「魅力度」「爆発力」No.1スタートアップの称号を手にするのは?
ENTX(エンタエックス) | NewsPicks Brand Design
2020/1/20
「新しいものをつくろうとしたら、新しいフィーリングに触れなければならない」
ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下SME)が手がけるアクセラレーションプログラム「ENTX(エンタエックス)」にスペシャルメンターとして参加したASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文氏が、若手起業家を前に自らの創作プロセスについて語った言葉だ。
後藤氏の言葉と同じく、SMEと起業家が互いに「新しいフィーリング」に出会い、ビジネスを創造する場として生まれた「ENTX」。その2期目が、2019年12月にフィナーレを迎えた。
栄冠を手にするのはどの企業か?
昨年を上回る総勢131社のスタートアップからの応募が寄せられた「ENTX2019」の採択企業となったのは、エンタテインメントに限らない、さまざまな事業領域の5社だ。
選ばれた5社には、エンタテインメントを知りつくしたSME社員と、起業家や各分野のスペシャリストといった社外メンターが参加し、1つのチームを結成。濃密なメンタリングを重ね、事業成長に取り組んだ。
そして、ついに2019年12月18日。参加スタートアップが3カ月の集大成を発表する「ENTX2019 DemoDay」において、5社の中から「最優秀賞」が決定する。
栄冠を手にするのはどのスタートアップか? 熱狂に包まれた「ENTX2019 DemoDay」の様子をリポートする。
「成功のオーラ」をまとうアイデアと出会いたい
「ENTX2019 DemoDay」当日。開会に先駆けてSME代表取締役の村松俊亮氏は、「スタートアップのみなさんの斬新な発想に驚きたい。成功のオーラをまとったアイデアが飛び出すことを楽しみにしている」と語った。
続いて、ENTX事務局の古澤純氏からは、SMEがENTXを開催する意図について次のように語られた。
「SMEではエンタテインメントを再定義して、新しい価値を提供していきたいと考えています。その1つの取り組みがENTXです。
スタートアップのみなさんが事業を成長させる中でぶつかる課題の解決に、我々SMEのエンタテインメントの力を役立ててほしいと思います」(古澤氏)
審査基準は「魅力度」×「爆発力」
「ENTX2019 DemoDay」の審査基準には、SMEならではの視点が盛り込まれている。
まずは「魅力度」。事業の新規性、市場の魅力度、実現可能性などが含まれる。もう1つは「爆発力」。課題の深さやインパクト、SMEとの相性、プログラム中の成長度、経営者のカリスマ性などを総合的に判断して、評価されるのだ。
期間中にもっとも成長した企業には「ベストグロース賞」(賞金50万円)、もっとも優れた成果を上げた企業には「最優秀賞」(賞金100万円)が贈られる。
この日、各スタートアップはSMEの社内メンターとともに、趣向を凝らしたピッチを展開。3カ月の成果を発表した。
イベントビジネスをアップデートする「ダイニー」
モバイルオーダーのプラットフォーム「ダイニー」。これまでは飲食店向けに展開し、急成長してきたサービスだが、ライブやスポーツイベントの行列解消にも役立てられると考えてENTXに応募したという。
ENTX期間中には、Bリーグの川崎ブレイブサンダースの協力を得て、試合会場で実証実験を行った。会場の客席にあるQRコードを読み取るとフードやグッズの購入ができ、注文した商品は席まで運んできてもらえる。これによって観客は席を離れる必要がなくなるため、導入企業は販売促進を見込むことができる。
今回の実証実験では、1回以上の注文率が約8割、2回以上の注文率が約3割という、サービスの可能性を感じさせる結果が得られた。
これに対して代表の山田真央氏は、
「参入障壁の高さとビジネスの特殊さからブルーオーシャンとなっているエンタメ業界ですが、SMEさんの主催するENTXのおかげでより解像度の高い課題感や未来を理解することができました。
エンタメビジネスの現場に足を運ばせていただいたり、最前線で活躍している方々からお話を聞けたり、とても有意義なプログラムでした。ありがとうございました」
と話した。
今後は、ファンクラブのIDなどと連動させて、イベントに参加するユーザー行動を継続的に追跡することで、新たな価値創出を目指していくという。
定額制フィットネス音声ガイドアプリ「BeatFit」
「フィットネスのサブスク化」を掲げる「BeatFit」は、プロのトレーナーによるガイドと楽曲を組み合わせた定額制フィットネス音声ガイドアプリだ。
ランニング、格闘技エクササイズ、ヨガ、マインドフルネスなどの多種多様なジャンルで500以上のコンテンツを配信。会員は月額980円で、いつでも専任のトレーナーの音声ガイドを聞きながら体を動かすことができる。2018年9月のサービスリリースから1年あまりで会員数は1万人を突破した。
今回のENTXでは、新たに邦楽を利用したコンテンツの制作や声優とのコラボレーションに挑戦。アニメやゲームとのタイアップも視野に入れており、SMEとの協業によってさらなる成長が期待されている。
今後は「BeatFit」でファンが多いトレーナーをインフルエンサー化し、彼らのエージェント事業を進めていくほか、フィットネス大国・韓国への進出も狙っているという。
代表の本田雄一氏は、「サービス立ち上げ時は大手レーベルから門前払いをされました。しかし、ENTXに参加できたことでSMEさんと協業することができました。『BeatFit』はSMEグループとの相性がいいと思うので、今後もいろいろな取り組みをしていきたい」と語った。
引継ぎをゼロにする、情報の一元管理ツール「AsetZ」
