若者に「いい仕事とは?」と問われたら、なんと答えるか

2020/3/19
「この仕事は何のため? 誰のため?」

 働く理由は人によって異なるが、自分が納得できる仕事をするためには、自分と他者が何を目指しているのかを考える必要がある。

 若者と共に“ほんとうに欲しい未来”を語り合うプラットフォームとして開催されるU30限定イベント『trialog Partnered with Sony』。

 2/19に渋谷TRUNKで開催された#9では、仕事の「クオリティとミッション」をテーマに、2つの対話が実施された。
 NewsPicksから生まれた学生向けメディア「HOPE by NewsPicks」では、このイベントに向けて“特派員”を募集。5人の学生ユーザーと共に参加し、それぞれのリアルな感想をSNSで発信する試み(ハッシュタグ#HOPE特派員)を行った。本記事では、その学生の反響を組み合わせて当日の内容をレポートしていく。
若林 クリエイターのお二人にとって「クオリティ」はどこまで追い求めるものか。例えば、予算や目標のないモノ作りの方が、やはり自由度は高いですか?
小島 いや、自由度は変わらないです。僕は完璧主義者なので、たとえば今日描いた絵が最高だと思っても、翌朝になると気に食わない点が出てくる。昨日の最高は今日の最高ではないから、締め切りがないといつまでも完成しません(笑)。
 締め切りまでに何ができるか、自分が突き詰められるクオリティを現実的に見ながら、ある意味妥協しながら作る。本当は作っているのが楽しいから完成させたくないんだけどね。
水口 小説やドラマ、映画、音楽などのフォーマットには、話の長さや、視聴時間、場所などといった制約がありますよね。でもゲームにはそういった制約が一切ない。だからいくらでも作り込みたくなってしまうんです。
若林 そうなると、最初にフレームを設定しないといけない。
小島 ゲームは完成品が見えていない状態でパーツを作り、間違えずに組み立てないといけない。完成品をバラして組み立てるプラモデルとは違って、ひとつ間違えると作り直しになるので、最初にある程度の世界観を作り、目安にします。
 作っている途中は毎秒問題が起きるのですが、おぼろげだったバラバラのパーツがパズルのようにピタリとつながっていく瞬間は気持ちいいです。
若林 ユーザーからの賛否両論の反響について、作り手としてはどう感じていますか?
水口 レビューに悪い評価をつけられてもどうってことないです(笑)。それよりも、世の中にマイナスの影響を与えてしまわないように。そこをもっとも気にします。
 自分たちが紡いだストーリーを、文化や宗教、言葉もバラバラな世界中の人が体験します。だから誰かを不用意に傷つけないように、アンテナは常にグローバルの最先端にチューニングしておく必要があると思っています。
水口 ゲームを体験した人が感動したり新しい視点を得たりして、普段の生活や人生が少しでも変わると嬉しいですよね。
小島 まさにそう。ゲームでの体験を、リアルな人生に持ち込んで欲しいんですね。小説や映画と同じかそれ以上に、ゲームでは自分とは違う職業の人になったり、過去の人になったりと、深い擬似体験ができます。
若林 そういった作り込みをするにあたって、何を軸に取捨選択しているんでしょうか?
小島 自分を信じて判断するしかないですね。自信がないときにモノ作りはできません。特に、新しいことを始めると猛烈な反発に合います。反対されても自分を信じて、判断軸はブラしてはいけない。そういう意味でクリエイターは孤独です。
水口 ある程度は自分で責任を持ってやらないと、人のせいにしますからね。「会社が悪い、社会が悪い」と。それでは何も変わりません。
若林 お二人にとってのいい仕事とは? そのために、どんな自分でありたいですか?
小島 人の記憶に残る仕事が、いい仕事なんじゃないかな。だから僕は、死んだ後も評価されたり、誰かの生き方が変わるような仕事をする人でありたい。
 コンテンツとしてただ消化されるのではなく、誰かの身になる。賛否のあるものはその分、何年も掘り起こされて議論がされたりと、記憶に残りますからね。
水口 評価は5年後10年後でも、死んだ後でもいいんです。公開直後は評価されなくても数十年後に評価される映画があるのと同じで、いい体験は人の心に刻まれるので。人に良い影響を与えられるなら、それが最高の仕事だと思います。
若林 現代において、大量生産・大量消費こそ進歩につながるという「大きな物語」はもはや失われました。そのなかで企業は、自分たちは何のために働くのか、それを社会に対してどう提示するかを模索しているようです。
三原 単純に「面白い・新しい」だけでは人々はモノを買わなくなっています。求められているのは、ストーリーを含めたモノ作りと、それを伝えるためのコミュニケーション。その情報量は一気に増えました。
 また、社会問題の責任が個人に分配されて、個人の選択が社会に影響するようになりましたよね。
若林 今までは作る側の都合で作れたのが、そうはいかなくなった。
三原 感度の高い人たちは、自分が買ったペットボトルが地球環境に悪いとわかっている。だから、ペットボトルを作った会社ではなくて、自分の消費行動が悪いと考えます。
マクティア サステナブル(地球環境を保全しつつ持続可能な産業や開発)だから、と消費者に選ばれるブランドが増えていますよね。
三原 その通りです。メーカーとしては、モノを作って届けることのワクワク感と、作ったモノに対する責任は分けて、「何のための仕事か、誰のためのプロダクトか」を考えないと、新しいものが生まれなくなると思います。
若林 これまで大量生産・大量消費で成長してきた大企業は、消費者の意識が変わった未来に、どう存在すべきでしょうか。
三原 大企業のブランドだけが残って、作り手はある程度絞られるかもしれません。自営業のレストランのような小規模なモノ作りが、ハードウェアビジネスの新しい形になるかもしれない、とよく話しています。
マクティア もっとユーザーに近づいてニーズを掴むことは必要ですよね。ユーザーは何を求めているのか、突き詰めれば「この仕事で誰がハッピーになれるのか」を改めて考えて、企業や社会の形を変える必要があります。
若林 一方で、多くの雇用を生む大企業がなくなれば、経済が縮小するんじゃないかという懸念もありますよね。
マクティア かつて産業革命のときにもみんな失業を心配していたけれど、新しい仕事が生まれました。今はAIによって仕事がなくなると言われますが、むしろ新しい仕事や働き方が増え、新しい経済のあり方に進化できるのではないでしょうか。
 個人が一つ購買行動を変え、その潮流をキャッチした企業が変化すれば、新しいサービスや経済圏が生まれると思うんです。
 企業や働く人の「誰かのためになる仕事」は必ず消費者にも認知されます。そうして消費側と生産側の両方が求める体験や憧れる世界が見えてくると、より良い社会に変わっていくのではないでしょうか。

