【テレワーク術】分散の壁、統合の利点。ビジネスツールも「スーパーアプリ」でいこう

2020/3/3
ビジネスシーンに普及し始めてきたチャットツール。メールとは違い、気軽なコミュニケーションが取れるためリモートワークや生産性向上に一役買っている。

しかし、便利なはずのこれらのツールでも「チャットは○○、ビデオ会議は△△、ドキュメント管理は××」と用途によってツールがバラバラで、ツールを行ったり来たり、データがどこにあるか分からない……など、一つひとつは便利でも「分散」が生産性を落としていると感じる人もいるのではないだろうか。

そんな中、オフィスツールの巨人、日本マイクロソフトの業務執行役員でエバンジェリスト(伝道師)を務める西脇資哲氏は「ツールはワンプラットフォームに統合されることで、真のスマートが実現する」と明言。

自社のグループチャットツール「Microsoft Teams」に自信を示している。チャットツールではSlack、ウェブ会議ではZoomなど新興ツールベンダーが注目を集める中、「統合」されていることの強みをエバンジェリストに聞いた。

バラバラのツールを使い分ける手間

──日本マイクロソフトは2019年8月に週勤5日を4日にして、会社全体が“時短”しました。日本企業の多くが働き方改革を推進するもうまくいかない中で、なぜマイクロソフトはできたのでしょうか。
 「本気」だったからです。
 5日しかないウィークデイのうち1日仕事の時間を削減する、つまり、1週間全体の20%を削減しなければならない。だからといって、売り上げ目標が20%低く設定されたわけでもない。
 「定時に帰りましょう」などとはレベルが異なる目標を掲げて、その実現に向けて真剣に考え、行動に移したからだと思います。
 コミュニケーションの取り方や資料の作成方法、チームワークの在り方など過去の業務プロセスややり方を根本から見つめ直してムダであったり非生産的だったりすることは、聖域なく変えました
 この10年で私たちのプライベートは、テクノロジーによって変化しましたよね? 
 誰かに連絡を取るときに家の電話を使うことはほぼなくなったでしょうし、紙の情報を友人にシェアしたいときわざわざ郵送もしないでしょう。
 飲食店を探すときや旅の予約などをするときも、ガイドブックを開く人もほぼいない。顔認証や指紋認証でスマホにサインインし、アプリを利用してサクッと目的を達成している。
 紙の情報は写真で撮ってチャットツールで送るし、飲食店や旅館も口コミアプリやSNSで見て、そのまま予約するのが当たり前。
 スマホという1つのデバイスの中でプライベートの行動がスマートかつスピーディーに変わっているのです。
 でも、ビジネスシーンになると急に使うツールが増えてしまう
 固定電話やメールを使いながら、独自のグループウェアやチャットツールも使い、ビデオ会議をするときに使うツールも指定されている。
 ドキュメント管理はまた別のツールに入れないといけないなど、よくある話ではないでしょうか。
 「あの資料はどこに保存したっけ」「あのWebサイトはどこにブックマークしたっけ」と探すことが大変になっていると思います。
──たしかに、一つひとつのツールは便利だけど、用途によって複数のツールを使わなければならないことで手間が増えて仕事が捗らない経験、あります……。
 マイクロソフトの仕事では使っていませんが、社外活動ではコミュニケーションツールとしてSlackを使うこともあります。競合ですけど(笑)。ビデオ会議にはZoomを、資料共有にはDropboxも使うことがあります。
 正直に言ってどれも便利(笑)。よくできているなぁと思う点も多々あります。
 だけど、どうしても特定用途に特化したツールだと部分的な便利にとどまり、仕事全体を見た時にスマートかと言えば疑問です。
 Slackでやり取りをしながら、カレンダーを開いてスケジュール調整し、さらにZoomを立ち上げてビデオ会議をして、共有された資料をDropboxからダウンロードする……。複数のツールを行ったり来たりしています。
 その点、「Office 365」の一つであり、ExcelやPowerPointと連携するグループチャットツール「Microsoft Teams(以下、Teams)」は、ファイル共有もチャットもビデオ会議も、資料への共同編集も、同じ画面のワンプラットフォームで完結する。
 通話もできるので、電話としても機能します。単にチャットにとどまらない、コミュニケーションやコラボレーションのプラットフォームと言えます。
 Teamsの中で、Wordで書いた企画書をチャットしながら共同編集したり、完成したファイルを関係者と共有したり、Teams内でコミュニケーションが完結するので手間が圧倒的に少ないですし、ツールを使い分ける必要もない。
 タブレットを1つ持っていればスマートに仕事ができる。冒頭に週4日勤務を実現できた理由について話しましたが、支えたインフラという面では、確実にTeamsの存在が大きかったんです。

