さんのお二人が、僕のために5年契約の民間のプロフェッショナルを雇うスキームづくりに尽力してくださらなかったら、とうてい実現していませんでした。
先ほどのオンとオフを分けられない話と同じで、自分の力と人の力も分けられません。いまも鎌田先生と話していないと引き出されない話題もたくさんあるわけです。

オンラインの先に恩師がいる

鎌田 今後も当分、「3密」を避ける指針は続くでしょうから、人と人がつながるのも以前より難しくなりそうです。教育面でポストコロナを考えると大きな危機感を持たざるを得ないのですが、その点はどうでしょう。
藤原 僕は「オンラインの向こうに恩師を探せ」と言っています。笑ってしまうけど、YouTubeでギター演奏をマスターした人間が本当にいます。京都には、歌手のさだまさしさんが「妖精」と表現する素晴らしい職人さんが多数おられますが、若い人もそういう職人さんたちとどんどんオンラインでつながるようになればいいですよね。
前提として、何かを学ぶなら、自分が心底好きなことが大事でしょう。好きだからこそとことん集中し、はまっていく。親もそこは見守ってやらなければいけません。結局、子どものころに鍛えなければならないのは集中力とバランス感覚です。
鎌田 「100万分の1」を目指す話にしても、京大生でも、うまくいかなくて外れてしまった人は大勢います。そんな人は「チャレンジしても実現できなかった」「見つからなかった」など、そういう不全感も残っていると思います。
そういう人はコロナショックを受け、なおさら将来に対して漠然と不安を感じているのではないかと思いますが、藤原先生ならどうアドバイスをしますか?
藤原 急ぐ必要は全くないと思います。アジア教育友好協会(AEFA)の谷川洋さんは60歳になってから喜々としてベトナムやラオスでの学校建設に携わっています。「人生100年」と考えれば少しも遅くはないのではないでしょうか。
例えば、18歳のパソコンオタクと、引退した88歳の人間国宝級工芸士がオンライン上でつながり、双方の底力が存分に発揮できれば面白いことが起きると思います。「京都コラボレーション」とでも言いたいですね。
いい意味で、京都はある種の狂気が宿っている街だと思いますから、そういうコラボが十分あり得ますね。「THE KYOTO ACADEMIA」プロジェクトでそういう結び付きを模索してもいいですね(笑)。
鎌田 私はもうすぐ定年なので、「全く新しいことをするのもいいかな」と思っています。藤原先生のお話を聞くにつけ、人生というのは、うまく行かないことも含め、結構面白い偶然が次から次へと先へ進めてくれると思えます。
私の現在も、うまくいかないことを何度も経ながらきた「偶然の産物」ですから。

コロナを上回る激震を覚悟せよ

鎌田 最後に私の専門の地球科学の分野で言いたいことがあります。地球科学的な見地からは、東日本大震災を上回る規模の南海トラフ巨大地震が2030年代に起きる可能性は非常に高いのです。
被害規模は東日本大震災と同じぐらいだろうと思っている人が多いようですが、何と10倍の予想で金額で言うと220兆円。これはもう日本が立ち行かなくなるような惨状です。
もちろん今回のコロナも大変ですが、次の震災にいかに立ち向かうか。
そんなときも、先ほど藤原先生がおっしゃったように、若い人と年配の人が組むのはとてもいいと思っています。そのように世代を超えてつながることで巨大地震に立ち向かうことができるのではないでしょうか。
目の前の仕事も、いまの友達も、自分が好きなことを全て大事にしないと、いつ全部がさらわれるとも限りません。
何事も「長尺の目」で見ることが重要です。千年前に来た貞観地震が東日本大震災で再来し、以後、日本列島は地震と噴火の変動期に入ってしまいました。
これに100年ごとに来る南海トラフ巨大地震がオーバーラップする。
地球科学的にはこうした時間スケールで見てほしいですね。
藤原 いまの鎌田先生のお話の理解には、今回のコロナがいいきっかけになると思います。何事も集中してしまいがちな社会から、ばらばらにならざるを得ない流れを、今回のコロナが後押ししたとも言えるのではないでしょうか。
鎌田 まさにリスク分散がキーワードです。
藤原 オンラインも結局「分散」がキーワードになっています。だからこれからの学校も常にオンラインでみんながつながっている必要がある。南海トラフ地震で、どの都市が破壊されるかは全く分かりませんが、分散し多様化していれば人は生き残れるわけですね。
鎌田 実はそういうとき、それまで失敗ばかりだった人が果敢にみんなを助けたりするのです。人間の能力はきわめて多様だからこそ、それぞれの能力を生かし、分散して活躍できる世の中にしていくことが大事なのではないでしょうか。
(構成:佐藤寛之、写真:伊藤信)