三者対話で未来を「一緒に考えたい」

──trialogはリアルな場での「三者対話」をコンセプトにしたプラットフォームです。改めて狙いを教えてください。
小堀 ソニーが「感動で世界を満たしていく」「未来を創っていく」を考えたとき、パートナーになるのは若い人です。でも若い人からしたら、ソニーが作る未来には興味がないかもしれません。
 若い人たちが本当に欲しい未来は何か。そこに近づく方法を一緒に考えたい、次の世代に何かを残したいという思いから、trialogを立ち上げました。
 trialogの特徴は、何かのテーマに対して白黒つけたいのではないこと。違うポジション・世代の人が1対1で話すと対立構造になり、分断が生まれる。そこで“三者対話”のトークイベントという形によって、新しいつながりを育む試みです。
若林 “若者の意見やアイデアを汲み取る”という試みは昔からあって、それ自体悪いことではありません。ただ、それをマーケティング的な観点から進めてしまうと、一方的な「搾取」になってしまいかねない
 世の中には、あらゆる形の分断があります。世代や地域だけでなく、テクノロジーとビジネス、カルチャーもその要因になる。
 「対話」が重要なのはみんな分かってはいても、実際、それを行うことが困難なんですね。ですから、まずはその手前で、「対話」の場所や建て付けを設定する必要がある。
 立場を超えた健全な関係性をつくりだすために、さまざまな視点や立場の人がフラットに出会える場を作ること。
 それがtrialogという取り組みのチャレンジであり、面白いけれども難しい点だと思っています。