スマホがあるのに地図帳は持ち歩かない

──キーワードは「ワンプラットフォーム」。
 私は「包括的な」という意味の「Comprehensive」という言葉でTeamsを表現しています。
 仕事をスムーズ、スピーディーに進めるためには、その人の仕事全体を包むような、カバーするような環境やツールがあるのがやっぱり楽ですから。
 今、コンシューマー向けのアプリでも「Comprehensive」が進んでいると思うんです。というのも、1つのアプリで何でもこなせる「スーパーアプリ」が席巻しているから。
 中国でいえば「WeChat」や「Alipay」、東南アジアではインドネシアの「Go-Jek」、シンガポールの「Grab」など。ヤフージャパンがZOZOTOWNやLINEと連携し始めたのもこのスーパーアプリ化の一環でしょう。
 メッセージングや決済、送金、タクシー配車、飛行機やホテルの予約、Eコマースなど、1つのアプリにすべて詰まっている。
 関連性のないように見えるサービスでも、何かをする度にいくつもアプリを立ち上げる煩わしい手間がなくて便利ですよね。だから、重宝されている。
 でも、ビジネスになると一転、そうはいかない。ツールはバラバラで今も紙文書でやりとりすることも多くてアナログとデジタルも混在。
 今の多くのビジネスパーソンってスマホを持っているのに、地図帳を持っているような状態だと思うんです。

Teamsで従業員同士の距離は近くなる

──Teamsの活用によって生産性が向上したなど、ユーザーからの声で印象的なものはありますか?
 それまでSkype for BusinessやG Suite、Slack、Zoomと用途に合わせてバラバラにツールを使い分けていた企業が、Teamsに集約したことで劇的に生産性が上がったという事例は山ほどありますよ。
 たとえば、NTTコミュニケーションズは、メールは Microsoft Exchange、ファイルを使った共同作業はファイルサーバー、チャットは Cisco Jabber、テレビ会議は Cisco WebEx、コミュニティは企業向け SNS を利用。
 チームによってはさらに異なるツールを使うケースも散見されたといいます。それをTeamsに統一したことで、利便性の向上はもちろん、コミュニケーションのスピードや量、密度を飛躍的に高めました。
 また、徳島県に拠点を置くタクシー配車サービスの電脳交通は、リモートで仕事をする上でのコミュニケーションの質やスピードに課題があり、Teamsを導入しました。
 交わしたコミュニケーションやwiki、さまざまな共有資料が一元管理でき、PCからもスマホからも利用できることがビジネスを加速させているといいます。
 Web制作会社のコンセントも、プロジェクト毎に関わる人が異なる状況で、SlackやSkypeを使い分けたり、相手によってはメールを使うこともDropboxを使うこともありました。
 さらに、エンジニアやデザイナー、ディレクターごとに使うツールが違って、過去のログが探せないといった混乱やトラブルが生じていたんだそうです。
 それをTeamsに集約したことでコミュニケーションミスと制作現場での混乱がなくなり、各プロジェクトが円滑に進むだけでなく、コミュニケーションが活性化したことでよりアイデアが出るようになったと聞いています。
──導入しない手はないように思いますが、Office 365を使いながらTeamsを使っていない企業はありますか?
 はい、それは残念ながらいます。使っていない理由は2つあって、1つはまずTeamsの存在を知らない企業。もう1つは、知っているけれど情報システム部門が使用を許可してくれない企業です。
 ただ、これまで話したように、分散から統合のメリットは多くの企業に共感いただいていますし、何よりOffice 365を購入すればTeamsは無料で利用できます。
 グローバルでのDAU(daily active user)が1200万人を超えるなど、ユーザー数は急増しているので、徐々に導入いただけるようになると思っています。

