【考察】名物アナが語る「ラジオにあって動画にないもの」
2020/6/4
音声番組「フルライフ対談」。4月に新刊『フルライフ』(NewsPicksパブリッシング)を出版した予防医学研究者の石川善樹氏がホストを務め、充実した人生の送り方をゲストと語り合う番組だ。
今回のゲストは、ニッポン放送アナウンサーの吉田尚記氏。ラジオだけでなくイベント司会やネット番組への出演も精力的に行っている。
過去には対談書籍『どうすれば幸せになれるか科学的に考えてみた』を上梓している石川氏と吉田氏。トークはテンポよく多方面に及びながら、人間の感覚や欲求のありように迫っていく。
*音声はこちらからお聴きください
適度に人の気配を感じさせる装置
石川 新型コロナウイルスで非常事態下の現在、ラジオの価値が見直されているんじゃないですか。
吉田 ラジオ最大のメリットは、人員やコストがめちゃくちゃ少なくて済むことです。その気になれば、話し手を含めて3人いれば番組が作れます。
そのためラジオ番組の多くは生放送を続けていますが、何十人も動員しなければいけないテレビ番組は軒並み、再放送に追い込まれています。
石川 たしかに。
吉田 テレビ放送が始まって以来、「ラジオはすぐ滅びるだろう」と言われ続けてきました。それでも60年以上残ってきた理由が、このコロナで改めて明らかになった。
むしろあらゆるメディアが出揃ってから、今、初めて「ラジオは滅びる」と言われなくなったかもしれません。
──石川さんと吉田さんは共著『どうすれば幸せになれるか科学的に考えてみた』を出版されていますが、知り合ったのはいつ頃ですか。
吉田 5~6年前ですかね。僕はラジオパーソナリティという、「これから流行するもの」を追いかける仕事です。石川さんの専門は予防医学——つまり、病気をはやらせないことですから、逆にはやらせる方法を知っているんじゃないかと思って会いにいきました。
石川 吉田さんに会って、初めて「ラジオって何だろう」と考えました。僕は皿洗いをするときにラジオをよく聴くんですけど、無音状態よりも不思議とはかどるんです。
吉田 作業用BGMとしてのニーズは多いですね。人間は群れの生き物なので、自分だけの状態は寂しいけれど、干渉されるのも煩わしい。ラジオは適度に人の気配を感じさせながら必要なニュースを入れてくれる、ちょうどいい装置なんです。
石川 よくわかります。あと、テレビ番組は「外から見ている」感じがしますが、ラジオを聴いていると「一緒にいる」感覚があります。Well-Beingのシンボル的存在といっていいほど心地いい。このラジオ特有の「近さ」の正体は何でしょうか。
吉田 「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」ってご存じですか? 視覚障害のある方と一緒に真っ暗な部屋を巡り、見えない感覚を味わうための体験です。