【北野✕休日課長】自分の意思で“希望を創る”のに必要なこと

2019/12/30
12月22日、学生のための新メディア「HOPE by NewsPicks」の主催により、学生限定の大規模イベント「HOPE Day」が開催された。同世代の仲間や尊敬できる大人たちと出会い、「働き方」を超えた「生き方」に向き合うべく、全4セッション・2つのワークショップが実施された同イベントの冒頭を飾った、オープニングステージの内容をお届けする。

どの未来も「成功する」と仮定したら?

大澤 今日のテーマは「自分の意思で“希望を創る”のに必要なこと」です。
 休日課長さんは、もともと大手電気機器メーカーで会社員として働いた後に、ミュージシャンに専念することを選択してデビューされたんですよね。
休日課長 はい、3年間勤めました。最初はノー残業デーの水曜日と土日を利用してバンド活動を始めたんです。
大澤 一方、北野さんも新卒で博報堂に入社したあとにアメリカに渡った。
 きっと、お二人は「この道は安定してそうだけど、あの道に進んだ方が面白そう」という決断をしたのではないかと思います。なぜその決断ができたのか?
休日課長 これは僕の上司の言葉なんですけど、会社を辞めるか悩んだときに、上司と飲みに行って相談したんですね。すると、「もし10年後、悩んでいる2つの道どちらでも成功しているとしたら、どちらを選ぶ?」と言われて。
 もしどちらも成功していたら、と考えたら、明らかにミュージシャンでした。
 会社員になって3年が経った頃、安定やお金に対しての執着がなくなったんですね。お金ってそんなに必要? って思うようになって。
 このまま会社員として安定した収入を得る未来は想像できるけど、それに自分の人生を左右されるのはどうかな、と。
大澤 とはいえ、会社員とミュージシャンで比較すると、不安を感じそうなものですが。ミュージシャンとして成功できるかどうかは考えませんでした?
休日課長 会社員としても成功できるかはわからないから、そこで悩んでも仕方ないなと(笑)。
 会社の中で生き残るのもサバイバルだと思ったので、会社にいるから安心だとは考えませんでした。そこはかなり冷静でしたよ。
北野 僕は働き始めて3年が経ったころ、会社帰りの電車の中で急に涙が出たんです。
大澤 え!?
北野 仕事はそこそこ楽しんでいたんですが、心の深い部分では、これは自分の生きたい人生じゃない、魂が燃えていない。このままだと後悔すると思ったんです。
 そこで、本屋に駆け込んで自己分析の本を手に取りました。大人になると自分のことを振り返らなくなりますからね。
 その本ですごく良いきっかけになったのが、「あなたが心からワクワクする写真やイメージを挙げてください」という問いでした。休日課長さんなら、直感的に何を挙げますか?
休日課長 うーん、「僕の家のキッチンで料理をつくる彼女」ですかね(笑)。
北野 いいですね(笑)! 僕が直感的に思い浮かべたのは、スティーブ・ジョブスがスタンフォード大学の卒業式で学生に向けてスピーチをしているシーンだったんです。
 なんでそのシーンを面白いと思うのか、掘り下げて考えてわかったのは、ジョブスは知識ではなく体験を話しているから面白いということ。
 ジョブスはビジネスを作って失敗して、大切な仲間を失い、それでも這い上がって復活しました。
 僕も同じように、死を目前にしたとき若い人を目の前に、「自分の体験を語れる人生」を送りたいと思ったんです。
 大きな会社の中にいてその道を探すのか、英語が全く話せないのにアメリカに渡って新しい挑戦を模索するのか。
 60歳になったとき、どちらの話が若い人に希望をもたらせるかを想像したら、それは後者だと思ったので、アメリカに行くことを決断しました。
 この経験から学んだのは、人生で唯一最大で後悔するのは「好きなのに好きと言わないこと」なんですよ。
 恋愛もそうですよね。あるいは、仕事も家族もそう。大切なのに大切と言えずに、両親が亡くなった、とか。
 自分に好きなものがあっても「こうあるべき」という“べき論”や、「恥ずかしい」とか感情に流されてしまうと、後悔の道を辿ってしまう
休日課長 好きなことの肯定ってしづらいですよね、好きだと言いにくい世の中ですし、SNSも否定の方が簡単です。
 好きだと肯定するのは勇気がいりますが、それはすごく大切なことで、そうしないと人生を前に進められない。僕も同じことに20代後半で気づけたのは良かったと思っています。
北野 だから、よく社内でも選択肢から「絶対に嫌いなもの」は最初から省くようにと話しています。
 絶対に嫌いなものを選んでしまったら、いくら合理的な理由を後から付け加えても、後悔は訪れる。好きなものを「好き」と言える勇気が必要ですね