AIが働き方も資料づくりも変える

──「分散から統合」という利点とともに、Officeとの相性の良さもTeamsの優位性だと思います。
 その通りで、Office 365が働き方改革に寄与する面もあるんです。宣伝してもいいですか(笑)。お勧めは2つあって、1つがアナリティクス、分析機能です。
 これは、個人のパソコンの操作履歴を分析しAIが改善してくれる機能。毎週設定した曜日に、先週の働き方のレポートが届きます。「MyAnalytics」と呼ばれています。
 レポートには、どんな働き方をしたか、前週と比較してどう変化したかというレポートに加え「こういう働き方をしたほうがいいよ」というAIからのコーチングがあるんですね。
 たとえば、「最近Aさんと仕事をしていません。以前、Aさんと仕事をしていたとき西脇さんはこんなアウトプットを出しましたよ」と言われてハッと気づいたことがありました。
 たしかにAさんと仕事をしていたときは、仕事の効率がすごく良かったんです。
 ほかにも「西脇さんが夜中に送ったメールは翌朝9時頃にみんなが見ているから、夜中に送る必要はありません」といったアドバイスや「西脇さんがパソコンを触っていない静かな時間は1日8時間以上ありません。より快適に働くために2日休んでください。休むならこの日です」などと教えてくれるんです。
 また「西脇さんはこのミーティング中、7割の時間チャットをしています。このミーティングには参加しないでもいいのではないですか?」という指摘もあって、実際に出なくなったミーティングもあります。
 ミーティングは全部録音されているのでまったく問題がありませんでした。
 MyAnalyticsはAI が社長も含めて全従業員に均等に、働き方を変えてくれます。
 社長に「僕は、このミーティングに参加しないでいいと思います」と言いづらくても、AIが言うならやりやすいですよね。この機能は本当にオススメです。
 2つ目は、パワポに搭載されている「デザイン アイデア」です。
 資料をデザインする時間を大幅に削減してくれるズバ抜けた機能で、文字やイメージ、表などを入れて「デザイン アイデア」を選択するだけで、素敵なデザインのスライドを自動作成してくれるというもの。
 これまでは、デザインが苦手な方は見栄えのするスライドを作るために四苦八苦してきましたが、もうその必要はありません
 しかも、スライド内に書かれた文字情報、たとえば「自然環境」「工場」「提案書」といった言葉をAIが認識して、それぞれに適したデザインを提案してくれるんです。
 年号や日付が入っているスライドなら、時系列に並ぶデザインをしてくれます。
 AIを活用したこれらの機能を使うと何がいいかと言うと、信じられないくらい“ごっそり”無駄な時間がなくなること。
 資料作りに1日割いていたなら1日空きますし、不要な会議が発覚すれば、その1時間は違う仕事に充てられます。
 そして、ツールを使い分ける手間が省けるので、“チリツモ”で無駄な時間がなくなっていく
 本当に効率的な働き方に変えたいなら、無駄な時間を“ごっそり”減らす必要があって、Office 365を使うことで、それが実現するのです。
 だから、この事実に早く日本のあらゆる産業に気づいてほしい。マイクロソフトが実現させたいのは、大手企業がスマートに仕事をして、生産性を上げることです。
 個々に優れたツールで部分部分を最適化するのではなく、ワンプラットフォームで手間をなくし、生産性が1.2倍にでもなれば、それは日本の国力につながるはず。
 大手企業をはじめ、学校や中央省庁、農業など、あらゆる産業にOffice 365やTeamsを使ってもらうことで、日本全体を変えていけたら嬉しいです。
(取材・編集:木村剛士 構成:田村朋美 写真:北山宏一 デザイン:砂田優花)