英語学習のプロが感心、あのプログラミング教室の“継続できる仕組み”

2020/3/3
 テクノロジーやプログラミング知識が一部の専門職だけのものだった時代は、終わりを迎えた。営業やマーケティングなどすべてのビジネスパーソン、そして経営者にとっても、その理解は不可欠。情報感度の高い層ではテクノロジーにコンプレックスを抱き始める人も増えているが、行動に移すのはなかなか難しいものだ。

 今回、話をうかがうのは、経営者として多忙を極める中、年末年始の貴重な時間を投じて「テックキャンプ イナズマ」を受講した株式会社プログリット代表の岡田祥吾氏。

 プログラミングなど最新のテクノロジーを学ぶことの重要性と、その学びがどのように経営や組織に還元されているか。そして、同じ教育事業者としてイナズマのプログラムをどう見たか、本音を聞いた。

3度目の正直で挑んだプログラミング学習

岡田 実は、これまで2度のプログラミング挫折経験があります。
 1度目は大学1年時。進学先は工学部の電子情報工学科だったのですが、入学早々にプログラミング入門でつまずきました。「(周囲の学科に比べて)倍率が低いから」という下心で入学した僕に対し、周りは「高校時代からプログラミングでモノづくりしていた」というレベルの高い人ばかり。講義はC言語の“Hello World”から始まったのですが、劣等感も重なり、おもしろさがちっともわかりません。
 一生懸命コードを書いてやっと完成したプログラムに「こんなにがんばってこれだけ?」と落胆し、2カ月ほどで挫折を味わいます。
岡田 祥吾 株式会社プログリット 代表取締役社長
1991年生まれ。大阪大学工学部を卒業後、新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。日本企業の海外進出、海外企業の日本市場戦略立案等、数々のプロジェクトに従事。また、同社を退社後、株式会社プログリットを創業。3カ月で英語力を向上させる英語コーチング「プログリット(PROGRIT)」を展開している。創業3年半で受講者数は7,000名超。従来の英語教室のように「英語を教える」のではなく、英語を学ぶための効率的な学習法を提案。英語学習に必要な時間を作り出すためのコーチングを行っている。
 2度目は、英語コーチング事業であるプログリットを創業した2016年です。事業拡大のためにはテクノロジーでレバレッジすることが重要であり、自分もプログラミングを知っておくべきだという焦りがありました。
 そこで十数万円を投資し、2カ月間のオンライン講座を始めたのですが、緊急度の高い業務が入るとプログラミング学習の優先順位はすぐ低下。わからないことがあってもそのまま放置してしまい、数週間で心が離れました。
 それほどの苦手意識がありながら、3度目の正直でプログラミングへの挑戦を決めたのは、「2020年はプログリットをテクノロジーの会社に進化させる」という強い決意があったから。
 エンジニア採用を強化していく上でも、トップである自分自身がテクノロジーを理解していないことは大きなディスアドバンテージだと感じていました。

誰もがやり切れる「短期集中、合宿スタイル」

 プログラミングにまったく触れていなければ、エンジニアに任せる業務の難易度に正直、見当がつきません。プログリットでは、1年半前から本格的にテクノロジー活用を始動していたのですが、エンジニアとのコミュニケーションミスで、半年かけて作った2つのアプリをボツにした苦い経験もありました。
 自分がテクノロジーに疎いあまり、制作段階で「もっとこうしたらどうか」というディスカッションや的確な指示ができず、完成したものを見てジャッジするしかなかった。
 時間もコストもかけて作り込んだものに対して「イメージと全然違う」とリリースを断念せざるを得なくなったのです。
 もう同じようなミスは繰り返せない。自分の手を動かしてものを作るとはどういうことか、今、体験しなくていつするんだという強い思いで、「テックキャンプ イナズマ」への参加を決めました。
 イナズマを選んだ理由は、7日間という短期集中型の合宿スタイルだったから。プログラミング学習は私にとって、「重要ではあるが、業務上緊急ではない」もの。タイムリミットが明確な缶詰状態に自分を置かなければ、また挫折するのは目に見えていました。
 私が参加したのは、2019~2020年にかかる年末年始の「1日10時間×7日間」のコース。会社が完全オフのときこそ、自分の学習に時間を注ぐべきだと思っていたので、年末年始は絶好のタイミングです。
 そんな日程を設けている運営サイドの気合の入り方に驚きましたが、100名近い参加者がいたことはさらに驚きでした。

イナズマには「継続」のための要素が詰まっていた

 イナズマに参加して感心したのは、「人のモチベーションを上げる仕組みづくりが徹底されている」こと。
 これは、英語学習を事業とするプログリットで大切にしている「継続のための5か条」に通じるところがあります。
 1つ目が、意味のある「目標設定」。私にとっては「2020年はプログリットをテクノロジーの会社にする」という決意であり、チャレンジングなことを継続する上では、「心から信じられる目標を持つこと」が非常に重要になります。
 2つ目は「現状理解」。新しいことを学ぶとき、自分の実力を過信すると、難しいレベルから着手してしまうため挫折につながります。
 イナズマのプログラムは、非常に理解しやすいレベルからスタートするため、自分がどこまで理解できているかを冷静に判断できました。
 まったくできないという現実をすんなり受け入れ、「一から教えてください」と常駐するメンターにどんどん質問できる入り口が用意されているのです。
 自分が今、やっていることには価値があるという「納得度」も、継続する上で欠かせない要素です。
 イナズマコースの最初の3日間は心身ともにかなりきつく、先が見えないトンネルの中を、足元だけ照らして歩いているような感覚でした。4日目にようやくプロダクトの全体像が見えると「あのコードは、この機能のためにあったのか!」と、やってきたことが全部腑に落ちました。納得感を高めるプログラムづくりには感銘を受けました。

