[ロンドン 27日 ロイター] - 外国為替市場で最も取引規模が大きいユーロ/ドルのボラティリティが足元で跳ね上がっている。値動きが乏しくて収益機会がなくなると嘆いていた市場関係者にとっては朗報かもしれないが、同時によみがえるのは、かつてボラティリティが市場の混乱を招いた「ボルマゲドン」の恐怖だ。

ボルマゲドンとは、2018年2月に米国の株式市場でボラティリティが突然急騰し、目算が外れて損失を被った投資家の大規模なポジション調整を誘発、株価が急落した出来事を指す。一部の中央銀行などの規制当局者は、そうした混乱が再び発生して世界の金融市場全体に波及する展開を警戒している。

外為市場取引の25%を占めるユーロ/ドルは近年、相場が落ち着く傾向が強まり、今年1月の予想変動率は4%弱と、1年前の7.3%から低下。19年の値幅は1.15-1.19ドルとユーロ導入後20年間で最も小さくなった。相場変動を背景に顧客向けにヘッジ商品を販売するなどして利益を得ていた通貨トレーダーにとっては、不愉快な状況だった。

ところが現在のユーロ/ドルの予想変動率は6%を超え、約半年ぶりの高水準を記録している。

18年に株式市場でボラティリティ・インデックス(VIX)先物をショートに傾けていた投資家が大損したのと同様に、外為市場でもボラティリティが跳ね上がれば、オプション売りを通じてボラティリティ低下に賭ける取引をしている参加者や、ボラティリティの安定を見込んでリスクの高い資産を買っていた向きが、痛手を受けかねない。

ある中央銀行の高官は、投資家のリスク資産買いに言及した上で「(そうした)ポジションが積み上がっている兆候が見られるため、不安が増している」とロイターに打ち明けた。

<伝播リスク>

心配されるのは、外為市場が落ち着いていた期間が長かったので、そうした事態の恩恵に浴していたあらゆるセクターに悪影響が伝播するリスクだ。

同高官は、具体的に動く計画はないと前置きした上で、各中銀はボラティリティ急騰の可能性がないかどうか状況を見守っていると述べ、ボラティリティ低下に賭けるポジションが巻き戻される場合には急激な動きになるとも警告した。

ある主要中銀が設ける外国為替市場委員会メンバーのトレーダーは、最近の業界と政策担当者の会合では、この問題が最も議論されていると話した。

外為市場の全容を把握するのは困難で、ポジション動向に関する具体的データも存在しない。ただこのトレーダーによると、「多くの参加者」がボラティリティをショートにしており、世界的な低金利のおかげで低水準のボラティリティが今後も続くというのがコンセンサスだったと説明した。

外為市場は08年の金融危機以降、市場の活動を示す各種指標が低下傾向にあった。中銀による潤沢な流動性供給や、物価下振れなどが背景だった。

門外漢から見れば市場の落ち着きは良いことに思われるが、国際通貨基金(IMF)の金融安定報告書によると、ヘッジファンドなどのマーケットメーカーはそうした状況を利用して、相対的にリスクが高く、流動性が低い資産の購入を拡大しようとする。

この問題は、外為市場の規制がいかに緩いかも浮き彫りにしている。株式市場と異なり、外為スポット市場ないしデリバティブのポジションを正確に測定する手段はほとんど存在しない。

<なお楽観ムードも>

市場が落ち着いている局面でボラティリティをショートにする動きが加速するのは、トレーダーたちが通貨オプションを売って小幅のプレミアムを稼ごうとするからだという面もある。

実際そうした取引で相当な利回りが得られる。例えばリフィニティブのデータによると、ユーロのボラティリティを売って、ドルとルーブル、ブラジルレアルの同等のボラティリティを買うと、18/19年で11.5%の利回りになった。

ユーロのボラティリティを売れば事実上、シャープ・レシオ(1単位当たりの超過リターン)は2.5と、ボラティリティが2桁だった15/16年の1.7を上回る。

しかし事情が変われば、それに伴う衝撃は巨大化する恐れがある。

みずほのアナリストチームは、今月19日に円が1.3%急落したのはボラティリティ上昇を受けて投資家がドル売りポジションの一部を巻き戻したからではないかとみている。

それでもトレーダーたちは、目先ボラティリティが急騰するリスクについてまだ比較的楽観的に考えている。IMFのエイドリアン金融資本市場局長も、相対的に安定した経済成長と物価の停滞を示す指標が存在することは、低いボラティリティが常態なことを意味していると主張した。

さらにボラティリティ売りを好む参加者にとって最後のよりどころになるのが、混乱が起きても中銀が円滑化に動いてくれるとの確信だ。市場は既に、米連邦準備理事会(FRB)や他の中銀が新型コロナウイルス感染拡大に対応し、利下げすると見込んでいる。

(Olga Cotaga記者)