【論点】新型コロナは「不可抗力」なのか

2020/4/23
NewsPicksのグループメディア米Quartzのニュースレター「Need to Know: Coronavirus」から、新型コロナウイルス感染の拡大による社会的・経済的なインパクトについて、日本時間22日朝に配信された内容をお届けします。
INDEX
①「不可抗力」でビジネスは救われるか
②世界を知る「Numbers」
③石油バブルの行方
④世界をアップデート

①「不可抗力」でビジネスは救われるか

「神よ、そこにおられるのでしょうか?」。今、スモールビジネスを営む人々からの叫びが世界中にこだましています。
「Force majeure(フォースマジュール)」。フランス語で「不可抗力」を意味するこの言葉は、「デウス・エクス・マキナ」や、偉大な交響曲の最終楽章につけられた副題のように、芸術的な響きをもって聞く者の耳を刺激します。
ウェブスター辞典によるとForce majeureは「戦争、労働者のストライキ、異常気象などの出来事や、合理的に予想したり制御したりすることができない影響」とありますが、実際には何かしらの劇的なものを意味する曖昧な法律用語です。
弁護士であり、Hashtag Legalの創設者であるジェイミー・リーバーマン(Jamie Lieberman)は、「実際に多くの契約書に記載されている条項であり、実行が不可能となった契約をキャンセルしたり延期したりすることを可能にします」と説明します。
この不可抗力条項は、歴史的に洪水や地震などの自然災害に適用されてきましたが、より緩やかな定義が裁判所に認められることもありました。
今、多くの企業がここ数年で最悪の損失を被る事態に直面しており、多くの人が新型コロナウイルスはこの条項の範疇(はんちゅう)に含まれるのかどうかを気にかけています。
企業が不可抗力事項を行使したいと思う理由は、納期の再交渉から契約の完全な中止までさまざまです。
しかし、事はそう単純には運びません。
AIを用いて契約を分析するスタートアップであるKira Systemsのリーガルアソシエイト、ジェニファー・ツァイ(Jennifer Tsai)はウェビナーでこのように述べています。
「不可抗力条項を発動しようとしている当事者は、いま起きている事象と履行不能とする判断との間に因果関係を示さなければなりません。当然ですが、コロナウイルスのパンデミックが、契約の下で不可抗力事象とみなされるかどうかは、その契約の不可抗力を規定する文言に依拠します」
多くの場合、契約書には何が「神の御業」とされるかが明示されています。もしそうでなければ、当事者は判例に頼るか、裁判所に行くしかありません。
そして、往々にして、そのハードルは高いものとなります。
一般的に、不可抗力とみなされるためには、契約の履行が単に「非常に難しい」だけではなく「不可能性」が必要となると、国際的な法律事務所であるCooley LLPは示しています。
法律上の不可能性とは、政府の行動や命令によって、何らかの行動が違法となる場合も、この基準を満たしえます。
これまでも、さまざまな企業や組織が困難な状況下で法的契約から抜け出すために不可抗力を利用しようとしてきましたが、その試みはときに危機的な状況をもたらします。
2015年、モロッコ政府は1万1000人以上の死者を出したエボラ出血熱の発生を理由に、契約の不可抗力条項を使って、アフリカで最大のサッカーの祭典であるアフリカネーションズカップを延期しようとしました。
しかし、アフリカサッカー連盟(CAF)は、状況がさらに悪化したとしてもサッカー大会を開催することは可能であるという理由で、それを認めることはありませんでした。最終的に政府はCAFから責任を問われ、続く2回のアフリカネーションズカップから追放され、100万ドルの罰金を科されたのです。

②世界を知る「Numbers」

🕒73%増。インド人がネットフリックスに費やす時間が73%増加しています。国全体でのロックダウンが開始された3月25日から、1日あたり80分をさらにネットフリックスに費やしています。一方で、ローカルの競合サービスは苦境に立たされています。
📱29カ国。感染者の隔離やソーシャルディスタンシングの徹底、社会行動の分析のために携帯電話のデータを使用する国々が29カ国に増加しています。私たちはトラッキング社会に生きています。
🍔1000万ドル(約10億7500万円)。上場しているシェイクシャックが、中小企業向けの米国給与保護プログラムから受けた融資の規模は1000万ドルにも及びます。怒りの声を受け、シェイクシャックは政府に返納を申し出ています。

③石油バブルの行方

フラッキング(水圧破砕法)によって、米国は世界でもトップの産油国となりました。新型コロナウイルスの感染が広がってから、原油価格は記録的な下げ幅となっており、1月の1バレルあたり60ドルから、ついに今週1ドルを下回り、月曜日には原油の先物価格は史上初めてマイナスを記録しました。
この原因は連鎖によるものです。国際エネルギー機関(the International Energy Agency)によれば、旅行/渡航制限とソーシャルディスタンシングによって、今年の全世界的な石油に対する需要は9%以上低下しています。
4月、その落ち込みは30%にも迫る勢いです。さらに、世界的な生産者であるロシアとOPECは970万バレルの減産に合意しましたが、それは失われた需要の半分以下です。
これは石油採掘会社にとって大きな問題であり、ほとんどの会社が利益を上げるためには、石油価格が30ドル以上でなければなりません。
ユーラシア・グループのシニア・オイル・アナリストであるデビッド・リビングストン(David Livingston)はこう述べています。
「これが死亡宣告だとは思いませんが、この業界の転換点であることは間違いありません。私たちは、『シェールは生き残るか』程度には、業界が大幅に統合されるのを目の当たりにすることになるかもしれません」

④世界をアップデート

 最新数値:感染者数:263万778人 、回復者数:71万4,195人
・医者は人工呼吸器の問題に直面している。
・マスクは聴覚障害者に困難な状況を強いている。
・ロックダウンによって240億ドル(約2兆5000億円)の利益をジェフ・ベゾスにもたらした。
・新型コロナウイルスはマリファナの合法化のタイミングを示している。
睾丸(こうがん)はウイルスが好むタンパク質を生成する。
(執筆:Natasha Frost、Tim McDonnell、Susan Howson、Kira Bindrim、翻訳:小西悠介、編集:年吉聡太、森川潤)