【学生座談会】生き方を狭める“固定観念”に気づいた瞬間

2020/2/7

就活で突然現れる“社会の壁”

──本日は『就活×生き方』というテーマで議論していきます。まず、みなさんの就活について教えてください。
古平 今でこそ、内定をいただいて納得して就活を終えられましたけど、学部の3年生になって就活をスタートするときを思い返すと、もう不安しかなかったです。
 それまでの人生では、いつも目の前に「やりたいこと、楽しいこと」が常にあって、全力でぶつかっていけば道が開けていきました。高校生のときは部活でサッカーに夢中になっていたし、大学生1〜2年のときは友達と遊ぶことで充実していたんです。
 でも、3年になってそろそろ就活を……というときに初めて「(社会に出て)やりたいこと」がわからない自分に気がついて。目の前が霧に覆われた感覚になって、「楽しいことだけじゃダメなんだ」と。
 「好きなことを仕事にする」と考えてもイメージがわかないし、そもそも自分にどんな選択肢があるのかもわからない。自分の可能性を、知るのも怖いし、調べることすらしたくないと思ってました。
 そんな状態で社会に出ることが、ただただ不安で。だから僕の場合、とにかく学生時代を延長したくて、大学院に進んだんです。完全に時間稼ぎでした。
 この4人のなかでは僕が唯一、現役の就活生で、いまやっぱり不安です。特に最近まで、就活を前にしながら準備もしていない自分に対して、すごく「怖いな」と思っていて。
 大学ではアルバイトやサークル活動を熱心にやっていたけど、「社会人になった時に役立つようなスキルを身に付けた」みたいな、一歩先に行ってる感覚はなかった。
 それで、とにかく「就活で失敗したくない」という思いで、3カ月前からワンキャリアで長期インターンを始めました。
──不安だから行動した。長期インターンをする学生も増えていますよね。
山口 私の場合、新卒採用に関わりたくて企業を探していて、その中でワンキャリアでインターンをする形になって、2年くらい続けさせてもらっています。
 いまは主に採用人事と編集業務を担当していて、自分自身が感じていた「就活の不透明さ」をなくしたいと思って、記事を書いたりしています。
 例えば、総合商社の人事の方に「商社の実態」についてインタビューしたり、人気企業の「新卒の選考方法」を記事にしたり、結構“攻めた記事”を書いてるんです。
 自分も就活をやっていて、「不透明さ」のようなものを感じます。企業と学生の「情報の乖離」というか、大学生活と社会の乖離があると思うんです。学生は企業や社会のことを知らない。ルールを知らない。
 ただ、学生自身も「自分から情報を取りに行く」という意識が少ないし、そもそもを辿れば、やっぱり目標を持てていない人が多いことも原因かなと思います。働くことにリアリティがないから、キャリア観も漠然としている。
古平 僕は、実は今でもワンキャリアを使い続けていて、でも以前とは使い方が変わってきました。就活中は主に企業情報やハウツー記事を読んでいたけど、今はコラムをよく読んでいるんです。
 それによってキャリア観も醸成されるし、社会に出た後の自分のバリューについて考える機会が増えました。正直、就活生の頃からもっと読んでおけばよかったなと思ってます。
 ただ、やっぱり最初は「(漠然と)いい企業に入りたい」というゴールに対して、わかりやすい“答え”がありそうな情報に飛びついちゃってました。
山口 そうですね。ワンキャリアでPV数が伸びるのもやっぱりハウツー系の情報記事が多いです。それはそれで大事なことですが、一方で、将来についてじっくり考えるような記事も読んでほしいという思いもあって。
──現役就活生の周さんはどうですか?
 正直コラムはあまり読まないですね。基本的にはESや面接の選考対策だったり体験談を読んでいます。