「好き」から自分を掘り下げる

大澤 意思決定をする際に何を「考える」のかを伺いたいのですが、お二人は就活をする際、どんな考えで会社選びをしたのでしょうか。自己分析は軸になりました?
休日課長 僕は先輩から「就職の面接は早くから受けろ」と言われたので、かなり早いタイミングで受けに行きました。
 だからかもしれませんが、全然ダメだった僕に対して面接官が優しくフィードバックしてくれて。そこから時間をかけて自己分析をしました。
 なんでこの会社を受けたいのか、なんでこの会社で活躍できると思ったのかを整理していくと、「僕はなんでカレーを作るのが好きなのか」という趣味にまで思考が及んで
 学生の頃は、スパイスの分量をエクセルにまとめていたほど、カレーの自作が好きだったんです(笑)。
「カレー作りの何が好きなんだろう」「自分のどんな特性がカレー作りあっているんだろう」と言った風にカレー作りから自分を掘り下げていきました。
 それによって、「僕はこの会社を好きかもしれないこんな仕事も好きかもしれない」「僕の特性はこういった仕事に役立つかもしれない」というのがわかるようになり、それが軸になって、可能性が広がりました。
大澤 趣味から自己分析をしたのですね。給与や知名度で選ぶことはなかったですか?
休日課長 自分のなかに軸ができるまでは、給与と社員の勤続年数は結構見ていましたね。今考えると、勤続年数が短いからといって、一概に悪い会社とは言えないのに。
大澤 自分の軸ができたことで、数字に振り回されない意思決定ができるようになった。
北野 就活中ではないのですが、僕の場合、意思決定の基準として参考にしているのは、ジブリ作品の「労働と食事の法則」です。僕は20代のときに脚本を習っていたので、映画の脚本を分析していた時期があって。
 ジブリ作品には、労働を伴う食事は善であり、労働を伴わない食事は悪であるという法則があります。
 仕事に失敗すると食事が喉を通らないけれど、仕事がうまくいくようになったら食事を楽しめるようになった主人公や、無銭飲食をして豚になった両親のお話がありますよね。
 それって人生そのもので、目標に向かって頑張った結果、その対価としてお金をもらい、仲間と食事ができる。
 そして、その仲間は、いずれ人生を豊かにする親友になる。ジブリ作品は人生そのものだから人の心を動かすのだと思います。
 そこでいうと、2ヶ月前に肺炎になりかけて、仕事ができない状態が続いたんです。その間は何も楽しくなかったけれど、復活したとき「ああ、やっぱり仕事は面白いな、仲間は人生を豊かにするものだな」と実感しました。

