[東京 14日 ロイター] - 日銀の黒田東彦総裁は14日、ライブ形式で行った講演で、当面は新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば躊躇(ちゅうちょ)なく追加緩和を打ち出す方針だと改めて述べた。影響を注視する間、政策金利は現在の長短金利水準またはそれを下回る水準で推移することを想定しているとした。2%の物価安定目標の実現については「見通し期間を超えて、かなりの時間がかかる」と指摘。物価モメンタムがいったん損なわれたと判断したため、3月、4月と追加緩和に踏み切ったと説明した。

黒田総裁は、緩和的な金融環境を維持し、金融・経済の安定確保に努めることが、感染症拡大の影響が終息した後に物価安定目標の実現に向かっていくために極めて重要だと指摘。「政府や海外当局ともしっかり連携しながら、中央銀行としてできることを何でもやる覚悟だ」と語った。

日銀は、政府の緊急経済対策に盛り込まれた保証料・利子減免制度を通じて行われる中小企業などへの貸し出しなどを対象に、有利な条件で金融機関にバックファイナンスする新たな資金供給手段を検討している。黒田総裁は講演後の質疑応答で「次回6月の決定会合を待たずに決定・実施していくことを視野に入れて、早急な検討を進めている」と説明した。

日銀は4月の決定会合で、年80兆円としてきた長期国債の買い入れめどを外し、長期金利がゼロ%程度で推移するよう、金額の上限を設けずに必要な額の買い入れを実施することを決めた。黒田総裁は、こうした措置が「緊急経済対策をはじめとした政府の積極的な財政措置と相まって、ポリシーミックスの効果を高めていくと期待している」と述べた。

<イノベーション促進を危機後の力に>

経済・物価見通しについて、黒田総裁は「不確実性は極めて高く、下振れリスクも大きい」と指摘。金融システムについては「景気が厳しさを増す中、日本の金融システムにかかるストレスは高まっており、一段と注意が必要な情勢だ」と述べた。

感染症の影響が長期化して、実体経済の悪化が金融システムの安定性に影響を及ぼし、それが実体経済へのさらなる下押し圧力につながるリスクは、現時点では大きくないものの、「先行きの動向を注視していく必要がある」とした。

黒田総裁は講演の終盤で、外出自粛の中で情報通信技術を活用して在宅勤務やさまざまな社会活動を続ける動きが出ていることに言及。「こうしたイノベーションの促進を危機の終息後に経済全体の生産性向上につなげることができれば、危機の経験を前向きな力に変えることができる」と語った。

*内容を追加しました。

(和田崇彦 編集:内田慎一)