ディズニー史上最大の危機に立ち向かう「救世主」ボブ・アイガー

2020/4/14

頂点で「引退」するはずが…

ウォルト・ディズニー・カンパニーは、マーベル作品や『スター・ウォーズ』といったシリーズ作品を、世界最大のメディアビジネスへと育て上げた。
その立役者であるカリスマ、ボブ・アイガーCEO(当時)の肖像に、最後の仕上げが加えられたのは昨年9月末のこと。“偉人伝”とでも言うべきアイガーの自伝『The Ride of a Lifetime』(邦訳『ディズニーCEOが実践する10の原則』、早川書房)が刊行されたのだ。
今年の大統領選挙への出馬が真剣に取り沙汰されたこともあるハンサムな経営者は、続く日々を宣伝ツアー先で過ごした(ディズニーの本気のメディア戦略は有名だ)。その間、ディズニーの新しいストリーミングサービスは、早くもネットフリックスに並び立つ存在として幸先のいいスタートを切り、彼を喜ばせた。
一方で、アイガー自身は『タイム』誌の「ビジネスパーソン・オブ・ザ・イヤー」に選ばれたり、コラムニストのモーリーン・ダウドがニューヨーク・タイムズに寄稿した記事で「ハリウッドで最も感じのいいCEO」と賞賛されたりしていた。もっとも、オンライン学習サービス「マスタークラス」のリーダーシップ講座の宣伝用に撮影されたソフトフォーカス気味の動画に対しては、アイガーの友人でも“やりすぎ”だと感じたようだ。
何もかもがあまりにうまくいったので、アイガーは今こそが、2013年以来4度にもわたって先延ばしにしてきた課題に乗り出すタイミングだと考えた──CEOからの引退である。
ディズニーの経営陣によると、12月の初めには、アイガーは取締役会に対して退任の意向を明らかにしていた。それから1週間ほどたった頃、中国の武漢で、一部の人々が謎の咳に悩まされ始めた。
ボブ・アイガー(Fred R. Conrad/The New York Times)

ディズニーを襲う「暗雲」