世の中に対する怒りや反発が希望になる

──trialogは参加者をU30限定と、若者に絞っています。若者はどうすれば未来に希望を持てるでしょうか。
若林 「希望」は、何かに対する怒りや反発がないところには生まれないと僕は思っています。
 言い方は悪いですが、若者が「世の中クソだな」と思うことは重要で、それがないところで「良くしたい」とか「変えたい」という思いは生まれないですから。
 そして、その思いがあればこそ、「なぜいまがこんなにクソなのか」を理解するために学ぶわけですし、それを変えるために必要なスキルなどを身につける必要も生まれてくる。
 それを積み重ねていくことで、“自分の仕事”が形作られていくものだと思うんです。
小堀 今は、個人それぞれの「良い・悪い」の価値観が昔よりはっきりしているし、SNSを使えば意思表示も簡単にできます。
 本当に欲しいものは何か、何に怒りや反発を感じているのか、今の若者はそれらを発信して希望に変える力があるんじゃないでしょうか。
 僕らは、若者が諦めてしまう前に、小さな光でもいいから何かきっかけを作りたいと思って、trialogを始めたとも言えます。
──通常、ビジネス系のイベントは目的やテーマが明確ですが、trialogはそうではない。ゲストも参加者も多様で、特異な空間になっていますね。
若林 世の中にいるのは、目的や目標がはっきりした人ばかりじゃないですから。
 自分としてはどっちかというとそうした目的や目標の手前にある問題意識とか悩みにフォーカスしたいんですね。
 そもそも仕事ってなんなんだ、お金ってなんなんだ、会社ってなんなんだ、ってところがあやふやなところで、具体的に「やりたいこと」があっても、ただの空想になってしまいますから。
 で、実際いまの世の中は、社会人ですら「仕事ってなんだろう」「会社はこれからどういうものになっていくんだろう」って悩んでいるわけですから、そこを一緒に考えていくことに意味があるのかなと思います。
若林 故・野村監督の言葉に「勝ちに不思議の勝ちなし、負けに不思議の負けなし」とありますが、本当にその通りで、人の成功談をいくら聞いても再現性ないし、あまり他人の実にはならないんだと思うんです。
 むしろ負けた理由、その悩みや苦しみの方が、人の役に立つような気がするんです。
 今回はゲームクリエイターの小島秀夫さんがゲストでしたが、小島さんの話を同業者や志望者が聞くのではなく、関係ない人が聞いて仕事の仕方を少し変えてみたり、キャリアを考えたりするきっかけになると嬉しいです。
小堀 僕らの対話には必ず「ハテナ」の要素があって、僕らも解がわからないことを話して、一緒に悩む。
 これからの世の中は何が正解になるのか全くわからないから、僕らの成功体験から「これが正解だ」と提示しても全くアテにならないんです。
若林 trialogは目的もアジェンダもないけれど、あえて違うジャンルで活躍している人や違う世代の人をゲストに呼び、誰もが当事者でありうるようなテーマについて語っていただくことで、多少は広がりのある対話ができているんじゃないかという手応えはあります。
 みんなモヤモヤしているんだ、自分だけじゃないんだ、と思ってもらえればまずはいいのかなと。
(執筆:田村朋美 編集:安西ちまり 写真:東原昇平 デザイン:小鈴キリカ)