【SNSの罪と罰】“インターネットの息苦しさ”を考える

2020/6/2
「WEEKLY OCHIAI」では、新型コロナウイルスについての最新情報の解説とコロナショックがもたらす新しい未来の可能性をめぐる“ハードトーク”をお届けしていますが、前回は「SNSの誹謗中傷」についてのニュースを受けて、急遽内容を変更しました。
この記事では、5月27日に配信された「“インターネットの息苦しさ”を考える」の各ゲストの発言の一部を紹介します。
番組全編の視聴はこちらから(画像タップで動画ルームに遷移)

「ユーザーには何も期待していない」

『テラスハウス』出演者の悲報をきっかけに、SNSでの誹謗中傷をめぐるニュースが飛び交い始めた5月最終週。
3月下旬から新型コロナに関するテーマを徹底して取り上げてきた「WEEKLY OCHIAI」はこの日、急遽企画を「SNSの罪と罰」に変更して配信した。
この日のスタジオで落合陽一は今回の議論の最中、「答えはひとつしかない」と一刀両断。
いつものしなやかで流れるような口調とは裏腹に、めずらしくトゲのようなものを纏っていた。
落合 僕はユーザーには何も期待していなくて、ずっとお金の話だと思っているんです。
冷静に考えて、損害賠償請求額が低すぎる。もしくは、BPOではない行政処分をかませて制裁金を課せばいい。
落合 炎上を煽るようなブログに10億円とかで訴訟をかけるようになれば、炎上でお金稼ぎしようとするような人はいなくなりますよね。
ヨーロッパだったらそういう動きをするだろうなと思っているし、僕の中ではそれで答えが出ちゃってるんです。

「炎上しにくいSNS」だったTwitter

Twitterと言えば、この人。
ジャーナリストの津田大介氏は、かつてのTwitterの空気感をこう表現する。
津田 Twitterが盛り上がり始めた2009年や2010年頃って、「炎上しにくいSNS」って言われていたんですよ。
なぜかというと、当時の仕様だとリプライは本人しか見ることができなかったからです。
もともと炎上の起源はブログのコメント欄にいっぱい否定的なコメントがあったことですが、Twitterはそれが可視化されなかった。
津田 それがFacebookの真似をするようになって、リプライをツリーにするようになってから明らかにTwitter上の空気は変わりました。
加えて、Facebookやブログは自分で管理できるけど、Twitterの場合はコメントをつけられた側が削除できないという問題もある。

Web2.0の時代にはしゃぎすぎた

遅いインターネット』の著者の宇野常寛氏は、なぜ現代のSNSがこうした状態になってしまっているのか、こう分析する。
宇野 結局、僕らはWeb2.0の時代に、はしゃぎすぎたんですよね。
当時は、受信しているより発信している方が脳が活性化して賢くなるんだ、という非常に楽観的な議論が支配的になっていて、それが経済的なものを裏付けて広がっていた。
でもそれは諸刃の剣で、人は発信することでバカになる側面”も”ある。
脊椎反射的な反応をすることで脳内麻薬が出ている人たちもいるわけです。

マスメディアがネットリンチを生み出す

炎上とクチコミの経済学』の著者で、経済学者の山口真一氏は、ネット炎上におけるマスメディアのもつ影響力に言及した。
山口 ネット炎上を考えるときに気をつけないといけないのは、ソーシャルメディア上で拡散されている場合はほとんどの人が知らない、ということです。
そこでまとめサイトやメディアが取り上げると、彼らは月間1億PVとかありますからガッと拡散されますが、最終的に大きなネットリンチを生み出すのはマスメディアなんです。
ネット炎上の認知経路として、約56%はテレビで、約17%はTwitterというデータが出ています。それくらいマスメディアの拡声器としての責任は大きいんです。

ネットで私刑が起こる背景

「テラスハウス」出演者の死をきっかけに注目されたSNSでの誹謗中傷。この問題に詳しい弁護士の佐藤大和氏は、SNSユーザーの心理を次のように分析する。
佐藤 まずは、市民が法律の判断に納得できていないこと。だから「法律に変わって自分たちが成敗してやる」みたいな発想が生まれる。
もうひとつは、メディアが対立構造を煽り続けてきたこと。炎上相談が増えたのは2017年頃からですが、その背景にワイドショーなど芸能人の不祥事や不倫問題などを扱って、落ち度のある芸能人を責め立てるような番組が増えたことがあります。
観ている側からしたら「自分もこういう風に厳しい言葉を投げかけてもいいんだ」と錯覚しかねない。

怒りは他の感情よりも伝播しやすい

では、人間の攻撃心理というアプローチはどうか。心理学博士の関屋裕希氏は、SNSの炎上と人間の心理の関連についてこう語る。
関屋 中国のSNSを分析した研究で、不安や喜びといった他の感情に比べて、怒りは素早くかつ多くの人に共有されやすい、ということがわかっています。
誹謗中傷など攻撃をする人の心理の手前には怒りがあると思うのですが、これがSNSの特徴である「即時性」や「拡散性」の掛け合わせで起きているのかな、と思います。

GDPRがもたらすプラットフォームの変化

課題は多いものの、プラットフォーム側の変化も少しずつ起きている。慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章氏は、昨今のフェイクニュースの扱われ方を例に挙げてこう語る。
宮田 今までのSNSをはじめとしたメディアは、経済をまわすように過激な方に向かっていました。
ある程度フェイクニュースが混じっていても、ユーザーが群がればお金が回る。
ただ、それがGDPR(EU一般データ保護規則)の登場によって、信頼を得られるようにデータをまわさないとビジネスが成り立たなくなった。
実際、Facebookのフェイクニュースの削除数は去年の倍になっています。

視聴者のガス抜きを担ってきたメディア

「ONE MEDIA」CEOの明石ガクト氏は、議論が常に「体制側」から語られることに疑問を呈した。
明石 メディアというのは、僕ら国民性を映す鏡でもあります。
たとえばそこで厳しい規制を入れたときに、おそらく「無敵の人間」問題が出てくるはず。以前も、某ブログサービスで何度もIDを封じられた人が、最終的に殺人を犯してしまった事件もありました。
メディア自体が大衆のガス抜き的な役割を担っていたとして、それがなくなってしまった社会ってどうなるの、とも思ってしまう。
体制側からばかり話しても、社会とは一向にマッチしないような気がします。
番組の最後に明石氏が掲げたキーワード。その真意は番組本編で確かめてください。

SNSは私たちを幸せにしたのか?

過去最多のゲストでお送りした今回。
ジャーナリスト、クリエイター、経済学者、心理学者、法律家らが、それぞれのアプローチでおよそ100分間にわたって議論しましたが、それでも明確な“答え”にはたどり着けませんでした。
しかし、SNSがもたらした功罪を考え抜いた議論の過程にこそ、私たち一人ひとりが考えていく上でのヒントがあると確信しています。
SNS・インターネットは、私たちを幸せにしたのか、不幸にしたのか。
ぜひ、番組本編をご覧いただき、この問いについて考えてみてください。
番組全編の視聴はこちらから(画像タップで動画ルームに遷移)
<執筆:富田七、編集:安岡大輔>