[松山市 5日 ロイター] - 日銀の若田部昌澄副総裁は松山市で開いた金融経済懇談会であいさつし、新型コロナウイルスの感染拡大など世界経済の下振れリスクを注視する必要性を強調した。リスクを注意深く点検し、物価安定のモメンタムが損なわれる恐れが高まれば躊躇(ちゅうちょ)なく追加緩和を打ち出す方針を改めて示した。 

若田部副総裁は、消費税率引き上げや自然災害で2019年10―12月期の日本経済は「いったん大きく減速したとみられる」と指摘。ただ、景気減速は一時的で、基調としては緩やかに拡大しているとの見方を示した。政府の経済対策を踏まえ「機動的に財政政策が運営されることは、金融緩和と財政刺激の相乗作用を高め、景気刺激効果をより強力なものにする」と述べた。

もっとも、「(経済・物価の中心的見通しの)下振れリスクに注視が必要な点を強調したい」とも述べた。リスクの1点目に海外経済動向を挙げ、米中貿易交渉でなお多くの根深い対立点が残っていること、中東情勢を巡る地政学リスク、新型ウイルス感染症の拡大を不透明要因として列挙した。

また、「消費税の影響を巡る不確実性はなお大きく、先行きの景気をみる上での一つのリスク」と、2つ目のリスク要因に消費増税の家計への影響を挙げた。各種支援策や雇用者所得の伸びで実質所得は下支えされるものの、「現時点では家計の支出スタンスを見極めるのは時期尚早。今後のデータを注意深く確認していきたい」と述べた。

1月に公表した日銀の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」は21年度にかけて物価上昇率が徐々に高まっていく姿を示したが、若田部副総裁は「経済の下振れリスクが顕在化し、物価にも波及するリスクを意識しておく必要がある」とし、今後も2%の物価目標に向けて物価上昇率が高まっていくメカニズムが維持されているか確認していく方針と語った。

欧米で関心が高まっている「日本化」の議論も取り上げた。「日本化」は、日本が1990年代以降に経験した低成長、低インフレ、低金利の長期化を念頭に置いた議論。

先進5カ国の名目国内総生産(GDP)と実質GDPの推移を示し、名目GDPでは日本は明らかに他国に見劣りするものの、実質GDPでは「低位にはあるが、名目値ほど低いわけではない」と指摘。「重要なのは、人々は名目値により実感を覚えるということだ」と述べた。

また、経済成長に向けて供給側に働きかける成長政策も大事だが「名目値を安定させる需要側の金融・財政政策が経済成長の維持にとっても重要だ」と語った。

(和田崇彦 編集:田中志保)