覚悟を決めたら「絶望」は「希望」になる

大澤 意思決定をしたら次は「挑戦する」。挑戦と失敗は表裏にあると思います。先ほど、絶望というキーワードがでましたが、失敗はどう捉えていますか?
北野 僕、『転職の思考法』や『天才を殺す凡人』など本も書いているのですが、物語を作るときって砂漠の上に城を作るようなものなので、もう一度同じことをやろうとすると絶望を感じます(笑)。
コンテンツは「嫌い」と言われたら終わりですが、休日課長さんはそれにどう向き合っていますか?
休日課長 僕は好きなことをやっているので、人にどう言われるかはあまり気にしないです。ただ、「自分で自分をいじめている」感覚はありますよ。それこそ、毎回絶望しながら取り組んでいる感じで。
でも、絶望を乗り越える方法が見えれば、それはHOPEになります。絶望の次には希望がある。絶望が期間になっちゃうと辛いから、絶望から希望に変えるサイクルをなるべくクイックに、絶望を点にしていくイメージです。
北野 一度絶望しても「やる」と覚悟を決めたことは途中でやめないから、希望につながるんですよね。
大澤 挑戦の先には絶望があるけれど、そこで覚悟を決めたら希望が待っている
休日課長 そう、だから絶望に出会うと嬉しくなります(笑)。その先に希望があることを経験しているので。
北野 僕は、もし他の人と違うオリジナリティが欲しいなら、人生のどこかのタイミングで「孤独になる期間を持つことを決めろ」という話をよくしています。
 他の人と同じことをやっていてもオリジナリティはないけれど、周りからバカにされても一人で井戸を掘る時間を持つと、いずれオリジナリティになる、と。
休日課長 「井戸を掘る時間」が、絶望しても覚悟を決めて挑戦する時間というわけですね。
 一方で、何をやるかでいえば、なんとなく好きだと思うこと…例えば趣味とか…をヒントにして「自分はなぜそれが好きなのか」を考えると入りやすいと思います。「なんとなく」を明確にしていくイメージ。
 失敗しても死ぬわけじゃないし、失敗した分だけ「こうしたら失敗する」というセオリーがわかるようになる。だから、恐れず覚悟を決めて挑戦してほしいですね。
大澤 挑戦の成功確率を上げるために、「誰と」やるのかと「何を」やるのか、どちらを大事にしますか?
休日課長 「誰と」やるのかです。僕は自分の役割を変えることにまったく抵抗がないので、自分が「何を」やるかより、「誰と」何をやるかが大事ですね。
北野 僕も同じです。スタートアップに転職したとき、「この人となら失敗して会社が潰れても後悔しない」と思えた人がいました。
 大事なことは、人生をかけていいと思える仲間は、尊敬する遥か年上の人ではないということ。同期や同年代の仲間なんです。
 つまり「誰と一緒に働きたいか」ではなく、「誰と一緒なら、この船を漕いで溺れたとしても後悔しないか」なんですよ。
 今日、この会場に集まった学生さん同士も、きっとそういった存在になれるはずですよ。

大企業アルムナイ(卒業生)と学生の対話

──会場ではメインセッションのほかに、330万人が利用する社員クチコミサイトOpenWorkの協賛による特設ブース「Open Lounge」が設置され、「大企業アルムナイ(卒業生)」と対話できるグループワークも実施された。
 参加した学生たちは、通常のOB/OG訪問等では出会えないような多彩なキャリアを持つ社会人と本気で向き合った。
 1人のアルムナイの周りを10名前後の学生たちが囲み、積極的な質問と対話でアルムナイの人生を紐解いていく。
 アルムナイがこれまで、何が大事だと考え、意思決定を下してきたのか。どうやって自らの意思で生き方を選び、キャリアチェンジを行ってきたのか。
 グループワークの最後には、学生たちがアルムナイのキャリアと、その時々にどのような意思決定をしたのかについてプレゼンした。
 また、働きがいのある企業100社の社員クチコミが読める「社員クチコミ図書館」の展示も行われ、キャリア選択のヒントになる本音を熱心に読み込む学生が続出した。
 約400人の学生が「行動のきっかけ」に出会った本イベントは、Twitterでハッシュタグ「#HOPEDay」の投稿が900件を超え、TOKYOトレンド1位を獲得するなど、SNS上でも大いに共感を集めた。
 次世代を創る若者たちが、自らの生き方を通じて「希望を創る」ことを語り合う。そんなポジティブな熱気と可能性に溢れたイベントとなった。
(取材・編集:田村朋美 撮影:岡村大輔、小林由喜伸 デザイン:岩城ユリエ)