[ワシントン 3日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)は3日、新型コロナウイルスの感染拡大による米経済への影響を和らげるため、50ベーシスポイント(bp)の緊急利下げを決定した。ただ、景気減速の深刻化や長期化を懸念する金融市場の懸念払しょくにはつながらなかった。

パウエルFRB議長は記者会見で、米経済は力強いとの認識を示しながらも、新型ウイルスの感染拡大を受けてFRBの成長見通しが大きく変化したと指摘。

「新型ウイルスと、封じ込めに向け実施されている措置は当然、国内外でしばらくの間、経済活動に対する重しとなる」と述べた。

FRBはフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を50bp引き下げ1.00─1.25%にすると発表した。決定は全会一致だった。

声明では「米経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は引き続き力強い。新型コロナウイルスは経済活動に対するリスクとして台頭しつつある。こうしたリスクを踏まえ、さらに、最大雇用と物価安定の目標を達成するために、連邦公開市場委員会(FOMC)はきょう、 FF金利の誘導目標を引き下げることを決定した」とした。

FRBによる緊急利下げは世界的な金融危機に見舞われた2008年以来。FRBが今月17─18日に予定している次回FOMCを待たずに利下げに踏み切ったことは、世界的なリセッション(景気後退)の回避に向けた迅速な対応の必要性を反映したものとみられる。

パウエル議長は会見で、「経済を支えるため、今が行動すべき時だという見解に至った」としたうえで、「米経済が力強いことは承知している。堅調な成長を取り戻し、労働市場が堅調な状態に戻ると完全に予想する」と述べた。

それでも、見通しに対する不確実性は高く、状況は「流動的」との認識を示した。

<市場の懸念根強く>

緊急利下げを受け、米株価は直後に上昇したものの、その後は失速。主要3株価指数は3%近く下落して取引を終え、国債市場では米10年債利回りが初めて1%を割り込んだ。

トランプ米大統領はホワイトハウスで記者団に対し、この日の相場変動は見ていないと述べ、新型ウイルスへの対応に注力していると強調した。

ただ「FRBはもっと多くのことをすべきだ。FRBは追加措置をさほど講じない可能性を示唆したと思うが、それは残念だ。私に言わせれば、(パウエル議長は)非常に悪いシグナルを送った」と不満を示した。

短期金融市場では、今回の緊急利下げを受けても、FRBが6月までに25bpの利下げを1回実施するとの観測が織り込まれている。

FRB当局者は17─18日のFOMC後に金利の道筋や米経済について見通しを公表する。

ケニーズ・コメンタリーの創業者、ピーター・ケニー氏は「通常なら市場では緩やかな利下げは歓迎される。特に今回は利下げ観測が高まっていた。ただ実際に利下げが実施された今、市場は次はどのような動きになるのか見極めようとしている」と述べた。

オックスフォード・エコノミクスのアナリスト、グレゴリー・ダコ氏も「今後はFRBが追加緩和を行うか、またその程度と時期が問題になる」とし、「差し迫ったリセッション(景気後退)のリスクが高いと判断すれば、FRB当局者は非常に積極的な利下げを続けるだろう」と予想した。

中銀の金融緩和には、クレジット市場を潤わせ、借り入れコストを引き下げることで需要を喚起する効果がある。ただパウエル議長は、利下げで世界的な供給網の阻害を解消することはできず、特に当局が禁止している場合、人々に旅行や集会に出掛けたり、学校に行ったりするよう説得もできないと指摘。

「利下げを行うことで、感染ペースを引き下げられないことは承知している。供給網を修復することもできない。それは理解している。全てに対する答えを持っているとは考えていない」と述べた。それでも、利下げは「全般的な経済活動」の支援になると語った。

パウエル議長はこの日の朝、主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁の電話会議に参加。G7は「新型ウイルスが世界経済の成長に及ぼす潜在的影響を踏まえ、われわれは堅固で持続可能な成長を実現し、さらに下方リスクから守るため、全ての適切な政策手段を用いるとのコミットメントを再確認する」とする共同声明を発表した。

キャンター・フィッツジェラルド(ニューヨーク)の金利ストラテジスト、ジャスティン・レデラー氏は「FRBが午前10時に利下げを発表したのは予想外だった。主要中銀による協調行動のようなものを予想していた」と述べた。

パウエル議長は会見で、FRBが他の中銀と活発な意見交換を行っているとし、今後、協調行動に乗り出す可能性もあるとの見方を示した。

FRBの緊急利下げに先立ち、この日はオーストラリア準備銀行(RBA、中央銀行)とマレーシア中央銀行がともに25bpの利下げを決定している。

ムニューシン米財務長官はFRBの決定について、米経済を支援するとして評価した。

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