【監督力】超一流がチームを率いる時代をどう見るか?

2020/3/5
中村憲剛氏と岩政大樹氏による「サッカー界のトレンド2020」シリーズ第3回。ここまで語られてきた「監督力」について、森保ジャパン、現在のJリーグや欧州の流れからさらに深掘りしていく。

「玄関」から入ってきた世界の監督

──監督力を中心にすると、これも話しづらいかもしれませんが、1のテーマ「日本代表」において「森保ジャパン」が苦境に立たされています。
中村 もちろん、結果が出ていなければ言われることはありますよね。
岩政 今の流れでいけば大変かな、とは感じているんです、僕は。
 サッカーって見ていれば、監督がある程度「提示」しているチームは「ちゃんとしている」し、していないチームは「ふわふわしている」じゃないですか。
中村 うん、うん。
岩政 それでいうと、今の代表は「ふわふわ」している。そろそろ見えてこないと危ないんじゃないかって外からは思うんですけど、時間的にはどう見ていますか。
中村 俺は、さっきの西野さんじゃないけど……(第2回参照)
中村憲剛と岩政大樹が分析、戦術・外国人監督と日本サッカー
岩政 ギリギリでいい。
中村 ギリギリでもいいというか……。ギリギリでもなんとかできる力はあるかなと。
岩政 (提示したものが)描けていればいい。
中村 に、尽きるんじゃないかな。森保さんがどう考えているか、その情報は全くないから俺にはわからないけど、例えば今は、選手を選定して、競争させて、負荷を与えた状況の中で選手の臨機応変さを見ているのかもしれない。誰かその局面を打開するのか……とかね。
岩政 うん、うん。
中村 E-1とかアジア選手権とかを見ていると、それを見ているのかなとは思うけど。
岩政 代表は長い期間一緒に練習できるわけじゃないから、より「これだけはこうしよう」っていうのを提示してあげたほうがいいと思うし、そろそろそれが見えないといけないんじゃないかな、と思うんですけどね。
中村 選んでいる選手も多いから、そっちの方が選手たちもやりやすいだろうけど。もう一度、断っておくけど、俺はわからないよ、森保さんが実際にどうしているかは全く情報がないから(笑)。
岩政 監督の存在は大きいですよ。鹿島もかつてはスタイルとかサッカーの形にある意味あまりこだわらず、最終的に勝てばいいっていうものを追求してきた。そこには、選手たちが局面を打開して、頭を使ってっていう個人の能力で勝ってきた一面があったと思う。
 でも、ヨーロッパのサッカーが10年前にガラッと変わったように、日本でも、フロンターレがその例になるんですけど、スタイルがあってその上に鹿島的な勝つための個人の能力みたいなものを植え付けられてきた。そこでマリノスもこういう形で勝ってきた。
 日本のサッカー界も変わってくるんじゃないかなって思うんですよ。
中村 そのことは去年の1年、すごく感じた。外からの空気というのをね。
岩政 そういう時代に入ってきたんでしょうね。
中村 そうだね。これまでもヨーロッパから来た監督がいたけど毎回そのチームが優勝したわけではないよね。でもここにきて、マリノスがJリーグを勝って、フィンク監督が率いるヴィッセル神戸が天皇杯を取った。そのクラブが港町の神戸と横浜の2チームというのがお洒落だなと。世界の潮流が、日本の港町を経由してやって来ていると。
岩政 お洒落! そこまでは考えていませんでした(笑)。
中村 異国の文化を取り入れる。日本の玄関口は、いまも港町なんだと(笑)。
 まあ、それはいいとして、ゼロックス・スーパーカップがこの両チームのカードというのは、現代サッカーの流れを汲んだものなのかなと。だからこそ、ライバルの立場としてはすごく悔しいんだけどね。
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ジダンが率いれば勝つ、は偶然ではない

