【岩田健太郎】甲子園・インターハイはできなかったのか?

2020/6/8
 プロ野球、Jリーグは開幕が決まったものの、新たに選手への感染が判明し「再延期の可能性」も指摘される。新型コロナウイルス感染症拡大の影響はスポーツ界でも甚大だ。
 なかでももっとも大きな衝撃を与えたのが、インターハイそして甲子園の中止だった。
 専門家の見地から「中止」の判断には、どんな根拠があったと推定されるのか。また、実際に開催は不可能だったのか。
 神戸大学感染治療学分野教授・岩田健太郎氏に聞いた。
岩田健太郎(いわた・けんたろう)神戸大学感染治療学分野教授。1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院を経て、2008年より現職。今年2月に横浜港に停泊したクルーズ船・ダイヤモンド・プリンス号に乗船し、その実態を告発した、感染症学の第一人者。近刊に『新型コロナウイルスとの戦い方はサッカーが教えてくれる』(X-Knowledge)。

中止は風評被害対策

──高校スポーツ界では今夏のインターハイ、甲子園の開催中止が発表されました。その根拠が主催者からもそれぞれ説明がありましたが、「本当にできなかったのか」という思いもあります。まず伺いたいのが、専門家から見て、これらの中止についてどう思われたか。そして、開催に対して、何がハードルになっていて、何がクリアされれば可能となったのでしょうか。
岩田健太郎(以下、岩田) 感染リスクをゼロにしたければ、中止にするのが一番簡単なんです。
 しかしながら、そもそもリスクをゼロにする必要があるのかどうか。これはなかなか難しい問題です。
 よく知られていますが、新型コロナウイルスへの感染は、症状がない、もしくは軽い症状で自然治癒してしまう方が大多数です。
 加えて10代の方は、感染リスクも重症化リスクも低い。一番安全な人たちと言われています。
 こう言うと「いやいや10代でも亡くなったニュースがあった」と指摘されることがあるのですが、ニュースになるということは、そういうことが滅多に起きない逆説的証左でもある。
 つまり、高校生でフィットネスとして高いレベルにあるアスリートの方たちが、スポーツ活動ができないという判断は合理的ではありません。
 特に、空気の循環がいい「感染リスクの低い場所である外」でできる野球やサッカー、ラグビーといった競技であればなおさらに。
──そもそもリスクをゼロにすることは不可能だと思います。
岩田 もちろんリスクはゼロにはなりません。ゼロにするかどうかのそもそも論があるなかで、一律ですべてを禁止・中止にしてしまうのは、大きな問題です。
 感染症が怖いという思いはあるでしょうし、個人レベルで言うと、感染したくないという方もいるでしょう。
 そういう方を無理やり参加させるわけにはいかないと思いますが、「感染のリスクは飲み込むけれど、やっぱり野球がしたい、スポーツがしたい」という(感染の可能性が低い)方たちを、外野が「疎外させてしまう」のは、あまり筋が通っていないと思います。
──では、いまの日本においてハードルになっているものはなんですか。
岩田 ハードルは新型コロナウイルスというよりも、人間の方が大きいですね。つまり風評被害です。
 例えばどこかの高校の野球部で新型コロナウイルス感染者が出た、というニュースが出てしまうと、よってたかってマスメディアが大きく取り上げる。それを多くの方がソーシャルメディアなどでばらまく。
 場合によっては、学校を突き止めたり、感染者の名前を探したり、親に文句を言ったり、石を投げたりと、ものすごくヒステリックなことがたくさん起きている。
  今回の高校スポーツの敵は、人間だったと思います。
──人間による中止。つまり感染症対策をすれば開催も可能だった、と。
岩田 はい。

「プランB」はなかったのか

──新刊『新型コロナウイルスとの戦いはサッカーが教えてくれる』(エクスナレッジ)では、Jリーグの再開について具体的な見解を示されていますが、そこにはふたつのポイントがあったように思います。ひとつは協力体制づくり、もうひとつはコンセンサスづくり。それを今回のインターハイと高校野球に当てはめると、どう見えてくるでしょうか。