「ビジネス環境を引き継ぎから解放する」というコンセプトのもとに開発された、情報の一元管理ツール「AsetZ」。
同社は設立半年、プロダクトがまだ出来上がっていない状態でENTXに参加した。彼らが着目したのは、SMEの社員の「メールでやりとりしたファイルを探すのが面倒」という悩みだった。メールでのやりとりが多いエンタメ業界の課題を解決すべく、SME社員100人にヒアリング。
1カ月に平均5471通のメールをしているというSME社員のメール内検索の手間を解消する。そのためにメール内のすべての添付ファイルや共有リンクを自動で一括管理するソリューションを開発した。将来的にファイルが整理されていることで、業務の引き継ぎがしやすい環境を作っていきたいという。
現在は「AsetZ」のβ版が公開されており、2020年春の正式リリースを予定している。
ENTXを振り返って、代表の村上智也氏は次のように語った。
「僕らはエンタテインメントからは遠い存在。しかし、ENTXに挑戦し、エンタテインメント業界の裏側には取り組むべき課題が多いと感じました。
会社設立から半年足らず。自分たちでアイデアを積み上げてきたものの、プログラムの最初でメンターのみなさんに壊してもらい、そこから1つのチームとして成長してきました。メンターの方々には本当にお世話になりました」
男性のためのデート・コンシェルジュ「Forky」
マッチングアプリを中心とした出会いや婚活を紹介するメディア「マッチアップ」を運営するParasolは、男性に向けたデートコース提案サービス「Forky」を紹介した。
ピッチを行った「マッチアップ」編集長の伊藤早紀氏によると、マッチングアプリの普及によって出会いの機会は増えたものの、初対面の相手とのデートは難易度が高く、その後の関係発展につながらないというケースが増えているそう。
そこで「Forky」では、デートのプロがユーザーや相手の女性の情報、予算などをヒアリングし、おすすめのレストランやデートコースを紹介するサービスを展開。デートでおすすめの席やメニューなど、ネット上にはないような情報までユーザーに届けるほか、身だしなみなどのアドバイスもする。
SMEとの協業として、デート向きのライブやイベント情報の発信、SMEアーティストの楽曲の中からデートにあったプレイリストの作成などを検討しているという。
伊藤氏は、「メンタリング期間中にSME社員の皆さんから俯瞰(ふかん)したアドバイスをいただく中で、当初は想定しなかった方向にサービスを進化させることができました。恋愛とエンタメは親和性が高いので、今後もいろいろな可能性を探っていきたいです」と語った。
インフルエンサーのオリジナルブランド作りをサポート「picki」
独自の世界観を持ち、ファッション分野で活躍しているインフルエンサーのオリジナルブランド立ち上げや、EC販売をサポートするプラットフォーム「picki」。
同社ではブランドの立ち上げからイメージの共有を図り、アドバイスを行う。また、アパレルのOEM事業を手がけているため、中国の工場と業務提携をしているほか、自社にデザイナー、マーチャンダイザーも在籍。そのため、企画から生産、販売、物流まで一貫した体制で、インフルエンサーのブランドをプロデュースすることができる。1ブランド50着からの小ロット製作にも対応可能だ。
山口裕生氏はENTXのプログラムの中で、SMEのプロデュースノウハウから学んだという。
「ファッションも音楽も、アーティストをプロデュースするという点は同じ。インフルエンサーの世界観をファンの方にどのように届けるか。どのようにコミュニティを運営するか。SMEさんのノウハウを参考にさせてもらいました」
現在は8つのブランドを展開し、Instagramなどでファンの行動を分析。それをブランドプロデュースに生かしている。将来的には、100人のインフルエンサーと100個のブランドを作ることを目指しているという。
エンタメが変わる瞬間の、目撃者になる
寸劇を交えてユーモラスに発表したチーム、音楽と動画で観客を引き込んでいくチームなど、スタートアップ5社は自社の特色を出した個性あふれるピッチを披露。「ENTX2019 DemoDay」自体が、ひとつのエンタテインメントになっていた。
発表後は審査員からの鋭い指摘が投げかけられたが、各プレゼンターは自信をみなぎらせた表情で明確に回答した。その姿からは彼らが3カ月間、自社の事業をとことん考え抜いてきたことがうかがえる。
そして、迎えた表彰式。
「最優秀賞」に輝いたのは、定額制フィットネス音声ガイドアプリ「BeatFit」を手がける株式会社BeatFit。
音源を利用したフィットネスコンテンツや声優とのコラボレーション、アニメやゲームとのタイアップトレーナーのエージェント事業など、今後SMEとの事業接点が多く見込まれることが評価された。
既に多数のコアファンを抱えており、SMEとの協業によりさらなるグロースが期待できる。
「ベストグロース賞」には、モバイルオーダーのCRMプラットフォーム「ダイニー」を手がける株式会社diniiが選ばれた。
SMEがエンタテインメントパートナーを務めるプロバスケットボールリーグ・Bリーグの実際の試合会場でPoCを実施するなど、プログラム期間内でサービスに対する検証が進み、大きな進展があった。
スタートアップにとってはSMEとの協業のチャンスを得られることに加え、圧倒的な成長を遂げる貴重な機会となったENTX。
今回参加した5社はこれからどのように課題を乗り越え、事業を展開させていくのか。そして、SMEとの協業によってエンタテイメントの可能性をどのように切り開いていくのか。
彼らのサービスが世界を変える日は、そう遠くはないのかもしれない。
(デザイン:小鈴キリカ 構成:村上佳代 編集:野垣映二 写真:八田政玄)
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