山本 私も就活中だった頃、体験談を読んで「うっ」となった記憶があります(笑)。当時はすごく焦っていたし、自分を他人と比較して苦しくなる感覚は忘れられないです。
 そういう情報に触れるたびに焦りが増していって、プレッシャーで面接に落ちて、さらに絶望的な気持ちになって……。
 でも、何十社にも落とされ続けるなかで、だんだん「自分って本当は何がしたいんだろう?」って本気で考えるようになったんです。そこから行動が変わっていきました。
──作り手には、「就活」という人生の大きな転換点にいる読者にこそ、多角的な情報を提供したいという思いがあるんですね。
 そうですね。でも、ほとんどの就活生はハウツー系の記事を中心に読むと思います。
 本来なら、「将来こうありたい生き方」から逆算して就活し、内定を得る形が理想だけど、「まず内定をゲットしてから将来を考える」というのが現状の就活ですよね。
古平 確かに、「こうありたい将来」や「生き方」を先に考えてから「働き方」を決める方がいいとは思うけど、実際は難しいですよね。
 いまの学生って、大学生活をそれぞれに満喫していたら、いざ就活のタイミングで、いきなり「社会」のリアリティを目の前に突きつけられる感じだと思うんですよ。
 本当にそう。急に現実を突きつけられる感覚は全員あると思います。僕は将来の目標が強固にあるけど、それでも孤立や不安を感じることもある。「本当にこの道でいいのか?」とか、この目標が変わった時に自分はどうなるんだろうとか。
山本 就活中に「目標がある」って自信をもって言えるのはホントすごいと思う。どんな目標なんですか?
 僕は中国にルーツがあるんですけど、目標は「日本と中国の生活者がお互いの国の存在を日々の暮らしで実感できるように、経済面で相互依存の関係が強まることに貢献する」なんです。
 『HOPE by NewsPicks』を読んだんですけど、「自分で生き方を決めた人」がたくさん出てきて面白かったですね。生き方は人それぞれにあって、目標が決まっていたとしても、その中で不安や葛藤がある。
 そんな人たちのリアルな生き方に触れられて、自信をつけられたり学ぶことができるメディアだなと思いました。「この生き方でいいんだよ」と、人と違うことも肯定してくれて、背中を押してもらった感覚です。
山本 すごいなぁ。私は生き方とか、確固たる目標みたいなものが本当になくて...、就活をしているあいだ、ずっと焦りを感じていました。それこそ希望の反対で、絶望することばかり。
古平 僕も、就活をはじめた最初の頃は社会に出ることへのネガティブイメージがすごくて、やりたいこともなかった方です。大学院に入るまでは、「学生時代が人生のピーク」で、そこから退屈な人生に変わっていくと思っていました。
 それが変わったのは、就活を通じて「この人はカッコいい! と思える社会人」に出会ったことがきっかけでした。
 強い意思と情熱を持って仕事をしていて、その喜びを周りに語っていて、こんな輝いている人がいるんだと。仕事をするってカッコいいことなんだと思えた。そういう人と何人か出会えたんですが、ベンチャーで働いている人が多かったんです。
 それまでは、いわゆる商社とか広告代理店のような、世間的に「すごい」と言われそうな企業に行きたかったんだけど、僕が出会ってカッコいいと思った大人たちは、世間の評価で生き方・働き方を選んでいなかった。自分の意志で選んでいたんです。
山口 意思を持つことって、就活においてすごく大事だと思います。私も就活中は、周りの目をすごい気にしていました。そんな中、大学3年の秋にある企業から内定をもらえました。
 でも、内定から今までの1年2ヶ月で、やりたいことも変わってきて。その中で「本当にここでいいの?」という思いが生まれたんです。「もう決めたことだし」「入社したら、やりたいことも変わるかもしれないし」と考えてみるんですけど、もうずっと不安でした。