──ますます「監督力」は今年のトレンドですね。
中村 と思います。ここ数年、僕自身、いろんな取材で世界のサッカーについて話をするたび、いつも「監督力」という言葉を出している。それだけ必要性が高まっているし、かつて名選手だった人たちが監督になっている。たとえば、(ディエゴ・)シメオネとか(ジネディーヌ・)ジダンとか。
岩政 再三話してきたペップ(グアルディオラ)だってそうですしね。クロップもプロとしてやってきて、その感覚に理論が入ってくるともう最強だな、と思いますよね。
中村 そうそう。(マッシミリアーノ・)アッレグリといった名選手ではなかった監督もいるけどさ、(ジョゼ・)モウリーニョは以前ほど名前が上がってこないじゃない? かつては、ペップとモウリーニョの2強時代があった。
──監督力の定義が戦術的な部分だけではなくなってくる。
中村 うん。より監督(自身)にスポットライトが当たってくる。
──クロップはその象徴になり得ますか。
中村 いまは時間の流れが早すぎるから、例えば「10年」なんて無理じゃないかなと思います。Jリーグだって、去年流れが変わって、フロンターレが2連覇したときとはまた流れが違っている。世界はもっと早いだろうから。そう思う反面、意外とヨーロッパの監督は同じ顔ぶれのままかもしれない。
岩政 新しい戦術も出てくるかもしれないけど、サッカー自体がかなり整理されてきていますよね?
中村 だいぶ整理されてきている。
岩政 切り替えの早さとかインテンシティとか、みんなが同じことを言ってきている。この状況でなにをするのかといった戦略とか、90分間のマネジメントとか、あとは声がけもそうかな。そういうところになってきますよね。
中村 ほんと、最初の話になるけど、ディティールの問題になっている。細かな部分が勝敗を分ける。それをちゃんと監督が準備できるかどうか。
 声がけの部分も、監督力のひとつだと思う。扱いにくい選手をうまく扱えられているチームは上に来ている。率いる側も超一流の時代になっていて、だからジダンが率いればレアルが勝てるのも、なんとなく分かる。
岩政 とくにレアルには超一流の選手が集まりますからね。
中村 ジダン以外、いろんな監督がやってきたけど勝てなかった。監督の実績・年数から言えば、彼らのほうが上なんだろうけど、レアルではその実績・年数が通用しない。選手たちがなかなか言うことを聞いてくれない。でも、ジダンが来て言われたら?
岩政 そうなりますね(笑)。
中村 説得力がある。なぜかって?
岩政 ジダンだから(笑)。
中村 でしょ?(笑)。ジダンが率いれば勝つのは、意外と偶然ではないと思う。説得力の問題。
岩政 やっぱりレアルだからこそ、ですよね?
中村 ジダンが他のクラブに行ったら、どうなるかはわからないけど。いずれにしても、ヨーロッパがそうであるように、これから日本でも、監督の存在がよりクローズアップされるはず。監督がピッチ上で選手になにをさせているのか。監督を見ると面白いと思う。
岩政 そこは、僕も解説するときに気をつけています。もちろん選手のことも話しますが、まず監督はなにを選手にやらせようとしているのか。選手の判断だけでうまくいくことはなかなかありえない。
中村 俺も年に1回くらいですけどヨーロッパの試合を解説をするときには、まず監督の狙いを見たい、と話している。なぜなら、そのチームを勝たせるのが監督の仕事だから。
 監督より選手が超越していたらいけない。超越した存在はメッシくらいでしょう(笑)。中3日か中4日で狙いをもって、対戦相手にどう勝つのか。その狙いが最初の5分で見えるときもあるしね。
岩政 狙いのあるチームは見えるんですけど、ないチームは見えてこない。
中村 監督の色の強いチームの解説をしているときは本当に面白い。
岩政 いまだったら?
中村 リバプールもそうだし、(マンチェスター・)シティもそうだし。

選手でも解説者でも、学び続けること

──ちょっと話がズレますが、そのリバプールに移籍した南野拓実選手はどうみますか。
中村 ザルツブルクにいたとき、CLでリバプールと戦った印象がすごく良かった。それが移籍するときの大きな決め手になったかなと。
岩政 頑張ってほしいですよ。でも、リバプールで活躍するのってそんなに容易ではない。
中村 ある程度、形も人も決まっているなかで、しかもシーズン途中から入ってきた。それは誰がやっても大変だと思う。冬の移籍でフィットする選手はそう多くないから。
 しかも、緊急事態で入ってきたわけではない。ある程度チームがうまく運んでいるなかで、このあとの過密日程をにらんで取ってきた。徐々に慣らしながらっていうのが、クロップのなかではあると思う。
岩政 リーグ戦、CL、カップ戦すべてにチャンスがあります。
中村 “立ち位置”もまだ決まっていないからね。ウルブス戦を見たけど、彼が入って4-2-3-1になって、それからファビーニョを入れて4-3-3に変わって、そこでちょっと落ち着いたんだけどね。
岩政 たしかに、まだどのポジションで使われるか定まっていません。
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中村 リバプールでなくても、どこのチームに行ってもフィットしなければ使われないのは当たり前の世界。ただハードルは高い。
 でも、周りの選手はいい選手ばかりだから、歯車さえカチッと噛み合えば、スムーズに回ってくるじゃないかな。みんな状況判断を変えられる選手ばかりだから。もちろん、簡単ではないだろうけどね。
岩政 すぐには結果は出ないと思うけど、どこでフィットするかですね。
中村 リバプールの4-3-3のなかで、クロップが南野をどこで考えているか。4-4-2がベースだけど、4-3-2-1をやり始めたのは、その布石なのかもしれない。
岩政 あとは周りの選手の信頼感を得られるか。
中村 まあ、こんなことを言っても結局、海外でやってないからわからないよね、俺らは(笑)。
岩政 本当に。彼らの方が数段色々な経験をしているから、将来こんな話をしていたら「老害」って言われているかもしれない(笑)。
中村 はははは。
岩政 でもこうやってサッカー界を俯瞰していくと、選手に近い見方が主流ですよね? 監督の提示しているものがあって、選手がこう判断してプレーしているとか。逆に、監督の提示がないから、選手が迷っているんじゃないかとか。もっとピッチレベルに近づいてくる。
中村 そうだね。そういうのって、解説をたくさんやれば、分かることがたくさんある。1回やれば分かるけど、より追うと、細かな変化に気づく。選手でも解説者でも、サッカーを勉強することは大事だと思う。
 解説者とは、解いて説く人。だから、いつも僕が解説しているときは、そこにチャレンジしないといけないと思っている。多少解説する時間が長くなったとしても、それで楽しくサッカーを見てもらうのが仕事だから。
岩政 おっしゃる通りですね。
中村 本当に日々勉強だと思う。これは最低限しなきゃいけない。そこにプラスアルファがどれだけ出せるかだと思う。選手も監督も解説者も。
 マサ、やっぱり一回、外に行ってきたら?
岩政 はははは、考えたこともあるんですけどね(笑)。
中村 俺も一回、行きたいなあ。
岩政 まずは早く治して、ピッチで頑張ってください。
中村 ありがとうございます。
(聞き手・編集:黒田俊 執筆:小須田泰二 撮影:花井智子 デザイン:九喜洋介 バナー写真:GettyImages)