[マドリード/ソウル 5日 ロイター] - 新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大は、航空業界に旅客輸送だけでなく貨物輸送にも深刻な影を落としている。低迷に陥っていた航空貨物市場は、追い討ちをかけるような新型肺炎で大混乱に陥っているとエコノミストは警鐘を鳴らす。

国際航空運送協会(IATA)は5日、新型コロナウイルスを巡る危機により、金融危機以来で最悪の状況となっていた航空貨物市場が持ち直すとの期待が打ち砕かれたとの見解を表明。「われわれは新型コロナウイルスが世界経済に及ぼす最終的な影響に関して暗中模索の局面にあり、移動などのさまざまな制限が実施されていることから、経済成長の足を引っ張るのは間違いないだろう」と述べた。

航空貨物の取扱量減少は、世界の貿易や企業活動の落ち込みをいち早く警告する指標とされている。

航空各社による中国旅客便の相次ぐ運休で、「ベリー便」と呼ばれる旅客機の貨物室を使った輸送量が減っている上に、ルフトハンザ航空<LHAG.DE>などが乗務員の健康と需要の不透明感を理由に貨物専用便も減らしている。

韓国の現代自動車<005380.KS>は、中国からの部品輸入が途絶えたため、生産を休止せざるを得なくなった。

バーンスタインのアナリスト、ダニエル・ロエスカ氏は、目下「多くのサプライチェーンが実質的に止まっているので、運ぶモノがない。人々も自宅待機を命じられているとすれば、工場の操業を続けるのは困難だ」と指摘した。

OAG提供の航空輸送データに基づくと、今週は中国発着のフライトが2週間前よりも2万5000便少なくなり、30の航空会社が運休しているという。

<企業にのしかかる輸送コスト>

中国から飛行機で製品を運び出そうとしている企業は、運賃の高騰という問題にも直面している。ある上海の電子商取引コンサルタントはロイターに、航空貨物運賃が5倍に跳ね上がったことで一部の顧客が出荷を延期したと語った。

S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスの子会社パンジバによると、ベリー便の輸送能力低下によって航空貨物運賃のボラティリティが高まっている事態を、利用業者は警戒している。

通常であれば航空輸送全体のほぼ半分をベリー便が担っているので、中国の場合、旅客便運休のために貨物専用便に依存する度合いが強まっている。

一方で主要航空会社は、中国向けベリー便の輸送能力低下について貨物便を増やして対応する計画は当面持っていない。大韓航空と全日本空輸は、マスクなど医療用品の中国向け輸出需要が増加しているものの、ロブスターやサーモンなど生鮮食品の需要減で今のところ相殺できていると説明した。

ただ今後生産や航空貨物需要がいざ上向いた際には、航空貨物市場は現在の輸送力過剰から輸送力不足に直面し、顧客や経済全般に悪影響を及ぼす恐れもある。