私たちは何に囚われ、何を信じているか

──大きな意思決定に直面すると、自分の選択が正しいのか不安になりますよね。
山口 そんなとき、今の自分がやりたいことを実現できそうな会社から声を掛けてもらえたんです。話をもらったとき、すぐに入社の意思が決まりました。
 自分でもびっくりしています。最初の内定先と比べると、知名度や規模、福利厚生も劣るのに、「それでも挑戦したい。この人たちと一緒に働きたい」という気持ちが強かったんです。内定をくださった会社の人には本当にご迷惑をお掛けして、申し訳ない気持ちです。
 この決断にはきっと賛否があると思うんですが、最後は自分の意思決定を"正解にする"しかないと思っています。
古平 僕も就活を通じた出会いがなかったら、当然のように大手企業に入っていたと思います。
山口 やっぱり大手信仰は強いですよね。アルバイトで塾講師をやっていた時に思ったんですけど、高校生がみんな必死に大学受験を頑張っているのって、その学生自身というより親の力が働いている気がして。
 就活でも同じで、大企業の引力は親世代の過去の成功体験が強く影響していると思うんです。そのまま子供に伝わっていくから、良くも悪くも固定観念が崩れない。
山本 確かに親の影響は大きいです。私の場合ちょっと話が変わるんですけど、母親が今年になって、急に大学院に進学したんですよ。「大学生楽しそう、うらやましい」って言って(笑)。
 それまで、母はずっと大手教育会社で働いていたんですが、そのキャリアを捨てて私と同じ2020卒になって、スゴイな、カッコいいなと思ったんです。
 その影響もあって、私も「自分の生き方は自分で決めたい」と思い始めました。働く地域も仕事も働き方も自分でデザインしたいと思うようになった。やっぱり親の影響って大きいと思います。
古平 就活中って、「将来の目標=キャリアイメージ」をしっかり決めなくちゃいけないっていう感じが強いですよね。しかも、短期間で決めなくちゃいけない。卒業年度の6月まで内定がないなんて不安すぎるから。
 だから、焦って「人生の目標」とか「第一志望」とかいろいろ必死に考えるけど、決めてからも迷うし、内定とって一安心するまで、この焦燥感だったり就活しなきゃいけないっていう固定観念は消えない気がするんです。
──「内定を取る」ことの呪縛みたいなものがあるんですね。
古平 いまになって思うのは、絶対にレールを外れちゃいけないし、ここで失敗したら人生終わるって思い込んでいたんです。
 本当は目標だって変わってもいいし、そもそも「就活」に囚われなくても良いんですよね。生き方の選択肢って自由なんだなって、インターンを通じて出会った“カッコいい大人“たちから学びました。
 だけど実際問題、就活中はこういった考え方はできなかった。内定をもらって気持ちに余裕ができてから、ようやく肩の荷が下りて、将来を自由に考えられるようになったんです。
 結果的に、最初に内定を頂いた企業ではなく、別のベンチャーに入社することを決めたんですが、それも「内定の呪縛」が解けたことが大きかったかなと思います。
 実は、自分もある意味では、昔から決めていた「人生の目標」に縛られている感覚があるんです。だから「目標を追い続けていたけどやめた、変えた人」に会いたいと思っているんです。
 掲げた目標が変わったり成し遂げられなかったときに、自分はどうなってしまうのかを知りたいです。
──目標を達成しなければ不幸になる、のような感覚もあるんでしょうか。
 少なからずあります。就活で失敗したら全部終わってしまう気さえする。だから、そうじゃないっていう人の経験談や、キャリアをもっと知りたいですね。著名人の挫折経験とか見れるといいなと思います。
山本 自分の将来を本気で考える=就活を頑張る、だけじゃないっていう視点を、もっと多くの学生に知ってほしいですよね。社会に出るためのルートはひとつじゃないし、生き方もひとつじゃない。
山口 この連載の続きで、そういう視点を提示したいですね!
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(編集:呉琢磨、構成:日野空斗、撮影:保田敬介、デザイン:岩城ユリエ)