2030年エネルギー課題解決に向けて、出光興産【3つの挑戦】が始まる

2020/2/6
出光興産にとって2020年は勝負の年となる。昭和シェルとの統合後、初めて発表された中期経営計画ではサステナブルなエネルギー共創企業としての姿勢を改めて打ち出した。2030年に向けて出光興産を支える「3つの方針」を、木藤俊一社長のメッセージとともにお届けする。

「地球環境が主語」の事業ポートフォリオ

木藤俊一:出光興産代表取締役社長。2011年執行役員経理部長、2013年取締役兼常務執行役員経理部長、2014年常務取締役、2017年副社長。2018年社長に就任。
出光興産は2019年の4月に、昭和シェルとの経営統合をスタートさせました。
新体制でのボードメンバーを中心に議論を重ね、つくりあげたのが今回の中期経営計画です。
化石燃料を主力に扱っている企業として、昨今の地球環境問題に対する意識の高まりというのは無視できません。この大きな流れのなかで、企業としても、地球環境や持続可能な社会への貢献を大事にしなければならないということが基盤となりました。
まず、パリ協定の目標期限でもある2050年が、いったいどんな時代になっているのか。そのなかで、エネルギーを取り巻く環境はどうなっているのかを、地球環境を主語にして想定することから始めました。
30年後ともなると、エネルギーをふくむ環境変化や、人々の生活のシナリオが世の中には複数存在します。今回の中期経営計画作成に当たり、新体制のメンバーで、合宿もしながら聖域なく相当な議論を重ね、実際に手を動かして考えたということも意義深いこととなりました。
そこからさらに2030年という近未来をマイルストーンとしてビジョンを打ち出し、2020年から2022年までの3年で実施する具体的な3つの「重点課題」を作成し事業施策に落とし込みました。
それが「収益基盤事業の構造改革」「成長事業の拡大」「次世代事業の創出」の3分野です。

企業の土台となる「基盤事業」を改革

まずは、石油事業を中心とした「収益基盤事業」の構造改革です。
人口減少や高齢化、省燃費車の普及にともない、ガソリンの需要は少しずつ減っています。そこに販売業者間の価格競争が激化した影響もあり、サービスステーション(以下、SS)の数は、6万店舗を超えていたものが現在は3万店舗ほどです。
ですが、台風や大雨など自然災害が多発するたび、SSの存在は見直されています。
災害に対応できる住民拠点SSは自家発電設備を持っているので電気を供給できます。また、安定的に給油できれば、車を発電機代わりとして使えて、スマホの充電もできるし、暖をとることもできる。しかし、SSの数が限られると需要に追いつきません。
そうしたSS減少のあおりをもっとも受けるのが、地方都市です。車社会にもかかわらず過疎化が進み人口が減ると同時に、SSの数も減少しています。その一方で、地方都市こそSSが必要とされています。

エネルギーのベストミックスを目指す「成長事業」

次は、現在も手掛けている領域を強化する意味として、「成長事業」の拡大です。
たとえば、海外で需要が伸びている潤滑油や機能化学品。高機能プラスチックは、EV(電気自動車)や軽量化のための金属やガラスの代替品として必要とされます。
また、スマホや有機ELテレビに欠かせない電子材料。これは、石油由来の有機合成の技術からきています。30年ほど力を入れてやってきて、かなりのシェアがあるので、事業としても大きくなってきました。
ここをさらにしっかりと力を入れて材料を開発し、供給していきます。現在韓国と日本に工場がありますが、2020年に中国工場も稼働します。
他にも、先日、吉野彰さんのノーベル賞受賞が話題となったリチウムイオン電池の次世代型として期待されている全固体電池向けの固体電解質など、石油とは少し色合いの違う事業にも注力しています。
もうひとつの大きな事業でいうと、再生可能エネルギーを始めとした電力事業です。
昭和シェル時代から続けてきたソーラーパネルの製造、販売事業に引き続き注力、拡大しながら、地熱や風力、バイオマス発電など、出光として既に力を入れていた領域を加速させていこう、と。
この世にオールマイティーなエネルギーはありません。一つひとつの事業は決して大きくはありませんが、多様な電源開発で、エネルギーのベストミックスを模索したいと考えています。

さらに先を見据えた「次世代事業」

これからの時代、どんな劇的変化があるかわかりません。そのなかで、社内にしっかりと次世代の事業をリードする部署を組織としてつくり、専任の社員を配置し、必要によって社外から有識者を招いてノウハウを蓄積していこうと決めました。それが「次世代事業」領域です。
具体的には、2019年10月にビジネスデザインセンターという、先ほど基盤事業でも申し上げたSSの新たな業態開発を模索する部署を設立しました。
SSという既存のインフラを高度化し、新たなモビリティーネットワークとして付加価値を提供して地域になくてはならない存在になることを目指し、クルマにまつわることだけでなく、地域に根ざしてホテルや観光業などのライフ領域を支えます。
飛騨市、高山市では超小型EV7台を利用し、カーシェアリング事業の実証を開始しています。
あとは、サーキュラービジネスです。廃プラのリサイクルであったり、カーボンリサイクルであったり。CO2固定化技術も注力しています。CO2を大気に排出するのではなく、固定化、あるいは金属分と混ぜてコンクリートの原料にするとか、さまざまな技術を事業化できるように推進していきます。

そこに「大義」はあるか

こうした3つの方針で事業を展開すると表明しておりますが、根底にあるのは、環境もふくめた社会への貢献を企業としていかに果たしていくかという観点です。
新しい事業、取り組みを進める際にこだわるのは、「大義があるか」ということ。
つまり、社会にニーズがあり、貢献できることか。人が介在し活躍する場があるか。
従来から出光興産も昭和シェルも、「人の力」に非常に重きを置いてきました。「企業は人」という理念を持つ企業同士なんです。人をどう育て、活かすかというのを非常に大事にしています。
これからどんな時代がこようとも、そのときに人さえ育っていれば、サステナブルな企業であり続けられるはず。私自身は、30年後や50年後の事業をつくることはできません。ですが、その時代に向けた「人」を育てることはできます。そこに強くこだわりを持って、3つの事業領域を成長させていきたいと考えています。その思いが、「人は無限のエネルギー」という企業メッセージに込められています。
(取材・執筆・編集:川口あい、撮影:小島マサヒロ、デザイン:岩城ユリエ)