学習を“快楽”に変える、考え抜かれたプログラム

 4つ目の「成長実感」は、人のモチベーションを左右するもっとも重要な要素です。イナズマのプログラムでは、章が終わるたびに「自分で課題を解決できた!」という手ごたえが感じられました。
 1時間前にはできなかったことができるようになる、シンプルな喜びが1日に何回も繰り返される。一度出たドーパミンをまた欲するように、先へ先へとチャレンジしたくなる仕組みが徹底されているのです。
 知的活動には短期間で成長を感じる“快楽”が必要であり、7日間という短期集中型であることも重要な要素だと実感しました。
 そして最後に、「仲間がいる」こと。同じ教室に実際に通い、黙々と自らの課題に向き合う仲間がいるので、「やるしかない」「逃げられない」強制力があります。周りに少し目を向けると「あの方、メンターへの質問内容が明らかにレベルアップしてきた」などと刺激も受けられました。
 さらに私の場合、社員向けのブログで「テックキャンプ イナズマに参加します」と宣言していたため、途中であきらめたなんて絶対に言えない状況でした(笑)。
 イナズマの強さは、これらの「継続に必要な要素」がすべて盛り込まれているところにあるのでしょう。
 コースが始まる前には「継続するために大切なこと」というテキストを読む時間が設けられ、マインドセットのコントロールも徹底している。プログリットにも共通する原理を感じました。

成長のカギは「素直さ」

 プログラミングでも英語でも、継続学習を阻害する要因の一つに「我流」があります。
 新しい分野に挑戦するとき、「自分はこういう考えでやりたい」「このやり方が好き」という自己流のこだわりを捨てられるかどうかは、成長スピードを大きく左右します。
 テックキャンプ イナズマでは、「今までのやり方を忘れて、まずは当プログラムを信じて従ってください」と最初に伝えられます。7日間で終わるとわかっていれば、「とりあえずやってみるか」と腹をくくりやすい。
 「お金も時間もかけているのだから、なにはともあれ信じてやり切ろう」というマインドセットができれば、プログラムへの納得度が高まるため、習得の深度が変わります。
 我流をすっと捨てられる素直な人は、プログリットでも挫折率が明らかに低い。テックキャンプのマインドセット術は、ぜひ見習いたいと感じました。

やり切らせる仕組みにこそ価値がある

 情報にあふれた今、コンテンツそのものには、ほとんど価値がないと思っています。なにかを学ぼうと思った場合、少し検索すれば無料の教材がすぐ手に入るのに、なぜわざわざ時間とお金をかけて学びに行くのか。
 それは、コンテンツの届け方、モチベーションを上げてやり切らせる仕組みそのものに、お金を払っているからです。
 みんなが集まる箱と、机と椅子と、質問ができる環境を整える、テックキャンプが提供しているのは、いわば「寺子屋」スタイル。テクノロジーがどんなに進んでも、このアナログなやり方に回帰するのは、人間には「自分一人ではがんばれない」という弱さがあるからです。
 もしイナズマが1年かけてゆっくりと学ぶオンライン講座だったら、私は70時間のプログラムを終えられた自信はありません。
 加えて、1週間と1年間では、学習を終えて「新しい自分」になれたあとに過ごせる時間の長さがまったく違う。短期間で集中的に学ぶ環境が、貴重な“時間”をセーブして、「プログラミングを学んだ自分」という次のステップへ最短で向かわせてくれた。
 継続が難しい教育系コンテンツこそ、人の弱さを前提とした「場をプロデュースする」ことに価値があるのだと思います。

エンジニアへのリスペクトが事業成長を支えていく

 イナズマに参加した最大の収穫は、エンジニアの方々へのリスペクトがさらに強まったこと。普段彼らがどれほど難しいことをやっているのか、自分で触れたからこそすごさがわかった。コミュニケーションの心構えはまったく変わりました。
 その実感の一つとして、エンジニアの採用面接がぐっと楽しくなりました。技術的に難しいことは理解できなくても、「エンジニアの世界の入り口に触れた」という経験が、無意識に生まれていた心の障壁を取っ払ってくれた。「仲間」という感覚を持って向き合える。
 僕のプログラミングレベルは100のうちの1程度でしょう。それでも、ゼロと1は全然違う。今後、社内にエンジニアが増えていっても、彼らとのコミュニケーションが確実に変わっただろうと感じています。
 今後、社会はますます分業化が進み、プログリットでもテクノロジー領域はCTOに任せていくことになるでしょう。CEOがプログラミングを知らなくても、業務上、具体的な弊害が生まれることもないかもしれません。
 でも、これからの社会で、エンジニアがいない会社はほぼなくなります。個の時代にわざわざ組織で働く意味は、一人では出せないインパクトを生み出せることにある。
 同じ組織に所属するチームになる以上、チームメンバーへのリスペクトがあるかどうか、相手を理解し、尊重し、仲間だと思えるかどうかが、事業拡大には欠かせない要素になると確信しています。
(構成:田中瑠子 編集:樫本倫子 写真:竹井俊晴 デザイン:松嶋こよみ )